騒ぎにならないはずなんじゃなかったのかな
手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。
僧侶メバルさん視点。
お昼のとき、やってきたシジラさんを相手に、ヨアクルンヴァルはこういったのだ。
「さらわれた仲間を、さっと行ってさっと助け出すんだ。わざわざ荒事をやりたいわけじゃないからねっ。」
シジラさんは、それを聞いて、腕組みを解いたのだ。
「騒ぎは小さく、身内の救出優先ということか。」
「そうとも。そこにチーム背負ってるアンタが目撃されちゃ、大事になっちまうよっ。」
「それもそうだな……。」
僧侶メバルは、マーエをなんとか平和裏に取り戻したいと願っていたから、重装戦士のこの言葉を聞いてほっとしていた。レンジャーのシジラさんより、シノビのほうが上手くやれそうだなぁ、とも思った。
だから、シノビのリクミが入り込むちょっと前、正確に言うと≪街の子≫がザレナが戻ってきたのを教えてくれたタイミングで、≪叫星組≫事務所で騒ぐことになるのも、
「陽動なのだな?」
「そういうこと。」
と納得していたのだ。
ちょっと怪我したくらいなら、メバルが治してあげられるし。
怪我をしたら仲間でも、有名な盗賊組合のやくざ者でも、どちらでも構わず治療するつもりだったのだ。
壁ぎわに立っていた用心棒のところへ、ヨアクルンヴァルと、その後ろにボリスがついて歩いていくのを、斜向かいの店の陰からメバルと、テイ=スロールは見守っていた。
ヨアクルンヴァルは、平服だが背中にカバーをかけた盾をかけてるし、ボリスに至っては両方の腰に短剣を佩いているから、用心棒は当然、
「何だぁ、テメェらぁ」
脇に持っていたメイスに手を伸ばす。
伸ばすのだが、伸ばしたその時点で、壁際からささーっと寄ってきた(壁にくっついて横歩きしてきたんだと思うけど、スピードが小走り並みの速さだった)武闘家に、手首を取られて捩じりあげられて、あれっ、と思ううちに首にも別の腕が回ってて、「くゅ」みたいな変な声をだしただけで、昏倒した。
用心棒さんをそっと、出入り口脇に横たえるシアバスに、ヨアクルンヴァルはにっこり笑って頷く。
そして、中に明かりが灯ってて、外の騒ぎが気づかれてないのを確認。
ウォーリアが指を立てて、軽く手で拍子をとりながら、立てた指を折っていく。
3本、2本、1本──
「ふん!」
短い気合いでドアを蹴り開けて、ヨアクルンヴァルが盾をカバーごと構えて前進。それに合わせて、メバルとテイ=スロールも事務所ドアの方へ走っていく。もう日が落ちてるから、荷車や人の往来は少ない。
隣の、イケナイ薬屋さんにお客さんもあるのだろうけど、ちょっと引っ込んだ立地だもの。この事務所の方は通りに面してて、人が聞きつける騒ぎになるとしても……ならないはずなんじゃなかったのかな、と僧侶は思った。
手遅れな気がしてきた。
走りつくと、サムライのオアイーナブスと、武闘家シアバスが脇についてくれたので、そっと中を覗き込む。
内部では、テーブルごと壁に押し付けられて呻いてるひとが3人。押し付けてるのは、ヨアクルンヴァル。
喉元を手で押さえて気絶してるひと、膝を砕かれて(砕けてるような痛がり方)るひとがもう一人、床でのたうってる。やったのはきっとボリス。
ほかのテーブルに居たひとが、さっと立ち上がりざまに、
「叫星にカチコミかオラぁグゲッ?!」
ヨアクルンヴァルに盾で顔面を強打されてた。すごく痛そうなのだ。
「お邪魔するよ。ザレナってのは誰だい?」
血がすごくでてる顔を手で押さえてるひとを足元に転がして、ヨアクルンヴァルが大きい声を出す。
スーファンさんから聞かされた人相風体のひと、この中には居なさそうなのだが?
それを誰かが説明してくれると助かるのに、ってメバルは思っていたのだけど。ここのひとたちは、男も女もみな、説明する気持ちがないみたいなのだ。
ヨアクルンヴァルやボリスに飛びかかって、何人かは盗賊らしく時間差で奇襲とかしようとしてたのを、返り討ちというのをされてる。隣のシアバスが、
「計算通りとはいえ、俺ら暇だな」
と、笑いをこらえるように小さい声で言ってた。
ザレナってひとが居ないのなら、居ない、って言えばいいのに。おかしなひとたちだなぁ、とメバルは文化的ギャップをひしひし感じていた。
「あっ、一人逃げますよ!」
隣にいたテイ=スロールが、指摘した通り。打ち合わせていた展開のひとつ、『一人逃がしてザレナを呼ばせるか、警告させる』になってきた。
奥の二階では、リクミがマーエを助け出してるタイミングだ。うまくザレナをこちらに引き付けておけると、いいのだけれど。
見える範囲の怪我人が、今はまだ死にかけではないことを確認しつつ、僧侶は胸元の聖印にそっと指を触れて、祈った。
手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。
表の方で陽動が始まりました。次回はまた、マーエ達のほうに戻る予定です。
お読みいただきありがとうございました。




