名前を忘れていた先輩
手持ち、残り銀で4765枚と銅2枚。
主人公は「顔と名前が覚えられない」バツ技能持ちですゆえ……。
スーファン先輩に『お見通しだぞ』の目でにらまれ、アタシは全部話さざるを得なかった。
話したくなかったけど、結局は今日、「お子様に助けられた格好になったが、お薬屋では見張りがアタシを待ち構えてたらしい」件も。
「神学的な話は、私らみたいな凡人には分からないってことで。置いておいて、」
おお、先輩は大人だ。
「あの通りの仕切りは≪叫星組≫だな。2年くらい前に、新人の女が……あー……あー、うん。そっか。そうだったなー」
「何すか先輩!? そういう風に一人で納得するのは止めてくださいよぅ。」
「いや……マーエお前……。」
「哀れみを込めた眼でこっち見るのも止めて!?」
ギーチャンまで、「コイツ何かアホーなことしでかしたんだろ」って顔してるし。
本当に何ごと?
ひねれるもんなら、首を三回転くらいひねってそうなアタシに、「やっぱ覚えてないのな。」と眉尻を下げて。自分でお茶を一杯注ぐと、スーファン先輩は話はじめた。
「私と同年で、マーエにやたら絡んでた女が居たの、覚えてないか。ザレナっていう。」
「ざれ……誰?」
「夜中によくだべってる仲間だったでしょうが。」
その一言で、アタシの脳裏に閃くものがあった。
『調べよう』として、後悔した、あの書類。『母親の精神的錯乱』と、『聴取不可能のうちに自殺』という情報を、伝えられなかったあの先輩。
「あの。確かに仲良かったし、独立したら教えてねって言われてはいたけど、独立した後、孤児院になんの音沙汰も無かったんですよぉ。」
「そりゃそうさ。≪叫星≫の用心棒からスタートして、集金人の頭になるのに忙しかったろうし。」
スーファン先輩にはそういう情報も伝わってたのか。
すごいなぁ、ってまなざしに、先輩はちょっと唇の端を歪めるような笑いをする。
「同年の繋がりで耳に入るんだよなー。育て親には言えないだろう、こういう事。」
「分かります。心配かけたくなっていうか」
「そういう事、な。
さておき、今回の土地売り詐欺は、お前さんに関係してるかどうか、までは断言できない。一方じゃあ、不動産屋と偽ってた場所にお前さんがやってくるのを待ち受けてたらしい。そうとなれば、尾行をつけようとしててもおかしくないなー。常宿を掴むためかどうかは不明だけど。」
「掴まれてはいないはずです。」
サウナ付き道場を経由して出た後は、視線感じてないし。
そう言うと、ギーチャンはめっちゃストレス溜めてる感じの、酒臭い溜息を吐いた。
「マーエの変装は、イケてない風にした方が良いと思う!」
「な、なんで?」
「なんでもかんでもよ。獣人はもうすぐ≪恋の季節≫よ。ただでさえ顔がいいって自覚、持ちなさいよー自覚ぅひっく」
「自覚って言われてもなぁ」
絡むような言い方に、アタシは引きつった笑い顔になってしまった。顔のいいテルセラとは言われるけど、自負するほどじゃないと思うんだけど?
お茶を飲み干した先輩は、テーブルに手をついて立ち上がる。いつの間に置いたのか、離した手の下には食事代ぶんの銀貨がある。
「ザレナが尾行を仕掛けてるのかどうかは、調べられる範囲で調べておくなー」
「いいんですか、先輩」
「≪叫星組≫なのか、それとも違うのか、はっきりせんといけんでしょ。」
何か分かり次第、分からなくても三日のうちに伝言をする、と言って、先輩は店を出て行った。
手持ち、残り銀で4765枚と銅2枚。
シティアドベンチャーは、ここで一区切り。
次回からはまた探索になります。
お読みいただきありがとうございました。




