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王国騎士物語  作者: らる鳥
五章 騎士として

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 それから五ヵ月後、僕はヴァーグラード地方を安定させる任務を終えて、アウェルッシュ王国の王都に帰還した。

 ヴァーグラードという名の国はなくなり、今ではアウェルッシュ王国の地域の一つとして、地図に名前を残すのみ。

 彼の国の吸収は、想像以上にスムーズに進んだ。


 というのも、元々ヴァーグラードの民はアウェルッシュ王国の騎士を強く恐れていたが、それは裏を返せばその強さを良く知っていたという事である。

 その強い騎士がこれからは自分達を守るのだと、巨人の討伐という形で示された結果、彼らは喜びと称賛でそれを受け入れた。

 もちろん巨人に襲われ、騎士に救われたのは一部の都市に過ぎなかったが、その事は口伝えにヴァーグラード中に広まって、騎士を歓迎するムードは高まったから。

 多くの騎士は巨人の討伐後にアウェルッシュ王国へと帰還したが、一部の騎士はヴァーグラードの地に残り、各都市を巡回し、彼らの声を聴き悩みを解決するという、地域を安定させる任務に就く。


 そして僕も、その任務でヴァーグラードに残った騎士の一人である。

 称賛の声を以て迎えられる事もあったし、疑いの視線を向けられる時もあったけれど、僕の働きで新しいアウェルッシュ王国の民の生活が安定し、王国への恭順が深まるかと考えると、実にやりがいのある任務だった。

