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第27話 鑑定士シア


「あ、やっぱり! 噂の鑑定ちゃんだよ、こんな所で何してるの?」


「……シア、知り合い?」


「えっと、贔屓にしてくれているお客さんです」


 ということは、シアの鑑定屋のお客さんか。

 見たところ、女性二人の肉体はそれなりに鍛えられている。どうやら冒険者のようだ。


 そうして観察しているうちに、シアと二人の女性の間では、僕を置いてけぼりにして話が進んでいた。


「あれ? そっちの男の人はお連れさん? もしかしてデート中だった?」


「ありゃ、お邪魔しちゃったかな?」


「デッ……いや、えっと、あの、そのっ!」


 ……僕ら二人を見て、カップルだと思ったらしい。

 しかし、そう言われて悪い気分ではない自分が居る事に気付いて、内心少し驚いてしまった。


「……今日はシアの付き添いです。ちょっと買い物を」


「そ、そうなんです!」


 さっきまで顔を真っ赤にして慌てていたシアも、僕の言葉を勢いよく肯定した。


「ありゃ、残念。鑑定ちゃん可愛いから、彼氏が居てもおかしくないと思ったんだけどなぁ」


「か、かわっ……あの! 鑑定ちゃんって呼ぶのやめてください! そのあだ名すごく恥ずかしいので!」


 女性二人に翻弄されて慌てふためくシア。うん、確かに可愛いな……

 彼女たちの言う事も分かる気がする。


 にしても、『鑑定ちゃん』か。そんなあだ名が広まるくらいシアのお店は冒険者の間で人気なんだろうな。冒険者ギルドで鑑定する時と比べて、手数料が格安だし。


「あ~ごめんねシアちゃん。次からは気を付けるから」


「じゃあ私達行くね~、また鑑定屋に寄ると思うから、その時はよろしくね!」


 そう言って二人組の女性冒険者はそのまま去っていった。まるで嵐のような人達だったな……


「うう、一体誰があんなあだ名を広めたんでしょう、すごく恥ずかしいです」


「お互い苦労するね……」


 シアの場合はその容姿が原因だろうから、噂を完全に止めるのは難しいかもしれないな。


「逆に言えば、それだけシアのお店が人気って事だよ。冒険者の間で話題になるってことは、それだけ人気や需要があるって意味だと思うな」


「そ、それはそうなんですが……」


 ……シアのお店か。

 お店とは言ったが、彼女はソフィアとは違って実店舗を構えている訳ではない。

 地面に敷物を敷いて、簡素な机と椅子を置いただけの露店と言うべきだ。

 大抵は迷宮の入り口近く、表通りから少し外れた人通りの少ない場所で鑑定屋を開いている。ただ、開店は不定期に行なっているようだ。


 ……今日みたいに店を空けていない日は、シアは普段何をしているんだろう?

 思えば、彼女が普段どう過ごしているのかあまり聞いたことが無い。

 彼女と出会ったのは僕が勇者パーティーに加入した後だもんな。

 未だ悶えているシアの気を紛らわせる意味も含めて、この機会に尋ねてみることにした。


「シア、話は変わるんだけど、今日みたいに店を開いていない日とか、普段は何してるの?」


「え? 私の普段の行動、ですか?」


 シアは少し考えるように頬に指を当てた後。


「色々ありますが、主にアルバイトでしょうか。私のお店は利益重視で開いている訳ではないので、生活費を稼ぐために商会でお手伝いをさせてもらっています。その隙間時間に鑑定屋を開く、という感じですね」


「そうなんだ……利益重視じゃないなら、シアはどうして鑑定屋を開いたの? それだけの鑑定スキルの腕前があれば、冒険者ギルドの鑑定人として働くっていう道もあるよ」


 質問してから気づいたけど、思ったよりシアの事をよく知らなかったな。

 孤児院に来る前の話とか、お店を自分で開いた理由とか。


「う~ん、色々と理由はあるのですが……情報集めの一環、でしょうか。あとは自分のスキルを活かした仕事をしたかったというのもあります。冒険者ギルドはちょっと……冒険者の方がたくさん集まった時の喧騒や緊迫感が、どうにも慣れないんです」



 ……肝心な部分をぼかされたような気がするが、これ以上詮索するのは止めておくことにした。

 誰だって聞かれたくない事情はある、孤児院の子供達なんかは特に。


「あー、確かにあの雰囲気は苦手な人が多いかも。あそこで働くって考えたら、僕もちょっと嫌だな……イヤな上司とか居そう」


 まあ実際居るんだけどね。某支部長とか。


「シテンさんもそう思いますか? あそこで働いている受付嬢さんを見ると、凄いなぁって感心しちゃいます」


 シアも落ち着いたのか、すっかり普段通りの態度に戻っていた。

 もう大丈夫そうだな。


 その後もしばらく世間話を続けながら歩き、特に何事もなく孤児院に着いた。

そこで僕らは、夕食を食べることになった。

 最初は断るつもりだったんだけど、前回も断った負い目があるのと、シアの言葉で押し切られてしまった。


「シテンさんは孤児院に気を遣いすぎです。もっと気楽にしてくれていいんですよ? 私たちは家族なんですから」


 おまけに小さな子供達にご飯を一緒に食べようとせがまれては、お兄ちゃんとして断るわけにはいかなかった。


 あれから孤児院には特に大きなトラブルも起きていないようだ。何度か不審者が近づいたような事もあったが、冒険者ギルドが配備している憲兵の見回りを強化してもらい、事なきを得たようだ。

 ……念のため、もう少し様子を見ることにする。しばらく孤児院の近くに怪しい人影が無いか確認してみよう。


 久しぶりにシアも含めて家族と過ごす一夜は、とても楽しかった。

 僕の頑張り次第で孤児院の存続がかかっていると考えると、迷宮探索にも力が入るというものだ。

 追放されてからようやく立て直した所だし、この調子で頑張るとしよう。


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