『金毛熊』亭の祝いにて
手持ち、残り銀で6239(+12000)枚と銅0枚。
やっと会えたね。
新しい服を着て、気合が入っ……入り過ぎないよう、化粧はしないでおいて。
その代わり、回り道をして尾行あるなしを確かめ、確かめしながら。ちょうど鐘の鳴る頃に、ご飯やさんに到着した。
いつものテーブルは、衝立を増やして卓をくっつけてある。覗くと、ほぼ皆そろってて、居ないのはテイ=スロールさんだけ。アタシの前にある空席の右側から、アタッカーと僧侶とウォーリア、俯いてる黒い髪のひとと、シアバスさんとサムライのひと。
これ、この黒い髪のひとが……シノビさん? だよね? アタシはピンと来たもんね!
「こんばんはー!」
と歩いてって、顔をのぞきこめばやっと、(ふいっ)
あれ? じゃあ反対側から(スッ)
何よこっちだって角度を変えて(ヒュッ)
「マーエさん反射が良い。」
「私にゃ残像が見えるんだけどね。」
前衛が何か、言ってるけど、聞いてる余裕ない!(バババッ)
「お前はちょっと落ち着こう、な?」
横からシアバスさんの細長い指が、ひゅっと伸びてきて、アタシとシノビさんの無言の攻防は止まった。「や、だって、直視したら、な」とか言ってる黒髪のひとは、武闘家の腕をつかんで外そうとしてるけど、外れない。アタシの視線も。
顔は、外仕事するひとらしい日焼けしてて、髪も目も真っ黒。目がおっきくて、ちょっと両端が下がった感じで、それがアタシを見てびっくりした風に見開かれてて。
「…よ」
「?」
「良かったなあぁ……本当に無事で……」
声が震えてた。それで、「みるみるうちに」って言葉がぴったりなくらい、大粒の涙がこぼれた。一度こぼれたら、後から後から、あっ、わっわっ、どうしよ、
「あーあー、リクミの奴を泣かせてやんの?」
シアバスさんひどいや。
「アタシが泣かせたことになってる!?」
言い返しつつ、隠しポケットからハンカチだして、目元にそっと押し当ててると、上から手が押さえられて、「よがったなぁ……うぅう」てまたくぐもった声で言われて。
いつの間にかシアバスさんは腕を外してて、席も外して、アタシの肩をぽんと叩いて座るよう誘導してくれて。
ハンカチの上から押さえてくる手と、ハンカチから指に伝わってくるあたたかさが。
両方ともアタシに、胸の奥にじんわり染みて。
染みるってことは、今まで気づかなかっただけで、そこに何かが、欠けた何かあったんだろう。染みたところから、あったかいものがふわりと湧き出てきて。
「2人して泣くなって……計算外も甚だしい。」
「良いではないか。」
シアバスさんはちょっと呆れてた風だけど、オアイーナんとかさんは、可愛いものを見る目だったことは、見なかったことにした。
手持ち、残り銀で6109(+12000)枚と銅0枚。
オアイーナブス(サムライ)の名前がちょっぴり記憶に残りつつ。
本作は、ほのぼの冒険譚を目指して……目指しております。
お読みいただきありがとうございました。




