師匠の意見を聞いてみた
手持ち、残り銀で4864枚と銅0枚。
にわかに推理アドベンチャーめいて参りました。
箱入りお菓子の山は、思った通り大歓迎された。
「ありがとお!」
「お肉のひとありあとー!」
「またお肉もってきて!」
なんだお肉のひとって。いや分かるけど、そういう二つ名はちょっとなぁ。ダイニング・キッチンよりはましなのかな?
育て親は、アタシの顔みるなり『なんでも言っていいんだよ』の表情になったけど。小さい子たちをローブにまとわりつかせてて、忙しそうだったので、代わりに先生の所在を訊いた。
夕飯前のこのくらいは、先生に時間があるのを知ってるし。勝手知ったるなんとやら、万神殿の翼棟のひとつに歩いて行く。
先生の部屋は、他の神官たちと同じように、寝台ひとつと椅子ひとつ、服や小物を入れておく櫃がひとつだけだ。代わりに、続き間のほうは広くて、大きな円卓と、壁の2面が棚で埋まってる。先生はその円卓の前で、手製の『罠』にかがみこんでいた。
先端に湾曲した細いばねが付いた針を片手に集中してる……のを、申し訳ないけどノックで遮ると。
「や、マーエ。どうした?まあ座って座って。」
一瞬で椅子に座りなおして、しわで一杯の顔をくしゃくしゃにした笑顔になる。何時訪ねてきてもいいよって言うのが、社交辞令じゃないんだよな。
「先生、ちょっと聞きたいことがあって来たんだ。≪転移の座標石≫は知ってる?」
「そらぁ知ってるとも、よほどの遣り手の金持ちしか使わん代物だ。どうした?」
「キマルが結婚した話はもう、したよね。」
「したとも。お前も早」
「相談はそのことなんだけど!」
アタシに矛先が向きかけるのを遮って。
「≪転移の座標石≫が作動するときの音って、どんな音なの?」
ごくり、と唾を飲み込んで、先生の答えを待つ。
「そらぁお前、板硝子が割れる時みたいな、耳に刺さる音だ。」
そういう答えを予想はしてたけど、ああ、やっぱり。あの時聞いた音は、違ったんだ。
椅子に座っててよかった……。立ってたら、床にへたり込んでしまったかも。
「じゃあさ、先生。もし、≪転移の座標石≫です、って渡されたアイテムが、作動するとき違う音を立ててたら、どういう可能性があるのかな?」
先生は、冒険者を長年やって、生き延びて、盗賊の師をしてるおひとだ。アタシの震えてる声と、キマルの話を結び付けるくらい簡単だった。
孤児院でアタシと同年育ちのキマルと、前パーティーに居たレンジャーのヒョウム。二人が最近いつも一緒に休みを過ごしてるよね、って思っていたら、あっと言う間に結婚話になってて。自分たちで、小さい農場をやれる土地を見つけてきてた。
ある不動産屋から、建物つき、≪転移の座標石≫もセットで売ってもらえる、という破格のいい話。しかも手付金を銀で2万で済む代わり、翌々年以降の収益で銀5千枚。それが3年。結婚の証文を頼んだ伝手で、ジェスネ派の法律家に売買の証文も書いてもらった。確か、写しはヒョウムの姉さんがもってる。
二人は、秋と冬の初めに、2回、≪座標石≫を使って、売物件を見に行って、ちゃんとク=タイスの公営転移場へ帰還できてた。
すごくいいところだって誉めてた。昨年のぶんの畑は、もともと雇われていた小作人が2家族でやってて、来年からキマル夫婦と契約しようって話にもなってて。
農場主と、街での冒険者の兼業は大変だけど、まずは農場経営を頑張らなくちゃねえ、ってキマルはカラカラ笑ってて。
パーティは組みなおすか、単発で入ることになると思う。ヒョウムはそう言うと、静かにほほ笑んで頷いてた。
さておき、アタシは二人が≪転移の座標石≫を使うのに居合わせたことがなくて、最後のお見送りの時、初めて作動音を聞いた。だから素直に、へー、こんな音なんだ、って思ってた。
これで、≪座標石≫が本物じゃなかった可能性が高くなった、と言っても良いと思う。
先生もアタシの結論には賛成してくれた。
「純正品の≪転移の座標石≫も、事故を起こすことはある。だからこそ、事故防止のための定期整備やらが必要だし、それ自体も値がはるもんだ。≪迷宮の神≫信仰団が厳重に管理してる上に……ふむ。」
「何かいい考えが?」
「や、そう急くな。今の話をこのまま≪迷宮の神≫信仰団に持ち込んだとしても、真面目に取り上げてもらえることはあるまい。」
「う……、それは、分かります。」
アタシにはまだ確証がない。
「普通の座標石と違う音がした」「不動産屋のあったところが、10日足らずで貸店舗になってる」だけだもんね。
「代わりに、マーエが調べられるだけのことを調べて、マジもんの詐欺だったことをはっきりさせるんだ。それを伝えたら、信仰団は詐欺師どもを絶対に許さんだろうな。」
先生がそういって、椅子に寄り掛かったとき。
夕飯だよー、の声が廊下からしてきたので、アタシはお暇することにした。
「キマル達がどこに吹っ飛ばされたにせよ、まだ10日。レンジャーとウォーリアが組んでるなら、まだ生き残れてる可能性はある。」
「ありがとうございます、先生。」
手持ち、残り銀で4864枚と銅0枚。
お読みいただきありがとうございました。




