先輩は情報を集め、そして渡す
手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。
マーエ以外の人々はどう動いたか、第二幕です。
スーファンが『金毛熊』亭を覗き込んだときに、カウンター奥の防音つき仕切りはテーブル2つを囲う大きさにつなげられていた。
「や、初めましてだなー。マーエの先輩で、同じく≪自由な盗賊≫のスーファンと言います。」
よろしく、と頭を下げる。すでに集まっていた冒険者たちはそれぞれに礼を返してきて、近くにいた筒形帽子をかぶった青年が、空いた椅子を勧めてくれた。
伝言筒に書かれたマーエの言葉は、明後日くらいから街を離れることと、ザレナについての調査進捗は、孤児院に預けてほしいというもので。
スーファンが読み終えた直後に、別の≪街の子≫が走ってきて、マーエ誘拐の報を知った。
今、冒険者6人と、街の子らしき少年1人は、2卓をくっつけたテーブルの中央に置いた図面を熱心に覗き込んでいる。建物らしきその図に、スーファンは見覚えがあった。
「来て早々すまないがなー、私は午後から出るんで、直接は手助けできそうにないんだー。」
誰も何も言い返さなかったが、視線や気配が「なんだって?」と責める感じに向いてくるのを、スーファンは小さく肩をすくめてやり過ごす。
「代わりに、ザレナの事と、マーエが捕まってそーな場所のことなら教えられる。同年の中じゃ、あの女はちぃっと厄介なんだー」
「どう厄介なんだい?」
赤い巻毛の女戦士が聞いてくるのへ、さて、どう話したものかな、と一呼吸置いて。
「性格のちょっとした瑕っていうかなー。一つずつなら、誰だってあるだろ、なんだけど、いくつもあって、度を越しておかしい性というやつだなー。」
スーファンは話し始めた。
私やマーエみたいに、育て親や歳の近い同士でちゃんと繋がりもってるヤツばかりじゃないんだなー、孤児院で育つってのは。
ザレナは、言ってみりゃ「育て親の前では周りとうまくやってる演技するけど、他の子を心ん底から大事にしたりしてない、自分の考えた通りにいかないとすぐ怒って、傷つくようなこと平然と言う、他の子の気持ちなんかホントはどうでもいい」感じのヤツだな。
自分が注目の的になるのが当然、自分が慕われて当然。
力持ちで胆のすわったヤツだから、目立とうと思って頑張ればそれなりに、注目されたし、下の子なんかは優しくされたり守ってもらったらそりゃ懐くよなー。
で、そういう時もさ、懐き方がさ、自分の思った通りじゃないと、途端に寄ってきたのを振り払うってか、お前なんか要らないって感じでなー。
ああいう女に惚れられたらさぞや、って思うわ。
でもってここが大事なんだけどな。
マーエはテルセラだろ?
恋をした相手によって、はじめて性別があらわれるっていうじゃないか。……うん? 年代近い連中はみな知ってる話だよ。
当然これは、ザレナも知ってる。
そして、私からすりゃあすっごく変なんだが……ザレナの中では『そうなるに決まっている』話が出来上がってたんだ。孤児院を出て、街で偶然再会したら、マーエは『きっと』『絶対に』ザレナに運命を感じて、理想の彼氏に『なるに違いない』ってね。
あー、うん、私だってウエッて思った。この話聞き出したのはつい昨日のことなんだな。≪叫星組≫の手下に、居酒屋で奢ってやってなー。姐さんの妄想語り、って有名らしいや。
今日のうちにも、マーエに警告してやりたかったんだがな。
ともあれ、誘拐したとすりゃザレナと、その手下たちで確かだろなー。
マーエの話から整理したんだが、ドゥイドゥイ屋のポイントカードを捨てた後からだろ? 尾行がついてたの。
≪叫星組≫はドゥイドゥイ屋の出資者の一つだからなー。『思った通りに恋におちる』物語のためなら、ザレナが金を握らせて、ドゥイドゥイ屋経由で迷宮内の動向を把握してたくらいは、あり得ない話じゃないだろ。
えっその筋じゃ有名な話、知らな……かったみたいだなー?
「知らなかったのだ。」
呆然まじりに述懐する僧侶を筆頭に、全員が否定の仕草をしたり。「噂だと思ってた」と肩をすくめたのは街の子だった。
「有名チームの動向や戦利品情報を吸い上げて、他所に売ってるって噂はあったぜ。」
「トカル」
名前を呼ぶ声と同時に、シアバスの骨ばった拳が、街の子のこめかみにめり込んだ。左右から。
「お前は・そう・いう・話を・もっと・父ちゃんと・するべき・だな?」
「イテテ、イタ、イタイイテェエエエェー!?」
一単語の区切りごとに捻じ込まれる拳と、痛がる子供を脇目に、スーファンは絵図面を覗き込む。そして、
「マーエが拐かされたとすりゃ、こっちの建物。店の真裏になる二階部分のほうだと思うなー。」
と書き込み、テーブルからスッと離れる。
「もう行かなきゃならない。私の……や、私ら同年代みんなして、ザレナが『一個ずつは大したことなくても、積み重ねたら沢山おかしい』ことは知ってて、今回のこれを止めきれなかった。済まない。」
奥歯を嚙み締めた顔で、頭を下げるのへ、僧侶が声をかけた。
「スーファン先輩のこと、マーエはよく話してた。面倒見が良いひとだって。反対に、ザレナさんという話、聞いたこと、ないのだ。慰めるになるかどうかは、分からないが。」
「ありがとう、僧侶さん。」
コートの襟をしっかり立てて、スーファンは身をひるがえす。目元が潤んでたのは、誰にも見られてないと良いのだが。
手持ち、残り銀で6240(+6000)枚と銅2枚。
文中では省きましたが、マーエのいるPTはアタッカー、ウォーリア、僧侶、ウィザードの4名。肌肉健肯道場から、師範(武闘家)シアバス、その相方のサムライ、と息子(養子)のトカル君が居ました。
お読みいただきありがとうございました。




