帰途の視線
手持ち、残り銀で3542枚と銅7枚。
ブロックパーリィかよって感じの蒸し風呂です。いえーい。
(全部が全部こういうのじゃないですよいぇーい)
しんみりしちゃったけど、お茶ももらったし元気出たな!
とはいかないのが、重量物を運んだ後なんだよ……腰も脚も筋肉が痛いし、足の裏も火照って痛い。
こういう時なのに、下宿への道を歩きだしてちょっとしてから、背中に向けられる視線に気が付いてしまって。
アタシは不愉快な気分で足をなんとか、いつも通り(よりは、ちょっとゆっくり目に)動かし、『肌肉健肯』道場へ向かう。
割符を見せると、受付に居た大きな(座ってるのに目の高さがアタシより上、横幅も前後の幅もアタシの3倍はあろうかっていう)ひとは一つ頷いた。OKってことらしいので、アタシは手持ち銀を3枚、カウンターに置いてみた。
「今回だけ、風呂を使わせてもらっていいかな」
もう一回の頷きと、
「マッサージもするか。銀3ならちょうど込み」
という低い声の返事に、アタシは内心で万歳しながら、クールに頷き返したのだった。
「今日はビート!お前らヒート!」
全員が「イェー!」って声を上げる。
「耳がふやけるぜジンジンジン!石は弾けるぜガンガンガン!」
精霊術師の声に合わせて、全員が三回ずつ足踏みする。
蒸し風呂ってこんなんなの、かな。や、この道場がこういうのなんだろうか?
アタシはふうふう言いながら、周りにあわせて追いつこうと必死。汗はダラダラだけど、体はなんかふわっと軽い感じ。吸い込む空気は熱いし、汗の匂いもすごいけど、石にはじける水や水蒸気のシュワ!って音、声と太鼓、足踏みや手で腿を叩く音。
そういうの全部で、頭がくらくらする。
「ぉ前ら立つぜ、ノルぜ、たぎるぜ!
どの道それが自然、本能、ビートが起こすぜ、手ぇ挙げな!」
「イェーア!ハ!」
「挙げた手を振れ アツイ汗降れ」
かけ声と合わせたドラムに乗って、みんな手に持った葉っぱを振って。水蒸気がもうもうと立ち込める。アタシも「うひーっ」てなりながらだけど、何か楽しい!
そんで、まだぽかぽかしてるうちに、下着姿(周りもそんな感じだから恥ずかしいとかはないし。男女とも。)で、簡易寝台でマッサージ受けたんだけど。これがまた、蒸し風呂が汗を流しきってしまうのと、一緒に声だしたりするの気持ちよかったのとは、別のほうに気持ちいい。
疲れたのとか筋肉の痛みとか、全部がマッサージ師の手で絞られて、消えてく感じ。手の先から足指の先まですごーく脱力してしまった。
これで銀3枚か……毎日通っても家賃より安かったなあ……って、いかんいかん。3500枚ちょっとは、無駄遣いを許せるような財産じゃない(観劇はいいんだよっ)。
すっかり体が軽くなったので、小部屋を借りて、顔の造作をちょっと変える化粧をして。コートを畳んで持って、歩き方も変えて、道場の裏から出させてもらう。視線は感じなかった。
これが仲間の居るときなら、逆尾行に持ち込むことも考えるんだけど。アタシはもう、今日は一日分の仕事をしたんだ。
相談するなら明日にしよ……。
手持ち、残り銀で3539枚と銅7枚。
大丈夫ですよ、ちゃんと下宿にたどり着いてます。
お読みいただきありがとうございました。




