表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
95/179

≪黒山羊≫さまの聞き取り

手持ち、残り銀で6239(+12000)枚と銅0枚。

ヨアクルンヴァル(ウォーリア)の名前を覚えた半面、シジラさんの名前が怪しくなってまいりました。

 孤児院に行く前、アタシは軽く髪と顔をいじった。

 別に、昨日のアレで今日すぐに≪叫星組≫がどうこうを警戒したわけじゃ……嘘です警戒してます、めっちゃするわこんなん。髪を分けて2本の三つ編みにして、目元にシャドウいれて、瞳の色を暗く見せての女の子風。

 食堂に降りてったら、スーファン先輩が腕を差し出してくれたんで、かるく腕からめてとことこ歩いてく。


「傍目にはシーズン前から仲良しに見えるっしょ。」

「ラブラブじゃん!」


 軽口たたきながら歩きつつ、2人して周囲と背後を警戒してたけど。変な視線や、妙な距離感の通行人、とかはなかった。

  

 門のところで≪湖畔の住人≫に止められて、あっそういや変装、とかなったりもしたけど。孤児院にはいると、事務らしい僧服のひとがいて。

 名前聞かれて案内された先は、円卓のある明るい部屋だった。見知った顔といえば、育て親と、たまに顔をみる医者くらいで、あとは≪千匹の仔を孕みし黒山羊≫さまの聖印や僧服のひとたちで見覚えがないのが8人。

 育て親が片手をあげて、ドア前の空いてる2席に座るよう、アタシとスーファン先輩を手招き。


「いらっしゃい。マーエ、もう体は大丈夫なの?」

「はい、僧侶のメバルさんが夜のあいだ付き添いしてくれて。あのひと、本当に徳が高いですね。」

「そうね。評判の方だね。」

「ところで、ザレナは……」


 ここに居ないのは、見て分かってたけど念のため。

 だって途中で登場されたりしたら、心臓に悪いじゃん。ザレナの。アタシのじゃない。横で先輩が、「殺気抑えようなー?」って小声で囁いてるのは、分かる。聞こえてるけど無視した。

 育て親が、珍しく苦笑いになる。


「重病者用の個室に込めて見張っています。会う人ごとに、『マーエさんが悪い冒険者たちにそそのかされて、自分とのつながりを断ってしまった、愛してるから誘拐までせざるを得なくなった』と訴えてますよ。知らなかったらうっかり騙されそうですね。」


 騙されるような者は居りませんけど、とも付け加えて、育て親は真顔になる。


「あの異常者の処遇は、マーエの話を聞いてから、最終決定がなされます。」

「は、はい。」


 異常者って言いきっちゃったよ。でも、聖職者からしたらそういう分類になるんだろうな。神殿に助けを求めるのは、貧しいひと、身体を悪くしたひとだけじゃなく、心や魂まで壊れちゃったひともいる。何かしら罪を犯して自分が怖くなって、自発的に来るならいいけど、大半は科人とがびととして突き出されてくるひとだ。


「ザレナは異常者、なんですね。」

「そうです。それも巧妙に嘘をつき、演技をして、自分が悪くないことにする異常者です。」

「それを聞いて安心した。私ら、同年が言い出せなかったことでもあるな。」


 スーファン先輩は、「確かな話が分かるまで、って様子見てたら、今回の騒ぎになっちまったけど。」と暗い顔で付け足す。


「でもそれは、ザレナの立ち回りが巧妙だったからで。先輩たちだけが悪かったってことでもないでしょ?」

「うん、ま、そうだなー……」

 

 暗かった先輩がちょっと持ち直す。

 そう、今回のあれやこれやで、誰かだけが悪いことをした訳じゃない(例外はザレナだけだ)。ドゥイドゥイ屋のポイントカードを捨てさせたヨアクルンヴァルだって、まさか本当に、金でアタシの動向が筒抜けになってたとは知らなかったんだし。

 ザレナだけは例外。これは間違いなし。


「ただ、アタシはザレナをどうこうって気は、そんなにないんですよ。」

「マーエ。殺気、殺気を抑えようか、な?」


 おっと。「そんなにない」は「全然ない」とは違うよね。

 軽く咳払いして、アタシは続ける。


「いきなり誘拐されて、足首ぶった切られたけど、それはもう、神様のお陰で治してもらいましたし。」


 足首まではちょっと届かないので、強調に腿を軽くたたくと。

 

「それは、現場にいたという君の仲間の『海の聖者』殿が?」


 知らない顔の僧侶が言うので、そちらに頷いて肯定して、アタシは続ける。


「誘拐された分の損失、1日分として銀貨で7千。それとキマルたちへ詐欺を働いたことへの償いは、明日以降にキマル探しに行って、見つけ出せるかどうかで決めるつもりです。」


 聞いてる僧侶たちのなかには、ほう、というように眉を上げる顔がある。

 むふふ、アタシは稼いでる冒険者ですので!

