仕込み杖
手持ち、残り銀で4664枚と銅0枚。
本作はほのぼの冒険譚を目指しております。
……目指しております。
戻る前に、変装をまたイヌ系獣人の顔(半獣化)に戻して。茶房『暗香』に入ると、奥のテーブルにいた老人が手をかるく挙げてくれたので、そちらに向かう。
塒が2つとも監視ついてたことと、2つめの監視が≪街の子≫の擬装(下手だけど)してたこと、そして本物の街の子に、監視をお願いしてきたことを報告すると。
「マーエさんは遣り手じゃの」
との、コメント。いやぁそれ程でもえへへへへ!……ってなりかけるのを自制して、
「どうも。」
とクールに頷き返し、自分のお茶を注ぐ。
アタシが地図に書き込んだ監視の人数、位置。それを眺める老人は、手の中のカップを揺らすだけで、口をつけずに何か考えてる。
それがやっと顔をあげたとき、「塒に戻りたいので監視とかは排除しよう」みたいな話を予想してたんだけど。
「ふぅむ。じゃ、塒は廃棄じゃな。後で団員に荷物回収を頼むとしようて」
「えっそれでいいの?」
「いいのいいの」
ようやくお茶を一口すすって、老人はカラカラ笑う。
「こういうこたぁ、何度もあった事よ。必要なものは全て、ココに(といって額を指さした)入っておる──『歌剣』団には寝泊まりもできるしのぅ。」
「すごい記憶力だね」
「ふほほ、褒め称えて良いぞ良いぞー」
「本当すごいと思う!」
木皿に載った焼きカヴァナッツと、身反り魚の干物焼きをつまんで、愉快そうに笑ってた老人が、ふっと真顔になる。
「ま、こういう身一つで逃げ出すときも、頭の中身だけは持っていけるからのぅ。」
「真理だなぁ。アタシの先生と同じこと言ってる。」
「先生がおるのかい?」
「ん、まぁそういう感じのひとが。どんな追い剥ぎも、身につけた技芸や頭の中の知識は奪えないんだから、しっかり身に着けるように、って言われてたんだ。」
「ほほぅ……、盗賊の師匠か。」
詳しいことを話させられそうな気配に、アタシは先手を打った。
「そっちも、若いころから劇作者だったの?」
「ワシか。まあのぅ」
「『歌剣』団に居るってことは、剣か、詩作ってことでしょ。」
両方かも知れないけど。
そう思ってたら、老人は椅子に立てかけてあった杖を引っ張りよせて、上から1フィートの所を両手でひねるような動作をした。
テーブルの向こうに、鈍く光る刃が、指幅1本ぶんだけ見える。
「両方じゃ。若い頃ぁ迷宮の探索にも行ったものよ。『焱無』ベルヴィエったらちょっとは……ま、今は立ち回りは勘弁じゃ。この膝がのぅ、もう言う事を聞いてくれんのよ。」
苦笑交じりの嘆きがおわるのと同時に、刃は魔術みたいに消えて、元の杖になっちゃった。
「やんうー?」
「古代語で言うたワシの『符牒』じゃ。炎が無い、という意味じゃの。そういや、マーエさんは何かあるのかい?」
「あっ、イヤ、アタシはその、ちょい恥ずかしい……」
「笑いはせんから言うてみぃ、ほれ。」
「ホント、カンベンっ。」
「いやいや、変装してても会うた時に、ちゃんと通じたほうがよかろう?」
「それはその。」
「ワシは教えたんじゃから。」
詩の神様に仕える老人相手に、アタシの抵抗は空しかった。
符牒を教えた老人の顔が、奇妙に……笑いをこらえようとした人が良くやる……無表情だったことは、できれば忘れたい。
手持ち、残り銀で4664枚と銅0枚。
元は「剣圧で炎が消える」とかそういうレベルの使い手の、二つ名だったんじゃないかなと。
お読みいただきありがとうございました。




