≪深淵に眠る御方≫教のお振舞
手持ち、残り銀で1512枚と銅0枚。
Cとthで始まるあの御方と、異界の空を飛び来る麺類妖怪の福音書の内容が不思議反応でできた教えです。
その恩寵は本物なので、べつに術者が集中を維持してなくても消えません。ミートボール乗せパスタ美味しいですよね。
拍手と歓声が沸いて、あ、中に泣く声も混じってる。最前列の人が何人か、袖で目元を覆ってるな。
熱心な信徒たちの声が静まってから、僧侶はすこし声を張り上げる。
「神様からの贈り物は、皆でいただくのだ。壁際の列のひとから、お椀をもって前に来る、いいね?」
祭壇脇の衝立から、湯気がほかほかしてる、大きな両手鍋が二つ。両側から修道士が2人で抱えて、祭壇に置いた。肉団子山盛りの陶器のボウルをもったひともその脇に。
順番に!という案内の声に従って、壁際のひとから静かに祭壇に進んでく。凄いな……、誰も割り込んだり先に出たりしない、しようとしないなんて。
鍋の中身は細めの麺と、赤い色の(たぶん赤ソラナム)ソース。お椀に山盛りの麺と、縁のぎりぎりまでソースを入れてもらって、ボウルの肉団子を2つを乗せて。説教壇にかけられた布の絵、そっくりだなー。
「≪深淵に眠る御方≫は、お腹がいっぱいになるの、幸せだとおっしゃる。お腹が空いてたら、どんな悪いことでもしそうになる。だから満腹すると良いのだ」
あ、そういうことなのね。
アタシのいる列の番になって、前を通るときかるく頭を下げると、僧侶はにっこりしてくれた。お椀によそってもらって、熱い赤ソラナムのパスタを口に運びながら、ふと、祭壇を見る。全然減ってるように見えないな……。
あのパスタと団子は魔術の産物かな。僧侶は、
「満腹してない人はお代わりすると良いのだ!」
って、席のあいだを歩きながら、にこにこ呼びかけてまわってる。
その袖をつかんだのが、最前列にいたひと。泣いてるのを隠してもいない。
「■■■様。どうぞお願いいたします。なんでもいたします。俺を探索の旅にお連れ下さい」
おっどうするのかな。もしかして、パーティに新規加入か?
パスタ食べながらも、耳だけそっちに向けて観察してると。僧侶は、袖をつかんだ手をそっと撫でてから外して、
「ごめんね。それはできない。まだ、君の欠け落ちた気持ち、癒えてない」
ほんとうに残念そうに言いながら、相手の手の甲を撫でて、放す。
「『なんでもする』は、言ってはいけないの。献身の徳でなく、自分の痛みを消したいからでしょう」
「うっ……、そ、それは言葉の、」
「■■■■。君は、自分の技能に、限界があるということ、知った。限界は、恥じることない。自分認めてもらうのに、ほかの部分、犠牲にしてはいけないよ」
「俺は……俺はぁ」
今頃気が付いたんだけど。
涙声になるひとの名前、あれ、さっきお話にでてきてた……な、確か。自信ないけど。とすると、道場の流派とかはぼかしてたとしても、段位取れなかった程度の腕前かぁ。
勝手に誰かをパーティに入れたりはしないだろう、とは思っていたけども。
この僧侶は優しい、優しいけど、きっぱり線を引いてる。泣きそうになってるひとを優しく宥めて、湯気をたててる鍋のほうへ誘ってる。
「お腹いっぱいになる、そうすると、泣いたり怒ったり、できないからね!」
真理だなぁ……。
パスタ美味しいもんな……、って!?
ホントに、緊張感が抜けそうになって慌てて顔をあげる。ヤバかった。
お代わりしに行ったときに覗いたら、鍋はできたてみたいな湯気をたててたし、麺もソースも減ってない。魔術の産物なら、これって僧侶の集中力が切れたらなくなるやつではないのかしら。
とか思ってたんだけど。
「ほんとうに、お腹いっぱいか? 鍋のなか、まだたっぷりあるのだ。誰か遠慮、してる証拠」
って僧侶や修道士が声かけてまわって、ほんとうに最後のひとりまで「お腹いっぱい」「もう食べられない」と言うまで、鍋の中身は消えなかった。
そして、アタシが僧侶に軽く頭下げて、聖堂をでて街を歩くだんになっても、満腹感は消えなかった。
神様の恩寵てやつ、すごいな……。
手持ち、残り銀で1512枚と銅0枚。
お昼からは旧交温め回になります。




