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「貴族の財布」が本格的にブチ込まれることになった

後半の整理をしておりまして、しばらくは1日1回で午前7時更新となります。

⇒整理が間に合わず、ストックもつきましたのでしばらく不定期に午前7時更新となります。あと3~4話くらいで完結の予定です。

ズレヒゲ劇場での公演が再開して3日も過ぎると、貴族の婦人サロンやお茶会ではズレヒゲの話題一色となっていた。


奥様はご覧になりました?今度ご一緒しませんこと?余っているチケットはございませんか?・・・などなど。


「それで奥様。昨夜のお姫様抱っこ祭りはいかがでしたか?」


とある婦人サロンでは6人掛けのテーブルに9名が座って、ケミャロナ騎士爵夫人の話を今か今かと待っていた。

ケミャロナ騎士爵夫人は長女から『ズレヒゲお姫様抱っこ祭り』のチケットをプレゼントされて、あまり演劇には興味がないのに、しぶしぶ観劇に出向いた・・・とすでに奥様ネットワークに上がっていたからだ。


たださすがに子供もいて30歳を超えている自分たちが、「お姫様抱っこ」に興味を示すのは貴族婦人の体面的にどうか?と考え、気にはなるものの自ら足を運んだ貴族婦人はいなかった。


しかし気にはなる。


「わたくしもとても気になっております」


「早く教えていただきたいですわ」


ケミャロナ騎士爵夫人は飲んでいたティーカップを優雅に置き、遠くを見つめるような目つきをした。


「私は・・・・4人の子宝に恵まれてそれなりに日々幸せに暮らしておりました」


同じテーブルの8人の貴族婦人たちが、話の続きに固唾をのむ。


なにせケミャロナ騎士爵夫人。年のころは30歳をとうに過ぎており、貴族家といっても所詮は騎士爵。繁忙期は夫人自ら農作業の手伝いをするような典型的な準貴族で、いつもは使用人と間違われるようなオドオドした態度で、お茶会の末席にいたからだ。


もちろん美容や美顔に金をつぎ込むゆとりはないはずだった。

それが今日は。


磨き抜かれたようなツヤツヤの美肌に、目元の小じわや薄い染みも消え、何気なくまとめられた髪はピカピカに輝いていた。


パッと見ても20代そこそこに見える。10歳は確実に若返っていた。


隣にいた夫人が『比べられてはマズい』と思わず離れたくらいだ。もしこんな施術を王都で受けたなら、予約に3年以上かかったうえに確実に金貨100枚は飛ぶだろう。


「でも、昨夜ズレヒゲ様とお会いして、私はまだ『おんな』であることを思い出したのです。いや、思い知らされたのです」


ケミャロナ騎士爵夫人の頬がうっすらとピンク色に染まり、虚空を見つめる瞳が熱を帯びたようにウルウルし始める。


「・・・け、ケミャロナ騎士爵夫人?」


「いまのこの瞬間に、どんどん小顔になってません?」


「瞬きする際に、バサバサと音が鳴りそうなくらい睫毛が長く太くなってらっしゃいますわ!」


「奥様はお胸の張りがこんなにもありましたかしら?なんてクッキリした谷間・・・」


「そういえば昨日お会いしたレカオシーナ伯爵夫人も、若返り方が尋常ではありませんでしたわ」


「レカオシーナ伯爵夫人といえば、すべすべのお肌にも驚きましたが目元がとても柔らかい感じになっていらして、女の私から見ても魅力的でした。まさかと思いますが、アレも・・・?」


「レカオシーナ伯爵と仲睦まじくパーティーに参加されていらっしゃいました。まるで新婚のような雰囲気で、とても羨ましく思いました。レカオシーナ伯爵夫人のお嬢様がズレヒゲ様に入れ込んでいると聞きましたが、まさか夫人も?」


その場にいた貴族のご婦人たちはごくり、と太く唾を飲み込んだ。


「ズレヒゲお姫様抱っこ祭り」の価値に気づいたからだ。


「まさか」と思いつつも「試す価値はある」「出遅れたら私だけ恥をかく!」と考えた貴族婦人たちは、後ろ手にハンドサインを出してそれぞれの侍女たちにチケット入手を厳命する。


今まではちょっと背伸びした貴族令嬢たちの「たしなみ」だったズレヒゲだったが、美容に命懸けの貴族婦人の本格参戦により「貴族の財布」が本格的にブチ込まれることのになったのだ。


その結果、金貨2枚だった「ズレヒゲお姫様抱っこ祭り」のチケットは瞬く間に金貨25枚を突破し、人数制限の希少性からも「最も入手が難しいチケット」となってゆく。


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