 7千は大きい額だけど、ダイア・キンケイの骨売り上げを考えたら嘘は言ってないから……言ってないハズだよ? 助けてくれた独立系冒険者、シアバスさんたちにだってお礼はしなきゃ、だし。

 一方、キマル達を見つけ出して、それで実際詐欺だって立証できたら、償いはキマル達に決めさせるのが理に適ってる。見つけ出せなかったら、今度はジジラ…シシラさん? も話聞いて、遺族への償いする形にしなきゃいけない。アタシはそりゃ、見つけ出すつもりでいるけどね。

 

「それで、後は……」


 何人かが身を乗り出す気配があって、アタシは口ごもる。


 だって、思案したけど。

 ……してみたけど!

 今、目の前にザレナが現れたら、心臓に悪いことになる(ザレナの、ね)のは、間違いなし。でもそれでいいの? って気持ちもある。目の前に相手が居ない今この時は、


「それでいいの? いや、良くないよ。」


 の気持ちが、一番大きいくらいある。だからアタシは、戸惑いというか、その気持ちを正直に話すことにした。


「何も罰を課さずに許し放ち、というのは無いけど、≪処刑大路しょけいおおじ≫で見せつけ処罰っていうのもないなぁ、て思ってます……ハイ」


 処刑大路は、善民なら絶対近寄りたくない場所、って言うか。公開処罰のための、血と腐肉と、吊るされた死体で通りがひとつ埋まってる大通り。

 そこを仕切ってる『真ナントカ組合』が拷問や処刑を担当してるんだけど、アタシはるならこの手で「マーエ、殺気、殺気」……おっと。


「(ごほん)とにかく、ザレナには二度と会いたくありません。この考えだけは、絶対です。」


 矛盾してるっていうか。アタシの言ってることは、実現させようとするとすごく難しいこと言ってるのは、自分だって分かってる。

 居並ぶひと全員から注目されて、内心はどぎまぎしてたけど、胸を張ってたら。正面に座っていた、小さな聖印を首に下げてるひとが立ち上がって、


「一番被害を受けたマーエ君の考えは、よく理解できました。我々が既に話し合っていた償いは、必ずその考えに沿うものとなるでしょう。

 ザレナの個人資産がどれほどのものとなるかは、今後の調べ次第ですが、贖い銀を払うのに不足することはありません。彼女の知識と記憶は、然るべき黒山羊様の使徒が吸いだします。彼女の魂は、黒山羊様のもとへ。その頑健な身体は、『貢献』となるでしょう。」


 『黒山羊様の使徒』は本当にいたんだね……育て親の脅し文句じゃなかったんだ。

 とても悪いことをすると、それを反省しないでいると、「夜空のはるかな果ての世界」から、黒山羊さまの使徒がやってきて、頭の中身を全部吸い出してしまい、残った体は豺狼さいろうの餌にされてしまうよ! って聞かされて育ったけど。


「貢献って?」


 ひそひそとスーファン先輩に聞いてみると、同じひそひそ声で。


「魂のなくなったひとの肉に、死んだひとの魂をいれて、生きたひとみたいに動かすらしいんだな。私もよくは知らん。」

「へ、へえ……」


 中身は別人でも、ザレナの顔した何かがうろつきまわるってのは、聞いてて気持ちいいもんじゃない考えだ。

 というのが顔にでてたのか、育て親が横から、


「マーエ、心配することはありませんよ。奉献された身体は、生前の知り合いでもわからぬよう、別の顔を持ち、体つきも変化させられます。まして、罪科あっての『貢献』による復活は、徳高き者にのみ許されます。」


 と補足してくれる。


「だったら、良いです。アタシはあと、≪叫星組≫が仲間に手出ししないでくれたらそれでいい。」


 そう言うと、正面に居たひとがゆっくり頷いた。


「なるほど。それは、安心してくれて良いです。本件は、ザレナが組に入る以前からの禍根。孤児院、ひいては≪万神殿≫のために働くマーエ君や、その仲間に対して、≪叫星組≫が何かを申し立てることは筋違いというものでしょう。そのような筋違いを押してくるなら、神殿が相手です。そのことは、然るべき筋から伝えてあります。」


 そう締めくくって、満足そうに微笑んだのだった。

手持ち、残り銀で6239(+12000)枚と銅0枚。

特に紹介はしませんが、正面に居たのは司教位もちの偉いひとです。

ユゴスよりのなにかとか知りませんよそんな神話存在。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