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第2話 僕のこれから

 【暁の翼】を追放された僕は、迷宮都市ネクリアを宛もなく彷徨っていた。

 なにせ突然の追放だったので、このあとの予定など何も考えていない。

 今までパーティーの拠点で寝泊まりしていたので、そこを追い出された今、他に帰る場所もない。


「まさかこんな事になるなんて……孤児院のみんなになんて言えばいいんだ」


 僕は、この都市の孤児院で育てられた。

 身寄りのない僕に先生や子供たちは、まるで本当の家族の様に接してくれた。

 いつしか僕にとって孤児院のみんなは家族同然であり、唯一の居場所になっていた。


 だがある日、勇者イカロスが突然孤児院にやってきて、僕をパーティーに加入させると言い放った。

 訊けば、僕の持つユニークスキルの噂を嗅ぎつけて、貴重な人材を勧誘しに来たのだという。


 人は誰しも、『スキル』と呼ばれる能力を持つ。特定の技能を強化するものだったり、特殊能力を得るものだったりと、種類は様々だ。ほとんどの人は、十二歳を過ぎた頃に自然とスキルが目覚め、そこで初めて自分のスキルを把握するのだ。

 そして僕は何の運命か、『ユニークスキル』と呼ばれる極めて希少なスキルに目覚めていた。


 ユニークスキルとは、同じスキルがその時代に一つしか存在しない、という性質を持つスキルの事だ。

 例えば【疲労回復】というスキルは、同じスキルを持つ人がたくさん存在する、比較的ポピュラーなスキルだ。

 対して僕のユニークスキル【解体】は現時点では僕だけが持つスキルだ。恐らく世界中を探しても同じスキルを持つ人はいないはずだ。

 そしてユニークスキルの発現率も極めて低く、噂では世界に十人も居ないのだとか。


 だが、僕は戦闘経験なんてまるでない只の子供。持っているスキルがレアなだけで、果たして勇者パーティーに勧誘されるものだろうか?

 そう内心疑念を抱いていたが、孤児院の子供たちは、とても名誉なことだと素直に喜んでくれた。

 それに勇者直々の勧誘とあっては、ただの孤児である僕が断れるはずもなかった。断れば、勇者の顔に泥を塗ったことになるからだ。僕のわがままで、孤児院の立場を悪くするわけにはいかなかった。

 それに悪い話ばかりでもない。ちゃんと冒険で得た報酬の分け前をくれるらしいので、経済的に苦しい孤児院への仕送りが出来るようになるのだ。そしていずれ勇者パーティーの一員として僕が力と名声を得れば、孤児院を支えることだってできるかもしれない。


 そうして僕は勇者イカロスの誘いを承諾し、【暁の翼】へと加入したのだ。



 そして孤児院を卒業し、半ば強制的に冒険者への道を歩み出した僕に待っていたものは、パーティーの雑用係としてこき使われる日々だった。


 拠点の清掃、装備の手入れ、ギルドに提出する書類の用意。迷宮探索に必要な備品の管理と、食事や洗濯など家事全般、戦利品の処理、迷宮内での荷物持ち。果てはパーティーの財政管理から、体をほぐすマッサージまで。


 僕は言われたことは可能な限り全力でこなした。最初は雑用係からのスタートで、次第に戦闘に参加できるように稽古をつけてくれるという話だったから、過酷な労働とはいえ文句はなかった。


 だがいくら経っても勇者達が稽古をつけてくれる気配はなく、戦闘への参加や支援も一切許されなかった。


 ――後になって気付いたことだが、勇者達は皆、『戦場では自分たちが主役で最強。敗北なんてありえないので、部外者の助けなど必要ない』と考えている節があった。

 だからなのか、戦闘に干渉されることを極端に嫌い、僕だけじゃなく他の冒険者からの戦闘中の支援や援護も拒絶していた。


 当時の僕はそんな事を全く知らず、与えられるのを待つだけじゃダメだ、と考え、自主的に戦闘技術を学び始めた。

 勇者達の戦い方を見て体の動かし方を覚え、休みの合間を縫って迷宮に潜り、実戦経験を積んだ。解体スキルを活かした戦い方も身に着け、派生スキルも習得して色々なことが出来るようになった。


