外の後片付け
手持ち、残り銀で6240(+12000)枚と銅2枚。
都市警備隊は真っ白なサーコートと揃いの装備で有名です。都市の治安維持が主な任務ですが、私人間のいざこざに口を挟んだりはしません。白いサーコートが汚れるような真似はしません。決して。
足先から痺れそうなほどの寒気が、夜の都市に降りている。片方の月だけが、せり出した屋根の上に見える夜空は、月の明るさより、暗さのほうが目立つ。
双剣を鞘に納めたアタッカーと並んで、戸口脇に降りながら、テイ=スロールはコートの下で小さく震えた。待っていた≪街の子≫の一人が、「異常なし。野次馬っぽいのは来たけどすぐ帰ってった」と、通りの先の角を指さして報告してくる。
≪街の子≫が風景に溶け込むように、半地下の通風窓の脇へ下がるのと、ほぼ同時に。指さされた角から、たいまつを手にしたひとが足早に歩いてくる。
「都市警備隊ではないですね。」
アタッカーが指摘した通り、純白のサーコートを着けた警備隊ではなく、毛皮を巻き付けた壮年の女が一人。
警備隊詰所の使用人だろうと思っていたら、やってきた女はそのとおりの自己紹介をした。要は「様子を見て、警備隊が必要な事態なのかどうか報告しろ」と言われたそうだ。
テイ=スロールが、するりと進み出て一礼する。
「寒い中、お勤めご苦労様です。今宵の騒ぎに心を砕いておられる警備隊の皆様には、どうぞご安心くださいとお伝えを。これは私人同士、自由市民同士のちょっとした行き違いから生じた、喧嘩の延長のようなものです。」
(喧嘩どころかカチコミそのものですが)
ボリスは内心でツッコんだが、顔には出さなかった。
女は、静まり返った事務所をちらっと見上げて、信じようかどうしようか迷っているようだ。
「喧嘩、ですか。しかしこの」
「現に、死傷者は一人もでておりません。≪組≫に何かを仕掛けたわけでもございません。組に入る前からの遺恨で、我々の仲間が誘拐された。我々は平和的に仲間を取り返して、今、中では話し合いが行われています。話はすぐに終わりますし、これ以上の騒ぎにはなりませんよ。」
(メバルが完全に治療してしまったから、結果としては怪我人もいないとはいえ)
嘘はついてないが事実をすべて告げている訳でもないウィザードの弁舌に、ボリスは何も口を挟む気はなかった。それは、「必要とあらば中にどうぞ、お入りを」とまで言われてる女も同様らしい。
ウィザードは中を見せる気などないし、聞いてる女も仕事熱心ではないのだ。
「大体の事情は分かりました。報告もこれで十分できると思いますので、私はこれで失礼を。」
引き上げようとするのを、テイ=スロールは呼び止めて、「寒い中、ご苦労様です。良かったら、これで暖かいものでも買ってください。」と銀貨を2枚、手袋の上に差し出す。
恐縮やら遠慮やらは、もう定型化した手続きのようなもので、ついでに釘を刺す一言を添えると、ウィザードは急いで戻っていく女を見送って手を振った。
たいまつの明かりが角に消えてから、ボリスは聞いてみた。
「何と言って釘を刺したんです?」
「いつものです。『このような些事に関わると、ご家名に障るかも知れません』です。」
ああ、とアタッカーは頷く。
貴族家から構成員を出す都市警備隊が、夜間に出てくるはずはない。使用人に渡した銀貨が、適当に話をまとめてくれるだろう。
冒険者は自由市民。自由とは、『自らに由って』生きること。
こういう時、本当に頼れるのは独立系冒険者であって、まかり間違っても警備隊ではない。警備隊の夜間業務に関しては、
「国主御自らの命令でもなきゃ詰所から出てこない」
どころか、
「命令したのが国主かどうか、朝になってから確認するに決まってら」
などといった陰口が、聞こえない所で言われるのだから。
戻りがてら、隣の違法薬物の店のほうも覗いてみたが、灯りを消してしっかと戸締りしてあるのが見てとれた。用心深いことは良いことだ。
手持ち、残り銀で6240(+12000)枚と銅2枚。
繰り返しますが、本作はほのぼの冒険譚を目指しております。
お読みいただきありがとうございました。




