第108話 vsミノタウロス ⑥カタチ
(三人称視点)
(おかしい)
戦況は一方的だった。
ミノタウロスが一定の距離を保ちつつ、シテンに様々な角度から攻撃を仕掛け続ける。
影潜りを失ったシテンは回避に精一杯で、反撃に転じることができていない。
それでも、ミノタウロスの心中に生まれた疑念は徐々に膨らんでいく。
(なぜ避けられる? ここまで攻撃をして、一度も命中しないのはなぜだ?)
既に戦闘が開始して、数分が経つ。
しかし未だにミノタウロスの攻撃は、シテンを掠めるばかりで碌に命中していないのだ。
(さっきの戦いで、奴はかなり消耗していた。回復薬を使ったとしてもすぐに全快するはずはない。【完全解体】を使ってこないのがその証拠)
もしシテンが【完全解体】を使えるならば、ミノタウロスがどんな攻撃をしても意味はない。接触の瞬間に塵すら残さず解体されるからだ。
それをしてこないという事は、シテンは【完全解体】が使えない程消耗しているという事。
にも拘らず、一切攻撃が当たらない。
「ウオォッ!!」
シテンの死角から、高速で石槍が飛来する。
「【解体】」
しかしシテンはそれが分かっていたかのように、石槍を見ることも無く解体してしまった。
(まただ)
その光景を見て、ミノタウロスの疑念が一層強くなる。
(死角からの攻撃に対し、まるで見えているかのように反応している。さっきから何度もだ。後ろに目でもついているのか――)
そこまで思考を張り巡らせ、閃き。
ミノタウロスの脳内に電流が走る。
(目、視界、聖女)
そしてミノタウロスは、先ほどからシテンが庇うようにしている左腕を注視する。
――目立たないように金色の鎖のような物が巻き付いていて、シテンの足元の影に伸びていた。
(あれは確か、聖女二人を繋げていたマジックアイテム――! 間違いない、影の中に居るあの聖女が、何か手助けをしている!!)
ミノタウロスは、シテンが左腕を庇っているのは、先ほどの戦いで骨を砕かれたからだと思い込んでいた。
だが違う。シテンは折れた左腕を隠れ蓑にして、あの鎖を隠していたのだ。
(ならば、あの鎖を断ち切る)
ミノタウロスの標的が変化する。
それを、様子見に徹していたシテンは瞬時に察知した。
「シア、頼む」
紫電一閃。回避に徹していたシテンが、疲労を感じさせない俊敏な動きでミノタウロスに急接近する。
急激な動きの変化に、ミノタウロスは反応できない。
「チッ!」
「【解体】――【臨死解体】」
容易く懐に潜り込んだシテンは、即座にミノタウロスの片腕を切断する。
斬り落とされた丸太のように太い腕が、ゴトリと地面に転がった。
「ッ、まだそんな動きが出来たとはな……だが、無意味!」
ミノタウロスは即座に【輪廻転生】を発動。
斬り落とされた腕の部位を『前世の肉体』と定義し破棄。
そして断面から『今世の肉体』として新たな腕を新生させた。
――新たに生まれた腕は、まるで枯れ枝のようにやせ細っていた。
「――なにッ!!??」
「見えてるよ――お前の、魂の形」