身勝手ディリュージョン
手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。
書いてて指の重たい回です。
一人が奥に逃げたのを『わざと』見逃したので。
開け放たれた扉の脇に、武闘家シアバスが立つ。正面には抜き身を手にしたボリスと、盾を構えたヨアクルンヴァル。床に転がって呻いている男女を、小さな治療呪文で治療している僧侶。
表通りに面したドア脇には、サムライとウィザードが見張りに立っている。そのドアに、小さなノックがあって、サムライが薄く引き開けるのと、奥から足音荒く背の高い女がやってくるのは、ほぼ同時だった。
女は鉄を巻いたこん棒を左肩に持ち、顎をそらして、部屋のそこかしこに転がる手下たちの惨状、そして正面の戦士ふたりを見てとるや。
「ウチに殴り込んできたのぁお前らかイッ!?」
威勢のいい啖呵の、末尾が痛みにひきつった悲鳴になった。重い音を立ててこん棒が床に落ち、「ィイデデテタッ!」と、悲鳴がくぐもってくる。
シアバスが、女の腕を関節が外れないギリギリで背中に捩じりあげてゆく。腕を折られたくなければ、上半身を折ってでも、力を逃がす方へ身体を動かさざるを得ず、結局。
「~~~~ッ!」
後ろに極めた腕をさらに布で縛りあげて、「計算通り。」と一言、シアバスが宣言する。
表の扉で伝言を受け取ったサムライが、押さえつけられてる女の罵声に負けじと声を張り上げた。
「マーエ殿は救出済みだ。で、あるが、大きな怪我を負っているとの由。メバル殿、診ていただきたい。」
「分かった。」
マーエの名前が出た途端、押さえつけられてる女の罵声がより大きく、攻撃的になった。僧侶が立ち上がってドアから出てゆくのと交代するように、盾を構えたまま、ヨアクルンヴァルが近づく。
「アンタがザレナってやつかい?」
「そうよ! マーエは私んもんだ、だってそういう運命だからって」
運命、とか大げさじゃないか? と思ったヨアクルンヴァルは、その後に続く内容に、眉をぎゅっと寄せた。大きな声だったので、部屋にいる全員はそれを聞かされる羽目になる。
手下たちは、奇妙な無表情──「反論するのは無駄だ」と聞き流すときによく見る表情になっていた。
「お前らが、お前らが私のマーエから!私の!ひっそり見守る手段だったのに!」
床に押し付けられながらもねめあげられたボリスは、苛立ちを隠しきれなくなってきた。
「カード捨てさせて!挙句!フリーになったマーエと一緒に仕事するのは、私のはずだったのに!」
「……ちょっと手が滑っていいですかね?」
とか、抜き身を片手につぶやく始末。さすがにヨアクルンヴァルが、「一番の被害者はマーエなんだから、止めなよ。」と制した。
激した罵りとも、妄想ともつかない呪いに満ちた声はまだ続く。
「運命の彼氏なのに!二人はそうなる運命だってのに!だから私が誘拐劇まで仕組まなきゃならなくなったんだ!変装とか入れ知恵したのお前らだろ!」
テイ=スロールが、下顎を指でさすりながら、気分の悪そうな顔をしている。
「推測、ということにしておきますが。このひとの中では、僕らのせいということになっているようですね。」
「……そうらしいねぇ……。」
ヨアクルンヴァルまで、『盾をザレナの頭の上に偶然落っことす方法』を考える顔つきになっている。
何故なら、彼らへの恨み言が、次第に『誘拐したマーエとどうなるか』妄想に切り替わってきたから。
「何よ、もう手遅れよ。足首落としてしまったもの。アタシがずっと世話して、ずっと傍で愛してあげるしかないの!」
(このひとは何を言ってるんだ?)
と異口同音で言いたくなるが。語られる内容は、ザレナにとては強固な信念に支えられた事実のようであり。
「食事とるのも下の世話も全部全部、私がやってあげるんだから!だから、マーエは絶対私を愛するに決まっているの!」
虫唾が走る、とテイ=スロールは小声で毒づいた。ただ、小さくはあるが聞こえないほどではない。
ザレナは血走った目でウィザードをにらみつけた。
「バカにして!皆して私をバカにしてえ!お前らだって、陰で私を嗤ってたこと知ってるんだから!許さない、絶対幸せになってやるんだから!!」
手下たちまで罵倒し始めたとき、ドアから僧侶メバルが入ってきた。唇をほぼ真一文字に結び、緊張した表情で。
続いて、ぐったりと力のない様子のマーエと、それを肩に担いだ藍色ずくめの人物、シノビも入ってくる。そして街の子も一人。
手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。
ちょっとシャレにならない状況が判明しました。
お読みいただきありがとうございました。




