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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
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朝食の訓

手持ち、残り銀で6248(+6000)枚と銅2枚。

アタッカーは、装備品や魔術支援がない状態でも、ひとの枠内であればかなり強いほうです。イニシアティブ先攻補正つきの2回行動て感じです。鎧着てないし、ウォーリアに合わせなくて良いので、むしろこのような『手合わせ』は『足枷が無い』と言う感じ。

 いい感じに話がまとまったなぁ、って思ってたら、アタッカーのことを『ボリス師範代』と呼ぶ人たち、乱入。

 お互い知ってるらしくて、アタッカーは小さく舌打ちしてるし。あんまり会いたくない、てか絶対こうなるって分かってたんだろうなぁ。

 サブリーダーさんもそこは同じらしく。「手合わせ願いたい!」って頭下げてくるひとたちに、半眼になってた。そりゃあね、招いた客に何してくれるんだってことだし。アタッカーが分かってくれて、ほっとするの半分、乱入で面子を損なって不機嫌なの半分てところかな。

 チームハウスには空間を『折りたたんだ』一角があるんだって。

 ついて歩いていきながら観察してみると、アタッカーは「面倒くさい」感じ。ヨアク…ウォーリアも、僧侶も、ウィザードのテイスロールも、アタッカーが面倒そうなのは分かってる風で、でも何も心配してないって風で。

 でも相手は4人もいる。それに体格も良い、てか背丈だけなら大半がアタッカーより高いよ?

 そしたら、横にやってきたウォーリアが、ぽん、とアタシの肘を叩いた。


「安心おし、ボリスの心配はいらないさ。」


 いやそれでも、道場って言うからには武闘家や戦士も居るんだし?

 どう答えようか考えてるうちに。


「アイツの符牒の意味が分かるよっ。まあ、見てなって。」


 ウォーリアがにこっと笑ってたとき、全身の周りの何かがふわっと動いた感じがして。

 あぁ、空間が切り替わったなって。

 両開きの扉をくぐった先は、普段も修練や手合わせする際に使ってるそうで。ぼんやり明るい、砂を敷いた大広間みたいな場所だった。

 アタシたちと、手合わせ願いのひとが4人。サブリーダーさんと、シジラさんと、通路歩いてるうちに何人か、『何か面白そう』って感じでやってきた『ゆるふわ』のひとが8人くらい。

 砂場の外側は4段くらいの石段で、そこに座って観るようになってる。

 一番下の段に、僧侶のメバルさんが居て、


「怪我したらメバルが治すのだ。」


 って声張り上げてて。壁際にある木製武器(芯はたぶん金属だろうし)選んでる、いかにも武術やってます感あるひとたちは、ニヤっと笑って肩を回したりしてる。

 僧侶の隣に腰を下ろして、ざっと相手の得物を眺めてみると、重装戦士ウォーリアか戦士らしいひとは、長柄の斧(木製)。

 ふわっとした長い裾の衣を着た人は、スティックに、直角の握りがついた木製の武器。前腕にくっつけて振ってる。ああいうの使うって、たしか武闘家かな。

 もう一人は盾と片手剣で、いくつかある盾を持ち換えてバランス見てる。

 最後の一人は両手剣で、風切り音が聞こえそうな速度で振り回してる。

 一方こちらのアタッカーは、短剣(木製)2本。防具も何もなし、長袖の毛織シャツに、腿の前側と膝だけ革あてのついたズボン、金属補強のついた革ブーツ。

 ボリスさんの符牒って、『朝飯』だったか。

 このくらい、朝飯前に片づけちゃうぞってことかな?


 とか考えてたら、メバルさんに肩をつつかれた。


「マーエ、ボリスの動き、誰をどう倒したか、教えて。」

「見えるかなぁ……」


 『迷宮』での戦闘は、攻撃の動いた回数くらいは分かるけど、何をどうしたかまではちょっと。自分の警戒もあるるし。


「見える範囲でいいのだ。特に頭を打ったひと。動かさずに、その場で治療呪文かけるほうがいい。」

「頭っすね。そこをしっかり見るように、がんばってみます。」

「お願いするのだ。」


 僧侶さまも、アタッカーが怪我するかもって可能性は全然考えてなかった。


 さっきから渋い顔したままのサブリーダーさんが、5人に向かって注意事項を色々説明した後。石段に登ると、大きく両手を広げて、


「はじめ!」


 と手を打合せる音が──


 アタシは集中してたけど、ほとんどは後追いで理解した。


 まず、ボリスさんの向かって右前にいた戦士が、盾を蹴られて、左前に居た両手剣の戦士は手首をしたたかに打たれた。その反動というか、下がってゆく相手の手首に重心を移して、突っ込んでくる武闘家に蹴りが綺麗に入って。(あまりに綺麗に入ったもんだから、事前に相談してたみたいに見えた。)

 前かがみになった武闘家の肩に、(もう片手の短剣を叩きつけついでに)それを台にして、ようやく斧を振りかぶった重装戦士の足を払い、倒れた腹に膝が入った。

 で、最初の盾を蹴られた戦士が振り向いたところに一歩入って、あ、伸ばした手の先の剣が喉元に突きつけられてる。もう片手の剣は両手剣の戦士のほうへ。

 そのわずかの間で、もう誰も動けなかった。


「降参、降参します!」


 真剣なら喉を掻っ切られてる戦士が叫んで、武器を砂地に落とす。他のふらふらしてるメンバーもそれに続いて。


「……つ、つえぇー……。」


 思わずアタシが呟くと、横から肘をつつかれた。すごい満面の笑顔で。


「ねぇ、どんな風だった? ボリスは強いでしょう!」

「あ、ハイ、そうっすね」


 おーい僧侶、治療はどうしたのよー。

 とはいえ、致命的にヤバイ攻撃してたわけでもないのを説明すると、メバルさんはにこにこ頷いて、「打撲は診ておこう」と砂地に降りていった。

 呻きながら、起き上がったり、打撲をさすってる4人に、アタッカーが静かに語り掛ける。


「僕はアタッカーですから。君たちは向かってくるのが見えていて、腕が6本ある訳でもなく、魔術に支援されている訳でもない。足場はしっかりしている。この結果は当然です。」


 うぁああ、何を容赦なくえぐってるんすかアンタ! 

 お前らは負けて当然だぞ、って言ってるも同然ではないの。って……、


「これでも、僕はまだ限界にたどり着けません。父はその先を行きました。」


 一番ダメージ軽くて、最初に立ち上がった、両手剣の戦士が兜を外す。


「師範代にお伺いしたい。師の語られた、朝食の訓とは。」


 朝食と言われて、ああ、とアタッカーは合点がいったみたい。


「訓と言うほどのことはありません。ただ父は、僕やほかの弟子たちが、強くなったことを自慢げにしていたら、『お前は朝飯を食べたか?』と尋ねました。当然食べた、と答えたら、こう言ったんです。

 『朝飯を食べたことを誇るのか?』と。」


 砂地の上で動けない他のメンバーや、僧侶に小さな回復呪文を受けてる武闘家たちが、ふぅっ、と息を吐くのが聞こえた。もしかすると、喉の奥で泣き出しそうな声を飲み込んでたかも。

 目つきは相変わらず剣呑だけど、アタッカーの雰囲気が、ちょっと柔らかくなって。


「『朝飯』を食べた後何をするのか、を父は問いかけたんだと思います。

 得意な戦い方が何であれ、武人は強くて当然です。ひとではない存在とも闘い、生き延びて、それで何をするかが問われるのではないかと、僕は勝手に思ってます。

 君たちが何を思うかは、また勝手にしたらいいでしょう。」


 それってアタシにはすごく突き放した言い方に聞こえるんだけど。

 倒れてるひとたちや、石段の後ろ側で観戦してた『ゆるふわ』メンバーにはそうでもなかったみたいで。


「うっ……ぐぉおお!」

「ッぅううううう!」


 感極まったみたいに嗚咽が漏れてるのへ、無表情に背を向けてアタッカーは戻ってきた。

 なるほど、『朝飯』っていうワケだ。

手持ち、残り銀で6248(+6000)枚と銅2枚。

アタッカーの養父は、『ひとの枠外』にいっちゃうレベルの天才でした。自身が強いだけでなく、教師としての才覚も持っていた稀有な人物です。


お読みいただきありがとうございました。

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