残念ながら串焼き肉を買う金はありません
なんとなく再開しました。基本は1日2回更新で頑張ります。
「読んでスッキリ」を目指してます。
森獄の周辺都市のひとつであるレカオシーナ伯爵領都・シムベナでは、昼前の平和な賑わっていた。
街の広場では物売りが呼び込みの声をあげ、軽食を提供する屋台が開き始め、行きかう人の数も増えてゆく。
そこに旅装の3人の姿があった。
「やっと着いたねー」
16歳の少女、レオナは背負った大きな荷物を足元に降ろして、弟分のリオンが荷物を下ろすのを手伝う。
「とりあえず、何か食べるもの買ってきて。ボクが荷物見てるから」
「うん、僕もおなかペコペコ」
リオンはレオナから銅貨を数枚受け取ると、嬉しそうに屋台に向かって駆けていく。
それを見送り、レオナは自分の後ろにいた3人目をにらんでため息をつく。
そこには美しい、男装の女騎士が立っていた。
煌めくような長い金髪に整った顔、そして大きな胸に細くくびれたウェスト。
女性でありながら普通の成人男性より頭半分高い体格を、ぴったりした狩猟服に包んでいる。
だが残念なことに、死んだゴブリンのような眼をしている。
何も見ていない、何も感じていない。何もしたくない。
その眼はそう語っているかのようだ。
レオナに睨まれても、表情を変えず微動だにしない。
「背中の子はどっかに捨ててくれば?」
「・・それはそれで迷惑になりますので」
男装の美女・ラフラカーンは何もかもあきらめたような口調で静かに答える。
ラフラカーンがレオナに背を向けると、そこには年のころ12歳くらいの女の子が寝たまま片手を肩につかんだままでぶら下がっていた。
だらしない顔で口を開けて寝ているのは、ディセリーナ。
少女に見えるが、その正体は森獄の十二龍と呼ばれるドラゴンの1柱『炎龍』。
従者であるラフラカーンとともに、なぜかレオナとリオンの旅にくっついてきている。
レオナはディセリーナの正体と恐ろしさを知っているため、表立っては抵抗してはいない。
しかし何事にもルーズで快楽主義、そしてトラブルばかり起こすディセリーナが幼いリオンに付きまとうのでホトホト困っている。どちらかというと憎んでいる。
「だらしないドラゴン」を省略して「だらドラ」と呼んでいる。
時には「死ね、だらドラ!」と叫んで踵落しを食わらせたりする。
何とか撒けないかと、昨夜も別の町で夜遊びするディセリーナを置き去りにしたが、優秀な狩人でもあるラフラカーンの追跡は躱せず、この街シムベナに到着する少し前に追いつかれてしまった。
「ぐるるるるる」とレオナが喉の奥で声を殺して吼えていると、ほどなくリオンが両手に串焼き肉をもって帰ってきた。
ニッコリして当然のように大きい方をレオナに渡してくれる。
「ありがと、リオン」
レオナはリオンの優しいところが大好きだ。
背も小さく体も細くてよく女の子に間違えられる上に辺境で生きるには優しすぎるリオンのことが時々心配になるが、「ボクがリオンを守ってあげよう」と思うようにしている。
リオンには優しいままのリオンでいてほしいから。
2人が立ったままハグハグと串焼き肉を食べ始まると、寝ているディセリーナの鼻がクンクンと動き始める。
そしてカッと目を見開くと、ひらりと地に降りた。
「おお、リオン。うまそうな肉を食っているな。ラフラカーン、オレにも同じものを買ってこい。タレと塩を何本ずつにするかは今決める」
「ディセリーナ様。残念ながら、お金がないので何も買うことができません」
従者に突然告げられて、ディセリーナは目をパチパチさせた。
「串焼き肉の100本や1000本は買えるくらいの金はあるだろう?」
ディセリーナはラフラカーンには見向きもせず、リオンが美味しそうに食べる串焼き肉を見つめたまま聞き直した。
ディセリーナは塩味を何本にしようかタレ味は何本にするか?と真剣に考え続けはじめ、金の問題などどうでもよい事のように思えたからだ。
「残念ながら1本も買うことができません。銅貨の1枚もありませんゆえ」
「1本も買えない?本当に1本も買えないのか?」
ラフラカーンは表情を変えず頷く。
相変わらず、死んだゴブリンみたいな目をしているな、とディセリーナは思った。
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