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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
89/180

大きめミラクルソリューション

手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。

実はドゥイドゥイ屋にも使う技術だったりします。

 厳しい表情の僧侶は、抵抗の意思を失くして座り込んでいる手下のひとりに近づいた。


「ここにたらいはあるか? 水桶でもいい。持ってきてほしいのだ。」

「たらい……桶ならあるが……?」


 ぼんやり答える女に、メバルはもう一度お願いしてみる。


「持ってきて。今すぐ。」

「わ、分かった。」


 もたもたと立ち上がるのへ、


「早く。走る!」


 とまで声を上げるので、周りの者がひどく驚いた。普段紹介するとき『温厚な』とか『穏やか』といった言葉がついて回るタイプで、声を荒らげるなぞとんと無縁そうに思われているのが、メバルという僧侶なのだから。

 シノビに軽く頷きかけると、メバルは手近な椅子を起こしてそこにマーエを座らせた。本人の筋力が無いので、支えて座る姿勢を取らせたというべきか。


「あの、ご、ごめん……首から下に力が入らなくて。はは……」

「謝るはしないでいい。支えてあげて。」


 前半はマーエに、後半はシノビに指示を飛ばして、メバルはふと目を床で喚く女に向けた。


「きみは静かにすると良いのだ。」


 素早い単語の組み合わせと、床を叩く杖の音で、罵声は途切れた。入れ替わるように、大きな桶を持った手下が速足で戻ってくる。

 それを手招きし、まだ毛布に包んだままのマーエの足を入れさせてから、僧侶は引き解け結びにしてある縄をほどいた。あらわれた足の状態と臭気に、わずかに目が細くなった。

 さらに検分するうち、頭上から声をかけられた。


「僧侶、さん。アタシの足、どーなってんの?」


 少し呂律が怪しい。これほどの量の薬、あるいは毒にもなるほどの量を盛ったとなれば、『解毒』した瞬間、苦痛で身をよじって転げまわる羽目になりかねない──。


「マーエ。状態は良くない、見るのはとても辛いのだ。必ず治す。」

「どーなってんの……かな。」

「見るのか?」


 見せたくない、と直截に言うこともできず念を押すと、やはり見たい、と言われて。

 シノビに「支えてあげて」と指示して、自身もマーエを前から支えつつ、ゆっくり前かがみの姿勢にしてやる。

 足はひどい状態だった。


「……嘘?」


 足首関節のところから少し上に、真鍮の輪が嵌められていて、その下から、尺骨と橈骨がうす白く突き出している。その白い骨も、螺子ねじのように刻み目が入っている。刻み目に沿って、薄赤い液体がゆっくり溜まり、ぱたり、と毛布に落ちた。

 何をどうしたら、そんな加工を生きた体に行えるのか。その苦痛は、感覚があれば耐えきるものではなかろう。

 歩く、走る、跳ぶといったあらゆる行動への残酷な略奪。


「ア、タ、シ、の、あ、し、が!」


 激昂か、パニックか、両方ともとれるマーエの肩を、手袋をしたメバルの手がやわらかに抑えた。


「落ち着いて、マーエ。落ち着いて。必ず治す。絶対治るから。今ここで。」

「治る?」


 切り落とされた足をどうやって?

 非難さえもにじんだ疑問を、僧侶はこわばった笑みで受け流す。


「大きめの奇跡を、神様にお願いする。代わりに、マーエ。」

「何か代価ってことかな……うん、いいよ。」

「中身聞く前に契約署名したら、いけない。聞いてから言って。」

「どのみちいいよ、って言うことになりそうじゃ?」

「それでも聞くのだ。いいね?」


 頼むから聞いて。とまで言われて、マーエが聞かされたのは、(割と緩いのでは?)と首をかしげるような『お願い』の予約だった。念を入れて確認をとるが、


「嫌な仕事を引き受けさせられたりとか?」

「ちゃんと説明する。仕事じゃないのだ。」

「信徒になってとかじゃなく?」

「ない。≪深淵に眠る御方≫、信じたくなったらメバルに言うといい。これは違うのこと。治したあと、メバルのお願い聞いてほしい。それだけ。」


 具体的には教えてくれないんだ、とマーエは弱々しく苦笑いを浮かべるが。


「じゃあ、いいや。お願いする。」

「うん。目を閉じて。そして、足は元通りで、悪いことはなにも起きなかった。それを思い描いて。」


 どれだけ叫んでも声が伝わらないのに気付いて、苛立たしげに口をゆがめるザレナ。それをしっかり抑え込むシアバスを筆頭に、ザレナ以外の全員が油断なく、僅かな不安を込めて見守るなか。

 僧侶が桶にかざした手の下から、一陣の風を巻いて清水がほとばしり、すぐ桶の縁までを満たした。そして、水全体が青白くまばゆく、部屋全体に広がる輝きを放つ。

 マーエは、座った姿勢で目を閉じた。

 輝きはすぐ小さく、桶に吸われるように消えてゆき、


「治ったのだ。目を開けて、マーエ。」


 僧侶が呼びかけると、盗賊はぱちりと目を開け、桶から素足をひっぱりあげて、自分で立ち上がった。

 ここまでは、居合わせた全員が目にした出来事。

手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。

次は、マーエが体験したことの中身です。


お読みいただきありがとうございました。

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