 だが、イカロス達が僕への扱いを変えることは無かった。訓練の成果を見てほしいと頼んでも一蹴され、成長した僕の実力を披露する機会すら与えられなかった。

 この頃から、最初から僕をただの解体係、兼雑用係として使いつぶすつもりで引き抜いたのではないかと疑念を抱くようになった。


 パーティーに加入してから三年が経っても、僕は雑用係のままだった。そんな僕に対し暁の翼のメンバーは、今まで感謝や労いの言葉を投げかけたことは無かった。

 それどころか、僕を下賤なみなしごと蔑み、少しでも気に入らないことがあると容赦なく暴力を振るった。

 公の場では良い顔をしているものだから、表向きには勇者の評判は良かった。そして暁の翼は順調に迷宮探索での成果を上げていき、遂にパーティーメンバー全員がAランク冒険者として認められた。……僕を除いて。

 冒険者ギルドには、僕の功績は評価されていなかった。イカロスが僕のことを、『戦闘に全く関わっていない、ただの荷物持ち』としてギルドに報告していたからだ。

 実際は僕の意思に関わらず、戦闘への参加が認められていないのだが、この時の僕は既に勇者たちに刃向かう気力はなくなっていた。

 勇者と僕、周囲がどちらの言い分を信じるかは明白だし、下手に楯突けば孤児院に危害が及ぶ可能性もあったからだ。

 そして勇者パーティーの中でも唯一のEランク冒険者となってしまった僕には、いつしか『勇者パーティーのひっつき虫』や、『死体漁り』なんてあだ名が付いてしまった。


 それでも僕は、孤児院の皆の生活を守るために、身を粉にして働いた。どんな理不尽な命令でも、どれだけ嘲笑われても、我慢してパーティーに貢献してきた。





 だが、結果はこの有様だ。

 僕は最後までイカロス達にいいように使われて、ゴミのように捨てられた。





「…………あ~~~~クソッ!!」


 昔の事を思い出していたら、だんだん怒りがこみ上げてきてしまった。周りの人の視線も気にせず、感情のままに言葉を吐き出してしまう。


「イカロスの奴、絶対助け求めてただろ! ちゃんと覚えてるぞ! 助けてーって! 情けない悲鳴上げてたのちゃんと聞こえてたぞ!」

「俺は助けなんか求めてないって? 勝手に救助するのは命令違反だからクビ? 僕が命令違反をしたから負けた?」

「ふっざけんな! いっつも馬鹿にしてる奴から助けられて、屈辱すぎて認めたくなかっただけだろ! それに俺が何もしなくてもお前ら負けてただろ! 瞬殺だったじゃないか! 敗北の原因を人に押し付けるな!」




 追放されたあの時、言えなかったことを、代わりに今この場所で洗いざらいぶちまけた。ここまで感情が昂ったのは久しぶりだった。


「…………。ふーっ」


 洗いざらい吐き出してスッキリしたせいか、頭が冷静になっていくのを感じた。

 思い返してみても、イカロスの言い分は無茶苦茶だった。

 だが今更どうすることも出来ない。身の危険があったとはいえ、僕は何も言い返せず、パーティーを追放された。これが事実で全てだ。

 気持ちを切り替えて、今後の事を考えるしかない。あいつらの事をこれ以上考えても時間の無駄だ。

 ……そうだ、もう勇者たちの世話をする必要はないんだ。これからは自分の事に時間を使っていいんだ。


 そう考えると少し気持ちが楽になった。

 よし、心機一転。ここからやり直そう。

 もう誰かの言いなりになったりはしない。自分とその家族を守るための力を身に付けるんだ。

 そのためにはまず何をする必要があるか……僕は過去を振り返る事をやめて、将来の事を考えはじめた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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