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第21話 そして、僕は冒険者となった


 予想外のアクシデントを乗り越えて無事に地上に帰ってきた、その翌日。

 僕は今日もソフィアの錬金工房にお邪魔していた。


「よし、準備完了!」


 目の前には容器に入った『石化解除薬』が幾つも並んでいる。

 そう、今日は狂精霊の核を使って生産した、ローコスト版石化解除薬を売り出す日なのだ。

 今日は開店の準備を手伝うためにここに来たという訳だ。


「……探索明けなんだから、宿でゆっくりしてても良かったのよ? 開店準備くらい私一人で出来るんだし」


「それを言うならソフィアもでしょ。……実際にこの目で見ておきたかったんだ。僕の【解体】スキルで生まれた商品が、お客さんに受け入れてもらえるのか」


 解体スキルの裏技で手に入れた素材を卸したことは何度かあるが、それで新商品の開発に至ったのは初めての経験だ。

 きっと解体スキルが無ければ生まれなかったであろう商品。その行く末は、個人的にも興味がある。


「きっと大丈夫よ。薬の効能だって従来の物と遜色ないし、シアが頑張って宣伝してくれたんだから」



 そう、僕らが迷宮に潜っている間、シアが頑張ってこの石化解除薬の事を宣伝してくれていたのだ。昨日言っていた用事というのはこの事だった。


「にしても、貴方の名前を出さなくて本当に良かったの? 貴方の力でこの薬が生まれたって知ったら、みんな貴方のことを見直してくれると思うのだけれど」


「いや、このままでいいよ」


 ソフィアが言っているのは、僕の扱いについてだ。この薬を売り出すとき、僕の名前は公表しない様にお願いしておいた。

 表向きには、独自のルートで入手した代替素材を使って、通常より極めて低コストで作られた石化解除薬、という事になっている。嘘は言っていない。


「勇者が広めた例の噂のせいで、僕の名前が出るだけで拒絶反応を起こす人が居るかもしれないからね。発売前にマイナス要素は出来るだけ避けておきたいんだ」


 ソフィアの言う通り、僕の評価を見直してくれる人も居るかもしれないが、その逆の人も居るだろう。『死体漁り』が関わった製品なんてきっとロクな物じゃないって、いちゃもんを付けてくる輩がきっと現れる。

