2件目のアタッカーは手練れってことは分かった
ファンタジー世界でも、自分で調べられることは調べような……って、盗賊はまさにそのためのクラスだったわはっはっは。
この世界の『組合』はマフィアと同様、自分たちに所属してない連中が都市内で稼いでること、存在そのものを憎悪しています。目立つことをしたら絶対、誘拐したり、生命活動を停止させに来ます。目立ったつもりなくても。
主人公は孤児院や、独立後は先輩から、そういう話を聞かされて育ってますので、「用心しすぎってこたあない」と思ってます。
時間をずらして、伝言と集合場所兼ねた飯屋を偵察した結果。
1件目は「あっこりゃないわー」だった。
僧侶とおぼしき女性が、テーブル越しに戦士っぽい男の腕ねじり上げて、
「その子に、ちょっかい、かける、な、と言ったでしょう。思い出せないなら刻み込むよ?」
って脅してる現場に居合わせてしまった。
可愛い言い方?
なれあい?
いやいや、単語一つずつ噛みつくような言い方だったんだよ。分かる?
利益分配が少ない、ってのが、ひとつの失点なら。
こういう『関係がぎくしゃく』ってのも、大きな失点だ。
アタシは仕事が欲しい、それもできるだけいい仕事が欲しい。でも新人として入ったとたんに、腕ねじり上げてどうのこうの、騒ぎに巻き込まれるのは、高確率でありえる。
カンベンして、なのだ。
2件目、名の売れた僧職がいるってグループは、まぁ当たりというか、失点なし。
魔術師らしい青年が、ヴェラム再生紙広げて帳面つけ、全員で硬貨を均等割りするべく色々話してて。そうしながら、軽食きたり飲み物がきたり、雑談しつつもベタベタもせずって感じの一団だった、4人だけだけど。
うーん、4人ってところがちょっと不安かな。でも仲良しすぎず悪くなくっていうのは、入りやすい感じがしていいな。
「オリジナルリキュール、飲み干せたらその卓の酒代無料」
って書いてる張り紙を眺め、周辺視野で2件目を観察してたアタシは、頼んだカードをちびりと舐める。
アタシは『組合』の盗賊じゃない。神殿関係ならまだしも、それ以外の繋がりがほとんどない『孤児院育ち』な以上、"なじみ"の店以外は危険地帯だと思って間違いない。だから、良く味を知ってる飲み物以外、頼まない。
何か味が変だなと思ったら昏倒して、気が付けば、叫んでも誰も来てくれないような場所で『組合』に囲まれてるとか……、あるいはもう絶対目が覚めない、みたいな目には遭いたくない。
ここは、店の内装のくたびれ具合から、長くやってることは分かる(プラス1点)。奥の厩や、上階の様子からして、冒険者に下宿も提供してる店らしい。ある日突然現れて、ある日突然なくなって『貸店舗』の札をかけられてるような場所じゃないってこと。
周辺視野の4人は、ここに下宿してるのかな?
それだけでも確認して立とうかどうしようか、迷ってるうちに、筒型の帽子をかぶって魔術師が席を立った。それから、大きな盾とカバーかけたオノ持った重戦士も。最後に残った、双剣の軽戦士と肌の青い僧侶が、払いを確認してもらってから一緒に立つ。
んんー?
距離近いですねェお二人?
少し間をとってから店を出ると、ちょっと先の通りで、浮浪児に小銭をあげる僧侶がいた。財布の位置を確かめるふりして立ち止まる。
周辺視野、周辺視野。
って、自分に言い聞かせて直視しないように。軽戦士のほう、やたら目配りが鋭いんだもん。反対に僧侶サマのほうは、ぽやーって言う感じ。
歩き出した二人を、間になにか挟むよう心掛けながらつけていく。バレそーになったら即退散する腹積もりだったけど。
この通りの先だと、職人町にいくのかな。
あ、戦士が……近寄ってきた巾着切りに鞘で一撃入れてる。さりげない動きで僧侶を建物のほうに囲って、からのえげつないスピードで旋回、うわひっど(腹に一撃はいった巾着切り、落ちてた馬糞にしりもちついてた)。
周辺視野のつもりが、がっつり見てしまったので、尾行はこれで終わりにしよ。
2件目のアタッカーは手練れってことは分かった。
手持ち、残り銀で477枚と銅1枚。
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