 ヴァーグラードも北側は、かなり魔物の多い土地だったし。

 結局、最初に想定した形の戦争とはまるで違う物になったが、それでも今回の件は騎士として、非常にいい経験が積めたと思う。


 ただヴァーグラードの民の王国への恭順は順調だが、それでも問題は決して少なくない。

 まずは国内の話だが、新たに増えた領土を誰が統治するかという問題に、王宮は四苦八苦しているだろう。

 要するに領主をどうするのかって問題だ。


 貴族がヴァーグラード地方に領地を与えられた場合、それなりに広い地域が与えられる事になる。

 何故なら領主をできる貴族の数が、どうしたって足りないから。

 しかしその場合、元々のアウェルッシュ王国内にあった領地は召し上げられて、代替地としてヴァーグラード地方の領地を授かる事になるのだ。

 まぁ、アウェルッシュ王国としては新たな土地の統治に集中して欲しいのだから、当たり前の話だろう。


 だがずっと育ててきた領地、領民を手放す事に、前向きな貴族ばかりな訳じゃない。

 特に、自分の領地の周囲の貴族がヴァーグラードへと移動して土地が空くなら、そこを得て領地を広げたいと考える貴族も多かった。


 新たな土地へ行きたい、行きたくない、行きたくないから近くの領地をくれなんて陳情を、王宮は受け取り吟味し、どうやってヴァーグラードの領主を増やすか、悩んでる。

 もちろん地域の安定を考えれば、幾つかの武家も、ヴァーグラード地方に領地を持って欲しい。

 ただでさえヴァーグラードは地方はアウェルッシュ王国の王都から遠く、王宮の目が届き難い場所だ。

 貴族の好き勝手を防ぐ為には、重石として武家を配置する必要があるだろう。


 実際、僕もヴァーグラード地方に領地を持たないか、なんて話はあった。

 というか今もあるし、その事にはずっと悩んで迷ってる。

 僕が継ぎたいのは、アウェルッシュ王国にあるアルタージェ村で、見ず知らずの人が暮らす都市じゃない。


 あぁ、そう、領地として提示されたのが、巨人の討伐を行った都市、リステンヘンドなのだ。

 いや、都市って、統治できる訳がないだろうと、本気で王宮の正気を疑ってしまう。

 だがリステンヘンドからは、巨人の討伐に加え、ヴァーグラード地方に残って地域の安定に尽くしてくれた騎士に、どうしても都市を治めて欲しいって声が王宮に届いたらしい。

 そんな事を言われたら、統治は無理ですとか、物凄く言い難い。


 正直、良い話なのは間違いない。

 単なる正騎士が、都市一つ与えられるなんて、これまで考えもしなかった前例にない待遇だ。

 それに騎士としての任務がある以上、都市に留まり続ける筈もないのだから、統治は代官が行うだろう。

 まぁ問題は、その代官のあてが、僕にはないって事なんだけど……。


 代官といえば父さんで、助けて父さんってなるけれど、父さんを引き抜くとアルタージェ村が困るからなぁって、思考は最初に戻ってグルグルする。

 バロウズ叔父さんは、そんな僕を楽しそうに見守っていて、悩みの解決には全く役に立ちはしないし、代官とかやってくれる可能性はなさそうだ。

 誰か良い人を紹介して貰うしかないか。

 そんな風に考えてる時点で、僕はリステンヘンドの領主になる事に、ある程度は前向きなのだろう。


 また騎士隊を、今の第一から第三をもう一つ増やし、第四騎士隊を創設して、広がった国土の守備を万全にするとか、今の王都をもっと全土に目が届く位置に遷都するとか、色んな噂も流れてた。

 その噂が根も葉もないのか、それともある程度の事実を含んでいるのか、僕にはさっぱりわからないけれど、アウェルッシュ王国は今も大きな変化の最中にあるって事だけは、間違いない。


 次に国外の問題だが、新しく隣国になった国々は、ヴァーグラードを吸収したアウェルッシュ王国を非難していて、あんまり良い関係が築けていないそうだ。

 ただヴァーグラードの吸収がスムーズに進んだ為、余計な手出しは防げたらしい。

 この辺りはまぁ、ヴァーグラードとの戦争を決意する前から、予想はしていた事なので、今更である。

 口では何と言おうとも、ヴァーグラードを吸収して巨大になったアウェルッシュ王国と、事を構えたい国なんてないのだから。


 しかし近隣諸国以上の問題は、あの突如として発生した巨人だった。

 痕跡を調べて、あの巨人はヴァーグラードが雇った魔術師集団が、兵士に呪いをかけて発生させたとわかってる。

 でもその事は、あまりに危険すぎる情報の為、公表はされていない。

 だって、あんなにもあっさり国を亡ぼせてしまう巨人を生み出す魔術師達が、今もどこかで野放しになってるなんて、あまりに恐ろしい話だから。


 僕のようにヴァーグラード地方の安定に残った騎士の任務の一つは、その魔術師集団の足跡を追う事でもあったのだ。

 尤も、彼らは巨人を発生させた後、自分達は速やかに国外に逃げてしまっていたけれど。

 だが巨人とて、騎士が力を合わせれば倒せぬ相手じゃないと証明された。

 恐らく魔術師集団が、このまま逃げ隠れするだけとは思わないけれど、それでもアウェルッシュ王国が国内の体制さえ整えれば、以前と同じく盤石となり、決して揺らぎはしないだろう。

 そう、我ら騎士のある限り。


 ……なんて、僕が騎士になってから、もう一年が経つ。

 僕は先日、一つ年を重ねて十五歳となり、一年前に比べれば随分と背も高くなった。

 一年前と比べて、どんな風に成長したのかって問われると、ちょっと返事には困るけれど……、多分、きっと、以前よりは騎士らしく振る舞えるようになってると思う。


 もちろんまだまだ未熟だし、課題も多い。

 ただそれは、一つ一つ片付けて、少しずつ成長していくしかないのだと、僕はこの一年で学んでる。

 これからも一つ一つ片付けて、少しずつ成長して行こう。

 爺様のように英雄になれるかどうかはわからないけれど、騎士としての僕を必要としてくれる人には、この一年で沢山会って来たから。


 まずは代官を探す辺りから、片付けよう。







これにて完結となります

読んで下さって、ありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み応えのある面白い作品をありがとうございます。 主人公が一見淡々としてるようで、ホントに14歳?と思うような思考力もあり、きっとこれから出世していくだろう伸び代を感じました。 周りの騎士…
[気になる点] アニーの隠された能力とか気になったまま終わったな(´・ω・`)残念 [一言] 面白かった
[一言] 面白い
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