誤解はとけたけど
手持ち、残り銀で4775枚と銅7枚。
ウォーリアの息子さんはゴディアランといいます。『上級者向け触手BL』の設定資料集作っておいてよかった。
ウォーリアにくっついたアタシたちは、大きい通りを2つほど横切り、『濯纓亭』と書かれた茶店に入る。
それまで、誰もが無言だった。背の高いひとは、質問したそうにこっちを見て、ウォーリアを見て、を繰り返してたけど。
防音つきの衝立で分けたブースのひとつを借りて、お勧めセット3つ、茶菓1つを注文すると、ウォーリアはやっと口を開いた。
「まず紹介だね。アタシの息子、■■■■■■だ。元はドワーフだったんだが、今は機人なんだよ。」
すっごい自慢そう。きっと親子関係がいいんだろなぁ。
「で、こっちはマーエ。一緒に仕事してる盗賊の話は言ったね?」
「いやいや、どう見てももっと歳がいってる……」
息子さん、疑いを捨てきれてないな。
「だーかーら、変装だよ、変装っ」
「そうです、これ変装です。声もちょっといじってるだけで。」
その時、お茶セットとお菓子が運ばれてきて、話は一時中断。お菓子は、小さい子の前に置かれて、残りのポットと茶菓のナッツ類は大人の前に。
従業員が退出してから、アタシは実際に変装を解くことにした。髪を戻して、つけヒゲを外し、メイクをちょっとずつ落としていく。ただ、指につけたインク染みとかはそのままにしておいた。
「あと3刻くらい、声低いままなのはどうしようもないんで。分かってもらえました?」
「……分かり、ました……。」
息子さんの目がまんまるなのは、まぁ、めったに見られるもんじゃないからね。アタシ自身、今回の変装はちょっとやりすぎた、って今更ながら後悔してるもん。
感心したように頷いてるウォーリアが、自分の器にお茶を注ぐ。
「探索も上手いが、変装も凄い、さすがだねぇ」
えへへぇー!
って相好崩しそうになるのを自制して、アタシは真面目な顔を作る。
「ところで、この子はどうしてアタシの居場所とか、分かったんですか。今日の予定、誰にも言ってないはずなのに。」
軽く焼いたカヴァナッツの未熟果に、蜂蜜を掛けてた子が、視線に気づいて顔をあげる。そして、
「分かったから、■■■おばさまに、ついてきてもらったの。」
「え?……え?」
「マーエは、■■兄様のなかまでしょ。あぶないときは、たすける。そういうのが、なかまでしょ。」
この子が兄様って呼ぶのは、ウィザードの名前かな(確か)。
「あ、うん、まあそれはそう…だけど。」
「分かったの。見はりがいて、マーエがきたら、知らせることになってるの。それやらせたら、とてもよくないことになるって。」
「はぁ。」
助けを求めてウォーリアのほうを見たけど、「分からないよ」って感じに肩をすくめられてしまった。つまり
『アタシが行こうとしてた不動産屋には見張りが居て、見つかればアタシの身に危険が迫る。何でか知らないけど、そのことを、この子は知ってた。』
と理解……うーん、そう理解するしかないのかぁ。生まれつき、何か不思議なちからが備わってるって、ことにしよう。うん。
「マーエがおいのりしたからきこえたの!」
えっへん、と胸を張る子供の声は、聞こえなかったことにした。神学的に問題がある、気がする。
アタシはアタシで、『前のパーティメンバーが、結婚することになり、郊外に小作人付の小農場を買った話』と、『見送り時に、≪転移の座標石≫作動音が変だった』ことと、『不動産屋が10日も経たずに貸店舗になってた話』を。できるだけ短く。
それと、さっき行こうとしてたのが、その『不動産屋』がもともと入ってた建物だってことも。
「さっきみたいな変装してたら、ばれないと思うがねぇ?」
と、ウォーリアは首をかしげてたけど。
アタシは内心で、見破れなくはないんだよな、と戦慄してた。
背丈や体つきまでしっかり変えたわけじゃないから。街中でも、背の高さをざっくりみる方法はあるし、体格だってそう。それに一人行動の男性か女性、顔がいいなどなど、条件で篩にかけていけば、『見破れなくても怪しいヤツ』は当てられる。
『組合』所属の盗賊や用心棒なら、怪しいヤツってだけで威嚇したり、「おいちょっと来い」で物陰に引きずり込んだりとかしても、それは何も問題ないわけで。
「……アタシ、たどりつかなくって、結果的には良かったと思うよ。」
「それでも、その『不動産屋』の場所だけは一度見ておきたいねぇ。」
ウォーリアがお茶を飲み干すのと同時に、茶にも菓子にも全然手を付けてない、息子さんのほうが言い出した。
「俺が行ってみようか。」
手持ち、残り銀で4775枚と銅7枚。
濯纓は、屈原の『漁父辞』にでてくる「滄浪の水 清まば、以って吾が纓(冠の紐)をあらうべし」から。屈原実は女の子説、妄想するだけなら好きですね。
機人については次回です。
お読みいただきありがとうございました。




