手持ちがごりごり減っても。これは必要経費なんだから仕方ないんだ。
何をするにもしてもらうにもカネがかかる。それは仕事探しも例外ではなく。
仕事道具一式を吊った外套はおって、通りに出る。雪のひとつも降りそうな曇り空。
馬車や荷駄の列の脇を歩いていって、賑やかな職人通りと交わるもうひとつの街路に入る。こっちでも馬車は動いてるが、それよりひとの数が多い。いかにも戦士団!て感じの武装した一隊や、ローブ姿で杖を抱えたひとたち、種族も雑多。
何々ギルド本部、ナニナニ流道場、何たら派合同神殿、そういうのが立ち並ぶなかで、角に面した広い馬車どまりのある建物が『始まりの四宿』のひとつ。
ダンジョンが発見されたその最初期にできた、四つの入り口。そこに宿ができ、付加サービスも提供するようになって冒険者ギルドの体裁になったのだそうな。アタシが孤児院から独立した当初、先輩たちと組んで登録したころから、変わらない。三階建ての、ツタがからみついた強化煉瓦の大きいドームのある建物だ。
入ってすぐの受付に、求人の検索を依頼したい旨告げると、番号札を渡される。似たような番号札もちの連中がそこらのベンチに座ってたり、軽食コーナー(通りの屋台よりちょっと高い)で手に持って飲み食いできるものを注文したりしてる。
アタシにはそんなぜいたく余裕ない。検索だけで銀5枚。条件かけるから、追加で10枚は覚悟してきてる。
自分で探すなんて、ムリなのだ。
そりゃ、張り出されてる求人を眺めるだけなら、無料でできる。
タダで読めても、100件近く調べて、日雇いじゃないやつが1件もないってことに気づいたのは、パーティ解散が半月後に迫ったある日のことだった。
みんな金払って、検索して、いい求人を探すのだな。
銀15枚は痛いけどさ、無料の求人調べて稼ぎのない日を1日2日、いや下手すれば5日10日と重ねることを思ったら……稼ぎはないのに、下宿代やらメシやらは金がでてくことを思ったら……
痛くない!
これは必要経費!
割り切るんだ。割り切るんだアタシ。
仕切りのむこうにいる検索係に銀貨を渡すとき、すっごく名残惜しかったけど。
それだけ、銀15に見合った結果はあった。4件でてきたのだ。
ここで即決、連絡手続きをとってもらうのは、焦りすぎってもの。
複写料をはらってでも、4件全部の写しをもらって、アタシは『始まりの四宿』を出た。
手持ちがさらに銀6と銅で4枚減った。
痛くない!
これは必要経費なんだっ!
お読みいただきありがとうございました。