『小赤と草黒』
手持ち、残り銀で1530枚と銅0枚。
『お手頃価格』劇場での観劇です。
アタシが歩いて行くのは、近場にある劇場。詩の神様と剣の神様、両方の求道団がやっている劇場は、お手軽価格のいい所なのだ。床に敷物しいただけの安い席は、銀15枚で入れる(これを買うつもり)し、壁ぎわの2階桟敷席でも銀50枚から60枚。
何回目か忘れるくらいの再演がかかる人気作、『小赤と草黒』は、二種類あって。一日に4回上演、一種類ずつ交代でやってる。
基本的な筋は、お金持ちお嬢様の小赤と、メイドの草黒、二人は生き別れの姉妹なんだけど、で一緒。
半分は「二人ともそのことを知らない上に、主従を越えた愛をはぐくむ」が中心なお話で。
もう半分は、「二人とも相手が生き別れの姉妹って知ってるけど、相手はそのことを知らないと思ってる」上に、草黒が不器用ながらもお嬢様のためにやらかす(やらかすとしか言えない)ことがことごとく、お家の商売やらお嬢様のピンチを助けちゃうっていうドタバタ喜劇。
アタシが観るのは、ドタバタ喜劇の方ね!
手持ちは銀1513枚。幕間に売り子から買うより安いんで、先にロビー(広くないけど、道路にひとを並ばせると怒られるから、で詰め込んでる場所)で炒りナッツのショコア蜜和えバーを買って。
午後の時間だから、客の入りは5割くらい。アタシみたいな暇してる感じの客や、武装だけ宿に置いてきた風の冒険者。桟敷席にもひとの気配があるから、お金の余裕があるひとっていいよねー。
今回の『小赤と草黒』は、お嬢様の仕入れたはずのショコア豆、これの横流しから始まる話。
本当は姉だと知っている小赤のために、草黒は危険を承知のうえ、商会の従業員たちに探りをいれる。裏切り者の従業員は二人いて、一人は借金を帳消しにするため、もう一人は脅されて仕方なくやってるんだ。
脅されたほうが、
「もうこれっきりにしよう、お嬢様にばれるのは時間の問題だ。お嬢様の腹心がさぐりを入れに来るって噂もある」
てひきとめるのへ、借金抱えたほうは、
「ダメだ。ばれたとしても、相手方に荷を渡す約束を守れればいいんだ。■■■家に荷物ごとかくまってもらえる」
と強気で、聞く耳なし。そいつが、
「そおら、荷がきたぞ」
って言うと、舞台の右手から荷車をひく獣(真獣形態の役者さん)と、荷車、そして草黒が登場。本職からしたら全然、いや一般のひとからみてもバレバレな変装(劇だもんね)のが、荷車の脇を小走りにやってきた時点で、客席は大笑い。
「バレてる!そこだ、後ろだ!」
「後ろ!そいつが腹心だ!」
客席にむけて、草黒役がちょっとポーズをつけて、メイドの午後服そのまんまなスカートを振ると、手を叩いてはやす声が盛り上がる。
ところがそこに、強盗と見せかけて、裏切り者に手引きされた他所の商家の一団が登場。
「荷車ごと頂いちまえ!」
という掛け声から、賑やかな音楽がかかって、舞台の上は剣と軽業の大立ち回り。
小赤お嬢様も善戦(確か彗星流レイピア術をやってる設定)するのだけど。
そこに運悪く、ってかお約束っていうヤツで、草黒が荷車を隠そうとして突進。(前みろ!前ーーー!という客席の声にアタシも笑いながら唱和)
襲い掛かる剣士ごとお嬢様をも跳ね飛ばし、しかも自分も衝撃で転んで、荷車の車軸にひっかかって空中ジャンプ2回転という、演技だとわかっててもすごい軽業のシーンに、拍手喝さいして。
その結果、強盗=ライバル商家に、小赤と草黒はつかまっちゃうところで、幕がおちる。
幕間では、売り子がくるんだけど。アタシは先に買ってたナッツバーをかじる。
ショコア豆は、迷宮から産したものの中でも、一般栽培が長いもので。生だと苦くて食べられないけど、乾燥熟成させて、炒って、それを湯で淹れたり、粉にしたものを蜜とバターで練ったりすると美味しい。ほろ苦くて香りがよくて、よっぽど戒律とか体質とかなかったら大人も子供も大好きだ。
ショコア取引が中心の商会はいくつもあるし、専業で直轄地に畑をつくって品種改良をしている貴族家とかもあるんだって。金稼ぐにしても、桁が違う世界だ。
なんてことを考えながら、ナッツバーを食べ終えたとき、
「おっとと、すまんのぅ、すまんすまん」
て声が後ろにした。
振り向くと、湯気のたつ素焼きカップを手にした小柄な爺さんが、ロビーに向かう二人組にぶつかりそうになって、避けた先でまた座ってる人につまずきかけてる。このままじゃアタシにもぶつかる進路だったんで、
「危ないよ」
て声かけざま、脇によけてやると。
カップを手にしたご老体、
「ふう、ありがとうねえお姉さん。助かる、助かる」
とそのまま、避けて空いた場所に座り込んで礼を述べるものだから。
いや、空いてるしいいけどね?
手持ち、残り銀で1513枚と銅0枚。
ショコア豆、高地の水はけが良い石灰岩質の土地で栽培される植物です。こちらの世界で言うチョコレートによく似た利用をされています。
さて、次回はちょっぴり謎めいた老人との遭遇のお話。
お読みいただきありがとうございました。