 何より勇者達が直接干渉してくる可能性もある。

 大事なスタートダッシュ、出来るだけ不安要素は取り除くべきだ。


「でも、多分ずっとは隠し通せないわよ。きっと同業者や冒険者ギルドもこの薬の製法を調べようとするだろうし、シテンの存在に行きつくのも時間の問題だわ」


「その時はその時だよ。僕の噂がおさまって、薬の売れ行きが好評だったなら、悪影響を最小限に抑えることが出来る。これはいわゆる時間稼ぎだよ」


「……分かったわ。しばらくはシテンの名前は出さないようにする。時期を見て、貴方と解体スキルの存在を公表するって事でいい?」


「うん、頼むよ」


 話がまとまった所で、いよいよ開店の時間が迫ってきた。

 さて、ここからが本番だ。



 開店の看板を立ててきてから、しばらくして。


店の奥で待機していた僕は、来客を知らせるドアベルの音を聞いた。


「……失礼する。ここに石化を治す薬が置いてあると聞いたが、相違無いだろうか」


 低い声。この男が本日最初に訪れたお客さんのようだ。


「――はい、置いてますよ。一つ金貨十枚になります」


「安いな、相場の十分の一以下ではないか。その薬、本当に効果はあるのか?」


「既存の物と遜色ありませんよ。この店の看板に誓って、粗悪な商品を販売したりはしません」


 あまりの安さにお客さんは少し怪しんだが、商品の説明や、なぜここまで低価格で提供出来るのかをソフィアが熱心に説明した結果。

 説得に押されたのか、男は石化解除薬を一つ、買っていった。


「――もしこの薬の効果が本物なら、これまでの常識を覆す、世紀の発明になるだろう。帰って早速確かめてみる事にしよう」


そう言って、男は店を出た。

その後しばらくは誰も来なかったが……開店から一時間もしたころ、様子が一変した。



「ここか!? 格安で石化解除薬を売ってる店ってのは!」


「俺のパーティーメンバーも石像になっちまったんだ、売ってくれ!」



さっきまでの閑散が嘘のように、次々とお客さんが店にやって来たのだ。



「すげえ、俺の腕が治った! 本当に治ったぞ!! この薬は本物だ!」


「金が無くて、ずっと石になったままの家族が居るんだ……これでようやく治してやれる」


「ありがとう! アンタは俺たちの救世主だよ!」



 薬を買ったその場で試す者も現れ、店内は騒然とした空気に包まれた。



「俺にも売ってくれ!」


「他にも困ってる仲間が居るんだ、もっと薬をくれないか!」


「ちょ、ちょっと落ち着いて! 薬はまだあるから、順番に並んでー!」



 今までこんなにお客さんが殺到することは無かったのだろう。焦ったソフィアが必死に整理を始めたが、もう素の口調が隠し切れなくなっていた。

 流石に傍観している訳にもいかず、ソフィアと一緒に次々やって来るお客さんを捌き続け……お昼になる頃には、石化解除薬は完売してしまった。


「す、すごい数のお客さんだった……ここまで人気が出るなんて予想外だった」


 息を切らしてぐったりとカウンターに寄り掛かるソフィア。

 既に玄関に品切れを知らせる看板を置いてきたので、これ以上お客さんが押し寄せてくることは無いだろう。


「結局お店の仕事まで手伝ってもらっちゃった……シテン、この分はちゃんとお給料として出しておくからね」


「――いや、大丈夫だよソフィア。お礼はもう、十分すぎるくらいに貰った」


「……?」


 僕の発言の意図が分からなかったのだろう、小さく首を傾げるソフィア。


 僕の頭の中では、石化解除薬を買っていったお客さん達の表情が、鮮明に焼き付いていた。

 皆、とても感謝している事が伝わってきた。

 これまでの人生の中で、あれだけ沢山の人に感謝された経験はない。

 ――あの、嬉しそうな顔を思い出す度に、胸の奥が熱くなっていくのを感じる。



「――僕は、ユニークスキルを発現した事に、これまで価値を感じていなかったんだ。好奇の目に晒されることはあったけど、あんなに人から感謝されたことは無かった」



「今日、ようやく実感したよ。僕は、僕のスキルは、ちゃんと人を助ける事が出来るんだね」




 両手を握りしめて、この日の事を絶対に忘れまいと強く決意した。

 同時に、僕の今後の道筋についても決まった。


 冒険者を続けよう。

 僕の解体スキルを最大限に活かせるのは、この迷宮【魔王の墳墓】に違いない。

 お金のためでも、孤児院の家族の為でもない。僕個人がやりたい事を見つけた。

 このユニークスキルを使って、多くの人を助けられる冒険者になろう。

 世界に唯一の、【解体】のユニークスキルを持つ僕にしか出来ない事をしよう。


「……よく分からないけど、なんか吹っ切れた表情してる」


「うん、とてもスッキリした。頭の中の霧が晴れたみたいだ」


 まずは、石化解除薬の追加生産をするために、狂精霊の核をまた集めないとだな。

 レッサーヴァンパイアから手に入れた素材で強力な装備を作れば、もっと効率的に狂精霊を倒せるようになるはずだ。しばらくは迷宮3層に通い続ける事になるだろう。


 他にもやることはまだまだあるが、一歩一歩着実に進んでいこう。

 まだ、僕の冒険者としての人生は始まったばかりなのだから。



これにて序章完結となります。

まだまだ物語は続きますが、ここで少し書き貯め期間を頂きたいと思います。

キリの良い所まで執筆次第、なろうに投稿していきます。


またカクヨム様でも同じ作品を投稿しております。こちらでは書き貯め期間を設けず、執筆が終わり次第順次投稿していきたいと思います。

今すぐに続きが読みたい! という方がもしいらっしゃれば、そちらをのぞいて頂ければと思います。


あと、ツイッターも始めました。毎日の執筆状況だったり、どうでもいいような呟きをするかもしれませんので、思い出した時に見て頂けると作者が喜びます。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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