≪深淵に眠る御方≫教の説法会
手持ち、残り銀で1512枚と銅0枚。
襲撃者の名前は、ハーボウと言います。ただし主人公の耳を素通りしているためこういう表記になりました。
善いことをしても、ひとから嫌われる、憎まれることがある。
知ったのは、2年ほど前のことなのだ。
仲間や、友達が、守ってくれた。襲撃を、うまく躱したりできなかったときもある。私の護衛に、ひどく打たれて、鼻骨を折ってしまった襲撃者もいたから、その骨折だけは、■■■が治してあげた。
(■■■様優しい……という呟きに、僧侶は軽くうなずく)
その時■■■は、
「■■■は忙しい。真実追求者組合のため、集まりするから。このような仕事はうけては、いけないよ」
って言ったの。そう思ったから。
ひどくびっくりされて、口もきいてもらえなかった。やっぱり、善いことをされても恨むひとは居るのか、思って残念だった。
万神殿から伝言がきた。■■■にお話したいひとがいるよって。
行ってみたら、前に骨折治したひとだった。
あの時■■■が言ったことに、ひどく傷ついた気持ちがしたのだって。いうのだけど、すぐ、それは■■■のせいじゃない、とも言って。
すごく混乱している様子だったから、一緒にお話して、こんがらがった気持ちを整理してみたのだ。
そのお話で、わかったの。
そのひとは、■■■■という名前で、剣士を目指していた。けど、段位の試験に失敗して、道場からも家からも逃げ出して、それからずっと、単発で仕事を請け負う。何でも屋してた。たとえば、有名な僧侶が目ざわりだと思っている団体から、襲撃の依頼を受ける。そういう仕事。
(『悲嘆と破壊の水底』信仰団、という名前が、ひそひそと囁かれた。確か、首席司祭が実は脳吸い魔族だったって噂になった)
なんで傷ついたかっていうか、『傷ついた気分になったのか』というとね。
■■■が「このような仕事は、うけてはいけないよ」って言ったのは、ただ心配だけで言ったのだけど。
その時までね。
■■■■に、ただ彼の無事だけを思って、なにか言ったひとは居なかったの。
そのことに気が付いて、……つまりね。
彼は『どれだけ、自分のことが大事にされてなかったのか』ってこと、気が付いて、傷ついた気持ちになったの。
■■■■のご両親は二人とも、剣士と、魔術もつかえる剣士だったんだって。ただ、最後の探索でひどい怪我して、父親は剣は使えなくなったし、母親のほうも他パーティを組みなおすことはせず、街の中にある商店を買い取って、自分たちでやることにした。
そして、息子には剣士になってほしかった。何かと剣士は良い仕事、と言う。街で通える道場ならどこそこの中でもあそこがいい、お勧めする。それに、収入からすると、高いほうの道場に、通わせたりした。
息子であるところの、彼は、期待にこたえたかったし、なんとかという道場に行きたい、ともたしかに言った。うん、でもね。
「やっぱり辞めたい」
「他のことをしてみたい」
そう思ったことを、ちょっと言うだけなのでも、
「お前が選んだのを応援してやっているのに」
といって、凄く怒られたのだって。真面目なひとだったから、そう言われると、自分が意気地のないやつのように思えるのが嫌だ。やっぱり続ける、となったんだ。
でもね。『お前は言われた通りにやれ』と、道場での練習に加えて、親からいわれた鍛錬もして、それで肘や腱を痛めたら、
「自分の体調管理くらいできないのか」
とか言うのは、ひどい親だと思うのだ。
うん。私がそう言ったら、■■■■もそう思うって。
何をして何をしないか、友達は誰と付き合うかとか、全部、親に指図されるのはおかしいって、思えなかったのが、変だって。
そこまでしても、道場の段位の試験で落第したとき。怖くなって、家に帰れないって思ったのだって。
「有名道場の段位をとって、高給をとれる剣士になる」
いい聞かされたことを実現できなかったら、どうなるんだろう。
何か怪我をしたりとか、調子をくずすと、
「剣士になれなかったらどうするの!」
と怒られてばかりだった。
そういう言われ方したら、「なれなかったら自分はどうしようもないクズなんだ」と、思い込んでいたのだ。
家から離れてそのまま、街の通りで声をかけてきた冒険者くずれと一緒に、何でも屋を始めたのだそうだ。
「何かができるから」大事にする、というのは、よい育てかたとは言えない。特に、親がなにかしらのして欲しいことやなってほしい像を、子に強いるのはよくない。
そういう風に『大事にされてなかった』の、気が付いたから、■■■■は傷ついた気持ちになったのだ。ひどく傷ついたの気持ち。
そこに怪我をしたひとがいたからと、私は襲ってきた相手を治療した。そのことにも、■■■■は傷ついた気持ちになったのだ。
「何かできるか、お返しがもらえるか」
だけで相手を測ってきたといって、泣いた。自分にはそういう徳が無いって。
あっ、皆には、勘違いをされたくないので、言うとね。世俗の暮らしは割とそういうもの、なのだ。徳だけやたら高いと、生きてくの大変。
(僧侶が肩をかるくすくめてにっこりすると、聴衆からちょっと笑い声がおきた)
≪千匹の仔を孕みし黒山羊≫さまの所で、養子縁組をした家族なら、≪黒山羊≫聖職者からの巡回はあるし、親も子も、なにかしら相談したりもできるでしょう。絶対にこういうことはあり得ない、と言い切るはできないけど、すごく予防できたと思うのだ。
男女の和合と、子育て相談は得意の宗派。それは≪森の大鹿≫も一緒だ。
だから、誰かをひどく傷つける前に、万神殿に相談するのは、よいことなのだ。
できれば護衛に鼻の骨を折られる前のほうが、よいと思うのだ。
■■■のお話、聞いてくれて、有難う。
手持ち、残り銀で1512枚と銅0枚。
次回は『お話』のあと、になります。
お読みいただきありがとうございました。




