特別席は金貨1枚ですが、ズレヒゲの誘惑がございま…「買いますわ、全部!」
3回目としてモデルなワクチン打ちました。熱とか出たら嫌だなー。
男装の麗人・ズレヒゲ(付け髭がちょっと右にズレている)が劇の宣伝を始めようとすると、いきなり2頭立ての貴族の馬車が止まり、中から出てきた侍女がズレヒゲの腰に縋り付いて色っぽい声を出し始めた。
「何が起きてるの?」とレオナとリオンがドン引きしていると、嬌声をあげる侍女をを後から降りてきたドレス姿の令嬢が蹴り飛ばした。
「当家の侍女が失礼しました。改めてバルッセン男爵が2女シュトハルと申します。あ、あなたさまはどちらの貴族の方でしょうか?」
「・・・私はズレヒゲと申します。訳あって家名は名乗れません。本日は、劇の宣伝をさせていただいております」
「ズレヒゲ様・・・なんと気高いお名前でしょう。え、劇?まさかズレヒゲ様が出演されるのですか?」
ズレヒゲが団長を振り返ると、「さすらいのペレペケ劇団」の団長は地べたに這いずっており5人いた女優全員から踏まれたり蹴られたりして半死半生になりながらも、うんうんと力なく肯首した。
「・・・そうです。お嬢様のような美しい方がご覧いただけるとなれば、芝居に熱も・・・『チケット買いますわ!おいくらですの?』」
そこにススス、とディセリーナが悪い笑顔を浮かべながらやってきた。
「一般席は銀貨2枚ですが、特別席は金貨1枚になります」
「と、特別席?それは何ですの?」
「特別席は、最前列でして。実はここにお座りのお客様から劇中、ズレヒゲがアドリブで声掛けすることになっております」
「お、お声がけ?」
「はい、ズレヒゲにふさわしい令嬢を選んで声掛けし、手を取って立たせて腰を抱き、誘惑の言葉をかけるのでございます。いえあくまで劇中のことです。声掛けは上演当たりおひとりなので、確約はできませんが」
「・・・その特別席は何席ありますの?」
ディセリーヌが振り返ると、団長は女優たちにまだ踏みつけらえたまま、力なく片手を開いた。1列5席あるらしい。
「5席だそうです」
「ぜんぶ私が買いますわ!そ、その代わりお願いがありますの。ズレヒゲ様にぜひお茶会のエスコートを・・・」
「エスコートは別料金になりますが、前向きに検討いたしましょう。おい、お嬢様にチケットをお渡ししろ」
そしてその後も、ズレヒゲが立っているだけで次から次へと馬車が止まり、ディセリーナが設定した特別席の金貨チケットが飛ぶように売れた。
団長は呆気にとられた。
たったの1時間ほどで、ディセリーヌが「今日の売上だ」と金貨26枚を渡してきたからだ。こんな大金、しばらく見たことがなかった。と、同時に怖くなった。今まで貴族の客など相手にしたことがなかったからだ。
初舞台は、今日の夕刻4ツ鐘。
「じゅ、準備しなきゃ」
団長は傷む手足や背中をさすりながら、ノロノロと立ち上がった。
なお劇団員たちはそんな団長はすでに眼中になく、「セリフの練習をご一緒に!」「立ち方の練習ですわ!」と代わる代わるズレヒゲにまとわりついては乙女のような嬌声をあげていた。
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