変装がイケオジすぎて
手持ち、残り銀で4775枚と銅7枚。
熱視線の意味に気づいた主人公。
正午にはまだ2刻くらい余裕がある。
『昼夜百日』で飲んだ薬は、喉周りの筋肉を緩めて、声を低くしやすくしてくれる。あと3刻くらいもつだろうから、カードに書かれた『不動産屋』に行ってみるなら今のうち。
あまり急いでる風に見られないよう、坂道をゆっくり降りてゆく。この近辺、坂道だと思ったら別の家の屋根だったりする立体的な土地だもの。
大通りを外れないように、通りの看板を確認しながらゆくうちに、アタシの嫌な感じは大きくなっていく。職人の工房や倉庫やらのほかに、色付き硝子の角灯を吊るしただけの『パッと見ただけじゃ何か分からない』お店。いわゆる『組合』の賭場や色宿がある。ほとんどの店は、時間的に開店してない、そこはありがたい。
アタシは、急ぎ足にならないように、ゆっくり、を意識しながら、通りを過ぎる。
過ぎようとした、赤い硝子の角灯の脇で、腕を掴まれた。
思いのほか強い力で。
「やぁーんイケオジ!ね、ね、ちょっと寄ってきなさいよ!」
娼館上階が張り出してる通りなので、薄暗いけど、その従業員の目がただならぬ光を持ってるのは分かる。いわゆる『獲物を見つけたときの肉食系の獣が浮かべる光』ってヤツ。
そういや、不動産屋の受付もこんな感じだったことに、今更思い当たる。今更すぎる。
この瞬間、というか心臓が2回鼓動を打つ間に、アタシの頭はものすごい速さで案を出して却下した。
案その1。曖昧にほほ笑んで首を振り、「私の好みはもっと年上でして」とか言って胡麻化す。
これは却下。「じゃあ中に来てみて」とか食い下がられたらいけない。腕にくいこむ、相手の手のほうが力が強い。中に引っ張り込まれて、ナニかをしようにもアタシはナニもついてないんだって、バレることより相手の反応が怖い。
案その2。対人格闘と割り切って、指を極めて腕を外してもらう。
これも却下。アタシは冒険者だけど、武闘家じゃないし、力はあっちの方が強くて、上手くいくかどうかは五分の賭け。
案その3、えーとえーと神様に祈る?
お祈りしちゃう?!
孤児院時代に覚えた祈り言葉を、記憶から探ろうとしたとき。
「どーん!」
あっ、こういう声でぶつかってくる子って、他にも居るんだ?
じゃない。
このふわふわ巻き毛と、耳の上にちょこんと生えた山羊角は──(誰だったっけ)!
アタシは相当びっくりしたけど、この直後の一声で、
「パーパ、みーっつけた!」
腕をつかんだ娼館の従業員も、相当びっくりしたらしい。力が弛んだ隙をとらえて、アタシは痛い思いをさせない程度に、相手の指をさっと外す。
「見つけてくれてありがとう、では失礼。」
黄緑色の、子供用の筒型ドレスが色鮮やかに膝にまとわりつくのを、内心エイヤッと気合いいれて腕に抱き上げて。小さい手が指さすほう、アタシが歩いてきた方向へとスタコラ退散した。
曲がり角を入った途端に、見覚えのある赤い巻き毛。わ……鎧着てないから印象が違うけど、ウォーリアが居た。
小さい子と、それを抱き上げてるアタシ(変装した姿)を見て、目を剥いてるんだけど。
「もう下ろしていいよ、マーエ」
抱いてる子の声で、この変装した姿がアタシだと理解した……のかな?
怪しむような、信じたいけど信じられないやって、そういう顔してるもんだから、子供を下ろして。
「声、いじってるけど、アタシだよ。ダイニング・キッチン。」
名乗りは効果てきめんで、ウォーリアはにっこり笑って、みるみるうちに吹き出すのをこらえる表情になったのだった。
手持ち、残り銀で4775枚と銅7枚。
女の子がつけているのは、明るい薄黄緑色のカフタンとブラウス、柔らかい革靴という『お嬢様ファッション』です。
次回は経緯説明も併せていきます。
お読みいただきありがとうございました。




