表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
47/180

あなたの小さい頃

手持ち、残り銀で3542枚と銅7枚。

今回も、多くなった銀貨は神殿に預けています。

 孤児院に持って帰ったダイア・キンケイの肉は、子供たちに大歓迎された。

 そりゃ、大人ひとりの体くらいでっかい肉のかたまりだからね! 食べでがありそう。っていうか、全員が2回お代わりしても絶対足りる。

 さすがに獲れたては不味いから!日を置いてから!

 ……って説明したけど、ちらほら見えるのは不満顔。何人かは厨房に忍び込んで、『味見』しそうな雰囲気があったから、別室でお茶をもらいつつ、アタシはそのことを育て親に忠告しておく。


「あなたの小さい頃そっくりですね。」

「そ、それはそのぅ……」


 すみましぇんでした……と小声になるアタシに、育て親はにっこり笑う。


「いいのですよ。腹痛で半日寝込むことになれば、相応に反省もするでしょう」


 あなたみたいにね、と付け足された。うぐぐ。おっしゃる通りでございます。

 冒険者になるべく、基礎訓練を始めている子たちは、何かと実践したがる。その中には当然、アタシのように探索の訓練を受けてる子も居るわけで。


「思い出すなぁ、何でも調べようって、こっそり忍び込んでた」

「……そうですね。」


 育て親の声が少し沈んだ。

 アタシも思い出した。『調べよう』として、後悔したこともあったのを。



 十三、四歳ともなれば、早い子はもう真獣形態への変化ができるようになり、読み書きもほぼ履修しちゃって、独立ひとりだちする子も居る時期。アタシは、自分の種も分からないし、テルセラって何よ状態、もーホントすごーくストレスため込んでた。

 そりゃ、先生や育て親は慰めてくれたり、気にしないでいいよって言うけどさ、気にするなってのは無理なのよ。

 周りはみんな、何がしか部分獣化できたり、半獣形態できてお祝いしたりしてるんだから! めでたいことだし、お祝いはちゃんと言うよ、だって仲間だもん。

 でも……、でもさ、お祝いを言うばっかりで、言われることが無い立場って、本当にキツイのだ。似たような立場の先輩や後輩とつるんで、夜のお茶会であーだこーだと、今にして思えばアレは愚痴の言い合いっていう、つまらないことばっかしてたな。

 自由な盗賊(フリーランス)を引退した先生の修行は面白いよ。毎日自分が上達してる感じが分かって、そういうのがあったから、塞ぎこみそうになる気がまぎれたし。

 アタシは『技芸アルス』に熟達しつつある、て自信がついてきてるときだった。特に仲の良かった先輩(名前は覚えてない)のために、こっそり書類を見てきてあげる、って話になったのは。

 あの夜も確か、自分の種が分からないのってすごい腹が立つよね、苛々するしもう最悪!みたいないつものお茶会兼愚痴吐き大会だった。それが、孤児院の書類を見たら、少なくとも『母は子を知る』んだから、片親の獣人種くらい分かるんじゃない?ってことになって。

 訓練した技芸が役に立つ!

 って、自負する気持ちでいたんだっけ……、先輩がすごい目が輝いて、期待してる顔だったのは覚えてる。

 敵地に潜入する偵察みたいな気分で、明かりひとつない真っ暗な廊下を、記憶と手探り、足探りだけで進んで、ほかのひとの気配に耳を澄ませて、ってホントに緊張した末、アタシはその書類を見つけた。

 見つけたけど、先輩には

「いっぱい書類があって、見つけきれなかった。もしかすると、厳重な鍵のかかるところかも知れない。アタシには無理」

 といって謝ったのだ。

 お腹の上、胸とのあいだが、きゅーっとして震える感じだったけど、アタシは残念そうな表情を保って、謝りまくって、翌朝は寝不足で起きた。

 寝不足は速攻で育て親にバレ、その日は訓練をお休みして。

 アタシの話をじーっと聞いたあと、育て親は静かに指摘したのだ。


「見つけ出した情報が、伝えて良いものかどうかは、また別のお話ですよ」


 いっそ尻叩きでもされてたほうが良かった、ってくらいアタシは泣いた。

 先輩の書類にあった、たくさんの記入事項のうち、二つだけは今も覚えてる。

 『母親の精神的錯乱』と、『聴取不可能のうちに自殺』だ。

 孤児院にいる子が、全員『ゆりかごに、種族と名前だけ記した手紙をつけて』発見されるわけじゃないのは、分かっていたけど。あの時まで『それ以外の来歴』には何があり得るのか──親が不明なほうがマシなこともある可能性を、全然分かってなかった。

 そのあと、盗賊の師匠にも、複雑な顔で、


「偵察や、シノビになるつもりなら、もっと色々見聞きすることになる。それを伝えるか、伝えないか。伝えるならどう伝えるか。判断するにゃ、経験を積む必要があるのだぞ」


 って言われた。やっぱりアタシは泣いた。ただ叱られるだけのほうがまだマシだって思った。

 厳しい顔でこんな事言われたんだもん。


「やった事は間違ってたが、やり方は間違ってない。やった事、やろうとする事はしっかり考えて選べ。それができないと、お前は独立した日の夕方に、死体になってる」


 叱られるより、もっと辛い。

 なぜなら、アタシは子供扱いじゃなく、『一人立ちしかけの若者』扱いされてることに気が付いたから。



「……でも、結局あの先輩には何も言いませんでしたし」


 そう。顔をみる都度、あの2項目が記憶のなかから、口元に飛び出してきそうで。先輩に会わずに済むよう、夜のお茶会も出なくなり、修行はもっと本格的になったし、忙しく過ごして……ううん、忙しく過ごすようにしたのだ。


「マーエ、先輩の名前、憶えてるかしら?」

「うっ」

「覚えてないのね……。あれだけ可愛がられて、絶対絶対独立したら教えてねって言われてたのに……」

「だ、だ、でもっ、その先輩だって孤児院に手紙も何もないって聞きましたよ?」

「まあそうですけどね」


 たまにそういう人もいます。

 と、育て親は寂しそうにお茶をすすった。


手持ち、残り銀で3542枚と銅7枚。

先輩(スーファン先輩とは別のひと)の母親は、何らかの性犯罪、虐待、薬物依存等が疑われる事例だったようです。

本作はほのぼの冒険譚ですので、世界は残酷で醜いですが、救いもあります。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