アーチの先へ
手持ち、残り銀で3530枚と銅2枚。
落とし格子の罠は、スイッチになってるバネ仕掛けに噛ませをいれて無効化した。ついでにどの敷石かも、手持ちのインクで印をつけておく。
通路はすぐ先で右に折れて、鍵のかかった扉があって。
アタシは楽勝で開けたんだけどね!
入った先は、正方形の部屋だった。北側の壁に沿って、大きい車輪のついた手押し車が5台つけてある。カート自体は木製だけど、持ち手や角は鉄で補強してあって、埃をかぶってた。西側の壁は棚。なめし革のカバーをかけた荷物がいくつも置いてあって、棚の前には木製の脚立もある。南側は、大きなデスクが一つと、丸椅子が周りに3脚。そして、デスク脇、東の角に接する部分はアーチになってて、通路は先に延びてて。
アタシは脚立を試してみた。軋むけど、大丈夫そう。ピックをそっと伸ばして、一番上にある、小さい包みを軽くつつく。爆発もしないし、天井も落ちてこないし、呪詛が発動したりもしない。
持って降りて、デスクに置くと、紐をそろそろ引っ張ってほどいて、ピンセットで包みを開けてみた。埃が上がるのをやり過ごして、中身を見てみると……。
「紙」
だった。お安い繊維紙じゃなく、高いほうのヴェラム紙で、手触りなめらか。これって、高級品なのかな?
他の包みも、持てそうなものだけデスクで広げてみる。
様々な太さの葦ペンや筆(古くなって脆い)。
組み立てるように印が付いた木枠と、すごく細い絹糸の束(これも古くなってる)。
何が入ってたのか分からない、くすんだ茶色や黒い硝子瓶が沢山。
分かり易いようにデスクに並べておいて。他のメンバーを呼んでくると、僧侶が、
「写本づくりの道具なのだ」
と、一発で謎は解けた。
やーそうじゃないかなーとは薄々思ってたんだけど、間違ってたら恥ずかしいし。
魔術師は、例の会計記録を思い出したみたい。
「推測ですが。ここで製本作業をしていた。あるいは、道具置き場だったのかも知れないです」
「どんな本売ってたんだろうねぇ?」
ウォーリアはそう言って、一緒に棚を探ってたんだけど。
他に見つかったのも『本を包む用の袋』とか『革を張る用の薄い板(触れると湿気で崩れた)』とか。持って帰っても、仮に全部持ち帰れたとしても、古さもあるし、あまりいい値段にはならなさそう。
他にも何かないかなって部屋を回ってたら、アーチ脇の壁から、紐が切れて落ちてた板切れを見つけた。埃をそっと払うと読み取れた。
『今週の合言葉 転倒』
この先で、『合言葉を尋ねられるような何か』があるってことね。
アーチに罠はなく、その先はこの部屋よりちょっと東西に長い部屋で。気配はない。聞き耳を立てて、静かに歩いて入りながら、光を帯びた短剣を少しだけ、刃を引っ張り出す。
出した途端、アタシは静かに静止した。
ちょうど正面に、分厚そうな木のドアがあって。
普通なら、太いかんぬきでもあるはずの真ん中に、『手を頭上に挙げた形で、横倒しになった骸骨』が鎖と鉄環で据え付けられてて。
アタシはクールに立ち止まって。
内心では、
(ぎゃあああああ ガイコツ!ガーイーコーツっうあわぁああああああ!)
て絶叫してた。
さっきの部屋に残してきたメンバーが、光の輪の中で動いてないことを目の端で確認して、静かに息を吐いて。首筋の毛がぞわぞわしてるけど、アタシはクールだ、冷静だと。自分に言い聞かせて、この仕掛けをもう一度見てみる。
ガイコツの両手は、壁に埋められた鉄環を握ってる。
そして、さきの部屋にあった板切れの『合言葉』。
これが魔法装置として、まだ『活きてる』のかは……分からない。えぇい、近づいてみるしかないかっ。
アタシが態と、足音を立てて一歩踏み出したとたん、ガイコツはカタカタと口の部分を動かしだした(活きてる────!)。
死んでてほしかった。もうガイコツだけど。装置として死んでてほしかった。そしたら、力技でドアぶっ壊したりもできたろうに。
もう無くなった可能性のことを考えてると、ガイコツから声がした。
『…アイ…コトバ……イエ』
ひどくしわがれた声で、抑揚のない言い方だったけど。
合言葉を言えってことだよね、これね。
「転倒?」
自信がなかったから、語尾が疑問ぽくなっちゃったけど。
『ア゛イコトバ、カ…クニン』
骨と鉄のこすれる音がして、骸骨の手が環から外れた。アタシはそっと近づくと、扉をおさえて奥へ手鏡をかざす。
物音も匂いも何もない、石畳の通路だった。
手を放すと、扉は自動的に元に戻って、ガイコツの手がサッと鉄の環をつかんだ。すごいな、魔法装置。
それから見える範囲の部屋をざっと探索したんだけど。カートが3台置いてあるだけで、あとはこの奇抜なドア(ガイコツ付き)くらいしか無い。
立ち去るときも『アイコトバイエ』としわがれ声がしたけど、アタシはそっと離れて、仲間を呼びに行った。
手持ち、残り銀で3530枚と銅2枚。
このダンジョンのインテリアデザイナーは誰だぁ!って、誰か言いそうな気がします。
お読みいただきありがとうございました。




