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第32話 勇者パーティー、遭難する(勇者視点)


(三人称視点)


 聖剣ダーインスレイヴから放たれたエネルギーは、狂精霊もろとも周辺を吹き飛ばし、勇者達はコボルトの包囲から抜け出すことに成功していた。

 だが、その代償は大きかった。


「完全に、道に迷ったニャ……」


 勇者一行はコボルトから必死に逃げ回った結果、帰り道どころか現在位置まで分からなくなっていた。シテンの痕跡も見失ってしまった。

 さらに逃げる際の混乱でなけなしの荷物も紛失してしまった。ヴィルダは自身の得物である杖をなくし、僅かな食料や金銭も失った。


 そして勇者パーティーはもはや、戦える状態ではなくなっていた。

 聖剣からエネルギーを放出する行為は、使用者の体力をかなり消費するのだ。

 そこから全力で逃走を続けたイカロスは体力の限界に達し、既に一歩も動くことが出来なくなっていた。

 狂精霊の攻撃を食らったヴィルダも未だ目覚めず、また彼女を背負って逃げ回ったチタも体力が尽きていた。


 今の状態で他の魔物に襲い掛かられたら、今度こそ犠牲者が出る。

 そう確信したチタは意を決して勇者イカロスにある提案をした。


「イ、イカロス。今の状況は、もうアタシ達だけの力じゃどうしようもないニャ。だから、アタシが他の冒険者を呼んでくるニャ。アタシはまだ動けるから、他の冒険者に助けてもらっ――」


「ダメだ」


 チタの提案は、にべもなく却下された。


「ミノタウロスにやられた時、シテンがしたことをもう忘れたのか? あいつは他の冒険者の前に俺たちを差し出して、笑いものにしやがったんだ。俺は死んでも他の冒険者の手助けは借りないし、助けも求めない。もう二度とあんな屈辱を味わうのはゴメンだ」


「でも、もう戦える状態じゃ――」


「お前、実は自分だけ逃げだすつもりなんじゃないか? 他の冒険者を探しに行くフリして、俺たちを置いてけぼりにするつもりなんじゃないか?」


「そ、そんなことしないニャ……」


 イカロスは苛立っていた。自分の思い通りに進まない展開に。見下していた相手から足を掬われた事に。

 その苛立ちの矛先が、パーティーメンバーに向けられていた。


「だったら、俺の傍を離れるな。俺もヴィルダも直に回復する。それまでお前は魔物が来ないか見張りをしてろ。……今度見張りをしくじったら、シテンの前にお前を殺してやるからな」


「…………」


 イカロスから冷たい言葉を吐き捨てられ、チタは内心で急激に冷めて(・・・)いくのを感じていた。

 他の冒険者を探しに行く提案をした時点では、チタは本当にイカロス達を見捨てるつもりは無かった。だが今はイカロスから離れたくて仕方がない気持ちだった。

 そもそもイカロスは聖剣の力を発揮した時、チタとヴィルダもろとも巻き込んで攻撃したのだ。

 チタがヴィルダを庇ったので大した傷は負わなかったが、その後包囲網から逃げ出す時も、イカロスはヴィルダに目もくれなかった。あの時自分がヴィルダを拾わなければ、囮として見捨てるつもりだったのかもしれないと、チタは密かに考えていた。

 そもそもこの事態を招いたのはイカロスの軽率な判断が元なのだ。前回の敗北の時もそうだったし、今までも実は何度かそういった場面はあった。だが一度もイカロスから謝罪を受けたことは無く、未だに俺は悪くないと自己弁護している節があった。

 勇者の指示に従いつつも内心で毒づき、同時に勇者パーティーの一員である自分がなぜこんな惨めな目に遭っているのかと、自身の境遇を嘆いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 嘆いていたとか自業自得だろ 何被害者装ってんだよ
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