『不動産屋』なんて、無かったんだ
手持ち、残り銀で4775枚と銅7枚。
分かりたくなくても現実目の前にしたら分からざるを得ない、ってことです。
アタシの背格好をとっかかりにして、見張りが居る可能性。なら、頭2つ以上高い上にごっついお兄さんは逆に見とがめられないだろう。
それは好都合、なんだけど。同じパーティ所属のウォーリアならともかく、今日会ったばかりの息子さんにこういうことを頼むのは、アタシの気が引けるっていうか、プロとして、素人さん頼みってのはどうなんだろ。
とか色々悩みかけた気配を、見破られた。
「大丈夫だよ。俺、機人だし。これは、日常用機体なんだけど、荒くれ者の一人二人くらい何とでもなるし」
といって上等なコートの胸のあたりに手を当てた。
「そういや機人って?」
その言葉に、アタシはドゥイドゥイ屋の継ぎ接ぎされた外見をイメージしてた……けど。
どうみても、獣人の大柄なひとか、巨人族の小柄なひとって感じなんだよねー?
「見てて。」
息子さんはコートの前を開けると、毛織り地のシャツもさっと広げてみせて、首の横というか、後ろ側で指を何かした後。顎を両掌で挟むようにして、軽くねじると、首を持ち上げ。
「みぎゃ────(むが)」
「マーエ、防音超えるような大声はなし、だよっ。」
「ふっぐむむわふん!もむむんふぐぐもふ!(だって首が取れた!なにあの金属の筒!)」
「あー、説明するから落ち着いてくれる?」
と言って、また首を元に戻す機人。
機人というのは『機械からくりでできたひとの形の何か(だからドゥイドゥイ屋みたいなのも一応含めるらしい)』、っていう定義を教えてもらい。日常用機体というのが今の姿のことで(じゃあ非日常用もあるんだろうか)、メンテナンスやら何やらで普段は雇われているところ(詳しいことは内緒、らしい)から出ないけど、今日は休日だって教えてもらった。偵察だって、仕事の一部でやるってことも。
そこらの素人さんではない、ってところを自分に言い聞かせて、納得して。
色々事前にポイントを教えてから、偵察を頼んでみた。
体感的に半刻くらい、実際にはお茶が冷めるまえに、機人は帰ってきた。
結果から言うと、『不動産屋』なんて、無かった。
大きな倉庫と、何かの事務所に挟まれてちょっと奥まったところに、香料とか、火をつけて楽しむタイプの嗜好品(言い方……)の店があった、と。
コモロウの香りがやたらしてた、って言うから、幻覚や興奮作用のある薬剤の店で間違いないと思う。あーいう店は、華やいだ系のコモロウの香をよく使うんだ。商売をごまかすために。
見張りっぽい2人組が、倉庫脇で骨投げしてた、というのも教えてくれた。
マジか……行かなくて正解だった。
女の子をスロール家まで送ってくるというウォーリア親子を見送って、アタシは遅めの昼飯をとりに行くことにした。
手持ち、残り銀で4775枚と銅7枚。
お茶屋さんの代金は、息子さん持ちでした。
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