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超強気の出演交渉は目がハートマークの後ろ蹴りに支えられて

土曜日はなんか風が強かったです。花粉症なのでつらい。

午前7時・午後7時の1日2回更新で頑張ります!

「お前が劇団のまとめ役か。このズレヒゲをぜひ出演させてもらいたい」


広場で宣伝をしていた「さすらいのペレペケ劇団」の団長は、いきなり声をかけられて困惑した。


子供に見えるが、整った顔に白く美しい肌、そして何よりも将校服のような仕立てが良い服を着ている。

おそらくは名のある貴族の子弟か関係者に違いなく、無下にはできない。


「…し、しかし出演者や脚本はもう決まっておりまして」


「どれ、では脚本を見せてみろ。・・・むう、何の工夫もない恋愛喜劇だな。ありきたりだ。だが、短い場面を追加してズレヒゲを出演させればよいだろう」


ディセリーナはボロくなった脚本の空きスペースに、さらさらと説明とセリフを書き足した。


ディセリーナ。森獄十二龍の1柱にして「楽しい事なら何やってもいい」と考える破滅的な性格の持ち主で最悪のトラブルメーカーであるが、実は演劇・絵画・文学・音楽といった芸術方面の才能が突出していた。


ディセリーナが書き足したのは、主人公の令嬢が気になる王子(実は呪われた怪人豚男)を探す際、迷い込んだ庭で見知らぬ男から誘惑されるが、それを振り切り貞操の堅さをみせて退場する・・・といった本筋には関係のない場面だった。


『貴族に抵抗するのは面倒だから、これくらいなら足してもいいかな?しかし気が強いウチの女優たちがどういうか・・・』と団長は考えた。


実は総勢12名の「さすらいのペレペケ劇団」は吹けば飛ぶような弱小・貧乏劇団だが、そんな逆境の中で残った女優たちはいずれも極端に我が強く、団長ですら雑用係扱いされていたからだ。


団長が冷や汗をかきながら恐る恐る背後に控えている出演女優たちを見ると、全員が目をハートマークにして顔を紅潮させ、「ハァハァ」と鼻息が荒かった。団長はちょっと前に旅路で4匹のオークに囲まれた時のことを思い出した(その際は「オークが興味を示さなかった」と逆上した女優たちがオークたちを撲殺し、事なきを得た)。


「あと、ウチはしがない貧乏劇団でして。満足に出演料もお支払いできないかと・・・」


女優の一人がガッと団長の足を踏みつけた。踵を立ててギリギリと全体重を乗せこんで『この話、あんた断ったら殺すよ?』と射殺すような目線で追い込んでくるが、金策が心配な団長は涙を流しながらも恐怖と痛みを堪えて簡単には首を縦に振らない。


「金はすぐ儲かるだろう。この興行で見込んでいる売り上げはいくらだ?」


「1公演当たり・・・金貨2枚でございます」


客席が約20、そしてチケットは銀貨1枚で売る算段だったのでこの答えとなった。


しかしそれはかなり強気な予想で、事実1年以内の興行で満席になったことはなかった。


「よし、売り上げが金貨3枚を超えたら、超えた分の半分をよこせ。あと劇場の周りで土産物を売りたいが、その許可をくれ。そうすればズレヒゲの出演料はタダでよい」


「はい、はぁ。しかし金貨3枚など・・・」


団長の足を踏みつける女優が二人に増え、さらに後ろにいた一人が膝で団長の尻を蹴り上げ始めたが、『やっぱり断った方が・・・』と考えていると、近くでいきなり2頭立ての馬車が止まった。高級そうな馬車だ。おそらく貴族の持ち物だろう。


馬車のドアが開き、中から若い侍女が飛び出してきた。


「そ、そこの方!私はバルッセン男爵令嬢シュトハル様の侍女で・・・・」


馬車から出てきた侍女は、ズレヒゲの前に立ち一礼し凛とした口上を述べようとしたが、顔をあげてズレヒゲと目があったとたんに硬直した。いや、硬直した後に腰が抜けたのかヘナヘナと崩れ落ち、そのままズリズリと這ってきた。


「け、けっこんしてくだしゃい。こどもは3にんほしいです・・・あああ・・・」


侍女はへたり込んだまま、ズレヒゲの腰に縋り付いている。

しかも色っぽい声をあげながら、ズレヒゲの腰に頬ずりを始めた。


この人、どうしちゃったの?とレオナとリオンもドン引きしている。

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