大きめミラクルソリューション
手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。
実はドゥイドゥイ屋にも使う技術だったりします。
厳しい表情の僧侶は、抵抗の意思を失くして座り込んでいる手下のひとりに近づいた。
「ここに盥はあるか? 水桶でもいい。持ってきてほしいのだ。」
「たらい……桶ならあるが……?」
ぼんやり答える女に、メバルはもう一度お願いしてみる。
「持ってきて。今すぐ。」
「わ、分かった。」
もたもたと立ち上がるのへ、
「早く。走る!」
とまで声を上げるので、周りの者がひどく驚いた。普段紹介するとき『温厚な』とか『穏やか』といった言葉がついて回るタイプで、声を荒らげるなぞとんと無縁そうに思われているのが、メバルという僧侶なのだから。
シノビに軽く頷きかけると、メバルは手近な椅子を起こしてそこにマーエを座らせた。本人の筋力が無いので、支えて座る姿勢を取らせたというべきか。
「あの、ご、ごめん……首から下に力が入らなくて。はは……」
「謝るはしないでいい。支えてあげて。」
前半はマーエに、後半はシノビに指示を飛ばして、メバルはふと目を床で喚く女に向けた。
「きみは静かにすると良いのだ。」
素早い単語の組み合わせと、床を叩く杖の音で、罵声は途切れた。入れ替わるように、大きな桶を持った手下が速足で戻ってくる。
それを手招きし、まだ毛布に包んだままのマーエの足を入れさせてから、僧侶は引き解け結びにしてある縄をほどいた。あらわれた足の状態と臭気に、わずかに目が細くなった。
さらに検分するうち、頭上から声をかけられた。
「僧侶、さん。アタシの足、どーなってんの?」
少し呂律が怪しい。これほどの量の薬、あるいは毒にもなるほどの量を盛ったとなれば、『解毒』した瞬間、苦痛で身をよじって転げまわる羽目になりかねない──。
「マーエ。状態は良くない、見るのはとても辛いのだ。必ず治す。」
「どーなってんの……かな。」
「見るのか?」
見せたくない、と直截に言うこともできず念を押すと、やはり見たい、と言われて。
シノビに「支えてあげて」と指示して、自身もマーエを前から支えつつ、ゆっくり前かがみの姿勢にしてやる。
足はひどい状態だった。
「……嘘?」
足首関節のところから少し上に、真鍮の輪が嵌められていて、その下から、尺骨と橈骨がうす白く突き出している。その白い骨も、螺子のように刻み目が入っている。刻み目に沿って、薄赤い液体がゆっくり溜まり、ぱたり、と毛布に落ちた。
何をどうしたら、そんな加工を生きた体に行えるのか。その苦痛は、感覚があれば耐えきるものではなかろう。
歩く、走る、跳ぶといったあらゆる行動への残酷な略奪。
「ア、タ、シ、の、あ、し、が!」
激昂か、パニックか、両方ともとれるマーエの肩を、手袋をしたメバルの手がやわらかに抑えた。
「落ち着いて、マーエ。落ち着いて。必ず治す。絶対治るから。今ここで。」
「治る?」
切り落とされた足をどうやって?
非難さえもにじんだ疑問を、僧侶はこわばった笑みで受け流す。
「大きめの奇跡を、神様にお願いする。代わりに、マーエ。」
「何か代価ってことかな……うん、いいよ。」
「中身聞く前に契約署名したら、いけない。聞いてから言って。」
「どのみちいいよ、って言うことになりそうじゃ?」
「それでも聞くのだ。いいね?」
頼むから聞いて。とまで言われて、マーエが聞かされたのは、(割と緩いのでは?)と首をかしげるような『お願い』の予約だった。念を入れて確認をとるが、
「嫌な仕事を引き受けさせられたりとか?」
「ちゃんと説明する。仕事じゃないのだ。」
「信徒になってとかじゃなく?」
「ない。≪深淵に眠る御方≫、信じたくなったらメバルに言うといい。これは違うのこと。治したあと、メバルのお願い聞いてほしい。それだけ。」
具体的には教えてくれないんだ、とマーエは弱々しく苦笑いを浮かべるが。
「じゃあ、いいや。お願いする。」
「うん。目を閉じて。そして、足は元通りで、悪いことはなにも起きなかった。それを思い描いて。」
どれだけ叫んでも声が伝わらないのに気付いて、苛立たしげに口をゆがめるザレナ。それをしっかり抑え込むシアバスを筆頭に、ザレナ以外の全員が油断なく、僅かな不安を込めて見守るなか。
僧侶が桶にかざした手の下から、一陣の風を巻いて清水がほとばしり、すぐ桶の縁までを満たした。そして、水全体が青白くまばゆく、部屋全体に広がる輝きを放つ。
マーエは、座った姿勢で目を閉じた。
輝きはすぐ小さく、桶に吸われるように消えてゆき、
「治ったのだ。目を開けて、マーエ。」
僧侶が呼びかけると、盗賊はぱちりと目を開け、桶から素足をひっぱりあげて、自分で立ち上がった。
ここまでは、居合わせた全員が目にした出来事。
手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。
次は、マーエが体験したことの中身です。
お読みいただきありがとうございました。




