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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
58/180

仕込み杖

手持ち、残り銀で4664枚と銅0枚。

本作はほのぼの冒険譚を目指しております。

……目指しております。

 戻る前に、変装をまたイヌ系獣人の顔(半獣化)に戻して。茶房『暗香』に入ると、奥のテーブルにいた老人が手をかるく挙げてくれたので、そちらに向かう。

 塒が2つとも監視ついてたことと、2つめの監視が≪街の子≫の擬装(下手だけど)してたこと、そして本物の街の子に、監視をお願いしてきたことを報告すると。


「マーエさんは遣り手じゃの」


 との、コメント。いやぁそれ程でもえへへへへ!……ってなりかけるのを自制して、


「どうも。」


 とクールに頷き返し、自分のお茶を注ぐ。

 アタシが地図に書き込んだ監視の人数、位置。それを眺める老人は、手の中のカップを揺らすだけで、口をつけずに何か考えてる。

 それがやっと顔をあげたとき、「塒に戻りたいので監視とかは排除しよう」みたいな話を予想してたんだけど。


「ふぅむ。じゃ、塒は廃棄じゃな。後で団員に荷物回収を頼むとしようて」

「えっそれでいいの?」

「いいのいいの」


 ようやくお茶を一口すすって、老人はカラカラ笑う。


「こういうこたぁ、何度もあった事よ。必要なものは全て、ココに(といって額を指さした)入っておる──『歌剣』団には寝泊まりもできるしのぅ。」

「すごい記憶力だね」

「ふほほ、褒め称えて良いぞ良いぞー」

「本当すごいと思う!」


 木皿に載った焼きカヴァナッツと、身反みそうおの干物焼きをつまんで、愉快そうに笑ってた老人が、ふっと真顔になる。


「ま、こういう身一つで逃げ出すときも、頭の中身だけは持っていけるからのぅ。」

「真理だなぁ。アタシの先生と同じこと言ってる。」

「先生がおるのかい?」

「ん、まぁそういう感じのひとが。どんな追い剥ぎも、身につけた技芸や頭の中の知識は奪えないんだから、しっかり身に着けるように、って言われてたんだ。」

「ほほぅ……、盗賊の師匠か。」


 詳しいことを話させられそうな気配に、アタシは先手を打った。


「そっちも、若いころから劇作者だったの?」

「ワシか。まあのぅ」

「『歌剣』団に居るってことは、剣か、詩作ってことでしょ。」


 両方かも知れないけど。

 そう思ってたら、老人は椅子に立てかけてあった杖を引っ張りよせて、上から1フィートの所を両手でひねるような動作をした。

 テーブルの向こうに、鈍く光る刃が、指幅1本ぶんだけ見える。


「両方じゃ。若い頃ぁ迷宮の探索にも行ったものよ。『焱無ヤンウー』ベルヴィエったらちょっとは……ま、今は立ち回りは勘弁じゃ。この膝がのぅ、もう言う事を聞いてくれんのよ。」


 苦笑交じりの嘆きがおわるのと同時に、刃は魔術みたいに消えて、元の杖になっちゃった。

 

「やんうー?」

「古代語で言うたワシの『符牒』じゃ。炎が無い、という意味じゃの。そういや、マーエさんは何かあるのかい?」

「あっ、イヤ、アタシはその、ちょい恥ずかしい……」

「笑いはせんから言うてみぃ、ほれ。」

「ホント、カンベンっ。」

「いやいや、変装してても会うた時に、ちゃんと通じたほうがよかろう?」

「それはその。」

「ワシは教えたんじゃから。」


 詩の神様に仕える老人相手に、アタシの抵抗は空しかった。

 符牒を教えた老人の顔が、奇妙に……笑いをこらえようとした人が良くやる……無表情だったことは、できれば忘れたい。

手持ち、残り銀で4664枚と銅0枚。

元は「剣圧で炎が消える」とかそういうレベルの使い手の、二つ名だったんじゃないかなと。


お読みいただきありがとうございました。

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