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王国騎士物語  作者: らる鳥
二章 従者

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 クレアを気の扱いに目覚めさせる事となった訳だが、では気とは何なのかの話から始めよう。

 気とは生き物が持つ力。

 それを正しく利用すれば、岩を砕く事も凄まじい速度で走る事も、傷付いた身体を癒す事だってできる。


 ならば気は、一体どこに存在するのか。

 これから開くクレアの気の門とは一体何なのか。


「それは、空気、元気、気持ちの三つ言葉にヒントがある」

 僕は隊舎の自室で、薄着になって床に座ったクレアの背に手を当て、そう語る。

 空気とはつまり呼吸。

 呼吸を行わなければ、気は高まらない。

 元気とは体力。

 体力が尽きてしまえば気も枯れる。

 気持ちとは意思。

 意思がなければ気は霧散し消えてしまう。


「だからこれから開く気の門は、身体と心が繋がる場所にあるんだ」

 具体的に何処とは言わない。

 人によっては脳でそれを認識するし、心臓の場合もある。

 他にもへその下に気の門があると感じる事も多いらしい。

 僕は多分、身体中の至る所にそれはあって、人によって利用し易い気の門が違うんだろうと思ってた。

 何故なら、恐らく爺様もそうなのだろうけれど、僕は全力を振り絞る時は複数の門を開くから。


 ゆっくりと、クレアの身体に手の平から気を送る。

 それに驚いたのだろうか、彼女は息を漏らして身体を震わせた。

 浅く焼けた肌が上気し、薄着故にハッキリと形のわかる胸が揺れる。

 ……少し、いや、大分と色っぽい。


 いやいやそれは雑念だ。

 安全にクレアを気の扱いに目覚めさせるには、余計な事を考えてる場合じゃない。


「僕の気が身体に入って、何となく気になる場所があるよね。そこに閉じた門がある」

 言葉を掛け、それをイメージさせる。

 干渉によって身体の門は僕が開くけれど、心の門は自分の意思で開かねばならない。


 しかし気を通して探ってみると、確かにクレアの身体は気の通りが良かった。

 門の奥に眠るであろう気の量も、外側から測ってみても多そうだ。

 バロウズ叔父さんの言った通り、それなりの才はあるのだろう。


「閉じた門……」

 クレアが呟き、自分の胸を押さえる。

 どうやら彼女の門はハートにあるらしい。

 情熱的なタイプなんだろうか。

 この時に額に手を当てる人は理屈っぽく、へその下に門を感じる人は感覚的な人間だとも言われるけれど、意外とこれは良く当たる。


 ならばクレアは情熱的なタイプだと考えて、この先の言葉を選ぼう。

「本当はその門は、クレアが君の母様のお腹の中に居る時は開いてて、二人を繋いでた。でも外の世界に出た時に、あまりの環境の違いに驚いて、ぎゅっと縮んで閉じてしまったんだ」

 もちろん本当にそうなのかは僕も知らないけれど、そんな風にも言われてる。

 別に真実かどうかはどうでも良いのだ。

 そのイメージがクレアが門を開く助けになりさえすればそれで良い。


「けれども、もうクレアはこの世界を知っている。何も恐れる事はない。だから閉じた門を緩めて開こう。それで君は気の扱いに、新しい自分に目覚める」

 クレアの心を落ち着かせるように、僕自身の声も抑えて落ち着いたトーンを心掛けて。

 流し込んだ僕の気と言葉で、クレアの意識が自分の内面に向いている。

「やり方はわからなくて良い。僕が門を開くから、君は心を開くんだ。委ねて、広げて、呼吸を止めずに、大きく、深く」

 ゆっくりと、ゆっくりと、クレアの準備が整うのを待ってから、僕は少しずつ緩み始めた彼女の門を、ずるりと開いた。



 その途端、門の中からクレアの気が溢れ出す。

 さてここからが本番だ。

 僕は自分の体内で治の気を練りながら、それをクレアに向かって流し続ける。


 気の門を開く際の危険は大きく二つ。

 一つは開いた門から全ての気を放出し尽しての枯死。

 もう一つは溢れ出した扱い方もわからぬ気が暴走し、自分の身体を傷付けてしまう事だった。

 例えば衝の気の才に富む者は、衝の気が体内を駆け巡って内臓を破壊する。

 強化の気の才に富む者は、強化された身体の生み出した出力に耐え切れずの自壊。

 斬の気ならば突然腕が千切れ飛んだりと、気の暴走による危険は様々だ。


 そしてそれ等を抑える方法が、今僕がしているように治の気で暴走を抑えてやる事。

 それから暴走が収まったなら、再び門を少し閉じて細くしてやれば、気を放出し尽しての枯死も防げる。

 故に導き手には、気の暴走を抑えて受け止めてやれるだけの、治の気を練る実力が必要とされるのだ。


 因みに気の力に自ら目覚めた独覚が殆ど死亡するのも、この気の暴走で自分を傷付けてしまうせいだった。

 けれどもその時、斬や衝や貫や強化だけでなく治の気も同様に溢れさせたなら、暴れる他の気を捻じ伏せて生き残る事がある。

 そう、実際にそうやって生き残った僕の爺様のように。


 それはさて置き、今暴れてるクレアの気は、斬、貫、強化の三つが主だ。

 別に他の気が存在しないって訳じゃないけれど、その三つに比べると著しく弱い。

 つまりクレアは斬、貫、強化の扱いに長ける可能性がある。

 その中でも、特に強いのが強化の気だった。

 残念ながら強化の気は、相応の治の気も持ち合わせねば自身の身体を傷付けてしまうのだが……。


 まぁそれも已むを得ぬ話である。

 才があったからといって、それを引き出せるかどうかは本人次第だし、身体に負担の掛からぬ様に一瞬のみ強化を使うって技もなくはない。

 駄々っ子の様に暴れ回るクレアの気を抑え、宥め、グルグルと彼女の体内で回しながら、気の門を少しずつ絞って行く。

 


 クレアの気の量、才も想定内で、導きはこのままスムーズに終わるだろう。

 僕としても希少な体験をさせて貰った。

 何せクレアは、僕が導くのに丁度良い程度の才の持ち主だったから。

 彼女の才は、僕が測った限りだとバロウズ叔父さんと同程度、要するに千人に一人程度しか持ち得ない物。

 六家、武家の様に血を掛け合わせたり、在野からも才を掻き集めてるなら兎も角、偶然に頼るならばそう簡単に出会いはしない。


 だから多分、それは偶然じゃないんだろう。

 ましてやもう一人の傭兵仲間、十座も気を扱えるのだ。

 どう考えても偶然じゃない。

 叔父は狙って、僕が導くのに丁度良い才の持ち主を見付けて来た。

 クレアと叔父の間にどんなやり取りがあったのか、僕には想像も付かないけれど。


 それが誠実な物で、お互いが幸せになる為の物であって欲しいと思う。

 そしてできる事なら、僕にもその内容を笑って教えて欲しい。


 ……さて、クレアの気も大分落ち着いた。

 暴走も止まり、放出も収まっている。

 今は細く開いた門から出た気が、グルグルとクレアの体内をゆっくり回ってる状態だ。

 もう僕にできる事は何もないし、する必要もなかった。


「自分の中で回ってる気がわかる?」

 僕の問い掛けに、目を閉じたままのクレアが頷く。

 なら良かった。

 自分の門と気を認識できるなら、やがては門の開閉、気の操作も可能になる。


「おめでとう、クレア。今日から君は気の使い手だ。これから生きる世界は、今までとは少しだけ違ってる筈だよ」

 クレアはゆっくり目を開き、僕に向かって微笑んだ。

 もちろん気の扱いに目覚めたとしても、実際にそれを活かすには多くの修練を積む必要があるのだが、今それを言うのは野暮だろう。



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