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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
36/180

観劇の続き

手持ち、残り銀で1513枚と銅0枚。

観劇回はこれでおしまいです。

 後半の幕は、つかまってしまった小赤と草黒が、それぞれお互いに謝るシーンで始まる。後ろ手に縛られたままの草黒が、


「申し訳ございません、お嬢様、あの時は前方不注意でした(客席の笑い声)」


 と言うと、小赤も悲しそうにほほ笑んで、フォローする。


「良いのよ、草黒。私も同じ。剣士を相手にして、ほかへの注意がむいてなかったのだし(いやいや被害者!あんたは被害者だ!という客席からのツッコミ)」


 小赤は、そういう気遣いができる優しいキャラなのだ。そして、自分も後ろ手に縛られたまま、膝でにじり寄って、


「さあ、お互いに謝ったのだから、これでなしにしましょう!」


 と元気づけるように告げると、草黒も勢いよく顔をあげて。


「はいっ!『ゴンッ』」

「おふぅッ?!」


 いい感じの衝突音で、顎と額のクリーンヒット。

 のけぞる二人と、大笑いの観客。

 笑いが収まると、草黒が短いスカートを見せて、ニヤリと笑うのだ。


「実はこんなこともあろうかと、スカートの糸端を現場にあった木箱に結び付けておりました」

「草黒……!あなたって、本当に冴えてるわ。でも寒くはないの?」

「だ、大丈夫ですわ!」


 で、光の魔術が舞台のもう一方の隅に移動して。

 馬車を探しに来た従業員の一人が、悲鳴を上げる。


「木箱が動いておる!妖怪じゃー!妖怪のしわざじゃー!」


 と、腰を抜かす騒ぎになるわけ。

 客席はお腹を抱えて笑ってるし、役者は「誰か神殿にいって坊さん呼んで来い!妖怪を祓ってもらわねば!」なんて、さらにオーバーに客のほうへ訴える。

 上役がでてきて、木箱に丈夫な糸が結び付けられていると指摘して。お嬢様が居ないことも判明。


「この糸をたどるのだ!お嬢様が残された手がかりやもしれぬ!(残したのは草黒……という客席からの小声ツッコミ)」


 そうやって助けに来た従業員たちをよそに、小赤と草黒主従は山の中を逃げ出してて。

 途中で本物の妖怪に出会ったりとか、悪者たちが妖怪のことを知らずに侮辱したせいで、ぎったぎたにされちゃうとか。色々笑える寄り道があって、最後は悪者ひっとらえての大団円。

 いっぱい拍手して、大笑いしすぎでお腹がくるしいくらい。

 妖怪の解説や今回の脚本をロビーで売ってあることや、百合物と笑劇の投票よろしく、などなどの舞台挨拶の最中。隣のお爺さんは


「騒がしくなる前に出るのが通ってもんじゃ。お姉さん、また劇の話ができるといいのぅ」


 と言うと、途中でいなくなっちゃった。

 ナンパされないよう、アタシも全部幕が下りる前に席を立つ。


 あ、でも投票はしないと。


 『小赤と草黒』は、恋愛ものとドタバタ喜劇ものと二種類あるのだけど。客の投票で、次回の上演期間の長さが決まるのだ。また見たい、って思った客は、入場券の半切れをその回の帰り、投票箱にいれる決まり。

 アタシは断然いれてく!

 何回観たって面白いもの。

 さすがに副読本(お金持ち用には、職人手作りで、役者のサインとかも入った絵入りの上等なヴェラム紙の本。庶民むけには、本当に文字だけの、安い繊維紙本)買うほど、今は余裕……あるけど、買うと余裕が減るじゃん……。

 銀貨で1500ちょいという、何かあったら吹き飛ぶ程度の余裕しかない……。

 いいんだ!

 もっと稼いで、上等なほうの副読本買うんだっ。


 気持ちを切り替えて、軽い足取りを意識しながら古着屋に戻って着替えると、道具の手入れも終わってた。ポーチを返してもらって、約束のぶんの銀貨を払って。通りに出たとき、ふと思い出して≪街の子≫を探すと。

 いたいた。

 話してみると、アタシのこと知っててくれたので、銀貨1枚で伝言を頼む。

 明日の午後でも会えるといいなぁ。

手持ち、残り銀で1512枚と銅0枚。


お読みいただきありがとうございました。

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