あなたの小さい頃
手持ち、残り銀で3542枚と銅7枚。
今回も、多くなった銀貨は神殿に預けています。
孤児院に持って帰ったダイア・キンケイの肉は、子供たちに大歓迎された。
そりゃ、大人ひとりの体くらいでっかい肉のかたまりだからね! 食べでがありそう。っていうか、全員が2回お代わりしても絶対足りる。
さすがに獲れたては不味いから!日を置いてから!
……って説明したけど、ちらほら見えるのは不満顔。何人かは厨房に忍び込んで、『味見』しそうな雰囲気があったから、別室でお茶をもらいつつ、アタシはそのことを育て親に忠告しておく。
「あなたの小さい頃そっくりですね。」
「そ、それはそのぅ……」
すみましぇんでした……と小声になるアタシに、育て親はにっこり笑う。
「いいのですよ。腹痛で半日寝込むことになれば、相応に反省もするでしょう」
あなたみたいにね、と付け足された。うぐぐ。おっしゃる通りでございます。
冒険者になるべく、基礎訓練を始めている子たちは、何かと実践したがる。その中には当然、アタシのように探索の訓練を受けてる子も居るわけで。
「思い出すなぁ、何でも調べようって、こっそり忍び込んでた」
「……そうですね。」
育て親の声が少し沈んだ。
アタシも思い出した。『調べよう』として、後悔したこともあったのを。
十三、四歳ともなれば、早い子はもう真獣形態への変化ができるようになり、読み書きもほぼ履修しちゃって、独立する子も居る時期。アタシは、自分の種も分からないし、テルセラって何よ状態、もーホントすごーくストレスため込んでた。
そりゃ、先生や育て親は慰めてくれたり、気にしないでいいよって言うけどさ、気にするなってのは無理なのよ。
周りはみんな、何がしか部分獣化できたり、半獣形態できてお祝いしたりしてるんだから! めでたいことだし、お祝いはちゃんと言うよ、だって仲間だもん。
でも……、でもさ、お祝いを言うばっかりで、言われることが無い立場って、本当にキツイのだ。似たような立場の先輩や後輩とつるんで、夜のお茶会であーだこーだと、今にして思えばアレは愚痴の言い合いっていう、つまらないことばっかしてたな。
自由な盗賊を引退した先生の修行は面白いよ。毎日自分が上達してる感じが分かって、そういうのがあったから、塞ぎこみそうになる気がまぎれたし。
アタシは『技芸』に熟達しつつある、て自信がついてきてるときだった。特に仲の良かった先輩(名前は覚えてない)のために、こっそり書類を見てきてあげる、って話になったのは。
あの夜も確か、自分の種が分からないのってすごい腹が立つよね、苛々するしもう最悪!みたいないつものお茶会兼愚痴吐き大会だった。それが、孤児院の書類を見たら、少なくとも『母は子を知る』んだから、片親の獣人種くらい分かるんじゃない?ってことになって。
訓練した技芸が役に立つ!
って、自負する気持ちでいたんだっけ……、先輩がすごい目が輝いて、期待してる顔だったのは覚えてる。
敵地に潜入する偵察みたいな気分で、明かりひとつない真っ暗な廊下を、記憶と手探り、足探りだけで進んで、ほかのひとの気配に耳を澄ませて、ってホントに緊張した末、アタシはその書類を見つけた。
見つけたけど、先輩には
「いっぱい書類があって、見つけきれなかった。もしかすると、厳重な鍵のかかるところかも知れない。アタシには無理」
といって謝ったのだ。
お腹の上、胸とのあいだが、きゅーっとして震える感じだったけど、アタシは残念そうな表情を保って、謝りまくって、翌朝は寝不足で起きた。
寝不足は速攻で育て親にバレ、その日は訓練をお休みして。
アタシの話をじーっと聞いたあと、育て親は静かに指摘したのだ。
「見つけ出した情報が、伝えて良いものかどうかは、また別のお話ですよ」
いっそ尻叩きでもされてたほうが良かった、ってくらいアタシは泣いた。
先輩の書類にあった、たくさんの記入事項のうち、二つだけは今も覚えてる。
『母親の精神的錯乱』と、『聴取不可能のうちに自殺』だ。
孤児院にいる子が、全員『ゆりかごに、種族と名前だけ記した手紙をつけて』発見されるわけじゃないのは、分かっていたけど。あの時まで『それ以外の来歴』には何があり得るのか──親が不明なほうがマシなこともある可能性を、全然分かってなかった。
そのあと、盗賊の師匠にも、複雑な顔で、
「偵察や、シノビになるつもりなら、もっと色々見聞きすることになる。それを伝えるか、伝えないか。伝えるならどう伝えるか。判断するにゃ、経験を積む必要があるのだぞ」
って言われた。やっぱりアタシは泣いた。ただ叱られるだけのほうがまだマシだって思った。
厳しい顔でこんな事言われたんだもん。
「やった事は間違ってたが、やり方は間違ってない。やった事、やろうとする事はしっかり考えて選べ。それができないと、お前は独立した日の夕方に、死体になってる」
叱られるより、もっと辛い。
なぜなら、アタシは子供扱いじゃなく、『一人立ちしかけの若者』扱いされてることに気が付いたから。
「……でも、結局あの先輩には何も言いませんでしたし」
そう。顔をみる都度、あの2項目が記憶のなかから、口元に飛び出してきそうで。先輩に会わずに済むよう、夜のお茶会も出なくなり、修行はもっと本格的になったし、忙しく過ごして……ううん、忙しく過ごすようにしたのだ。
「マーエ、先輩の名前、憶えてるかしら?」
「うっ」
「覚えてないのね……。あれだけ可愛がられて、絶対絶対独立したら教えてねって言われてたのに……」
「だ、だ、でもっ、その先輩だって孤児院に手紙も何もないって聞きましたよ?」
「まあそうですけどね」
たまにそういう人もいます。
と、育て親は寂しそうにお茶をすすった。
手持ち、残り銀で3542枚と銅7枚。
先輩(スーファン先輩とは別のひと)の母親は、何らかの性犯罪、虐待、薬物依存等が疑われる事例だったようです。
本作はほのぼの冒険譚ですので、世界は残酷で醜いですが、救いもあります。
お読みいただきありがとうございました。




