偶然見つけた場所に、次回まっすぐ行く方法
手持ち、残り銀で1037枚と銅0枚。
真っ暗で光学的観測が使えない異次元世界(当然GPSのような座標取得もできません)で、かつ『他の冒険者』や『通りすがりのモンスター』にも、発見や邪魔されない方法の実践です。
精度はそこそこですが、以前行ったことがあるため、少々ずれても大丈夫、というヤツです。
*手順の描写を修正しました。
戦闘は極力避けながら、≪第二層≫へ。例の「大きな吠え声のサルがいる木」では、ちゃんと≪無音≫の呪文で音がでないようにした後で、アタシも矢を射かけて倒す。オオゴエサルの肉やツメを切り分けて、防水の革袋に入れたら、いよいよ、探索らしい探索だ……!
とわくわくしていたら、僧侶が自分の鞄から何か取り出した。ロープと杭が2本か。……それとまたロープ?
何本も要るもんだろうか?
見つめていたら、僧侶がこっちを見てにっこり笑って。
「マーエ。二層≪夜≫で、他の冒険者に見つからないように、それに、モンスターに跡をつけられない、モノを残さない、そういうやり方で。『まっすぐ進む』はどうする?」
「まっすぐ進む、…ええぇー……」
この真っ暗な次元世界で?
「光の呪文と飛ばすとか」
「んー……」
僧侶があいまいにほほ笑んだまま、首をかしげるから、どうもコレは正解じゃないっぽい。
そしたらウィザードが、
「告白します。最初は、まさにその呪文が命中しなかったたせいで、偶然発見したんです」
って説明してくれた。
光の呪文というより、≪魔力の矢≫の呪文を、撃った直後、木の枝上にいた猿は跳躍して、呪文は当たらなかった。
「視界に収めてさえいれば、自動で当たるような便利な呪文じゃないです」
命中しなかったが、彼方で何かに当たって光が散ったとき、そこにカメダイクマみたいな甲羅状の何かが見えた、と。サル自体はすぐ倒せたから、ウィザードはその場から警告を発して、カメダイクマがこちらの方へやってくるのを待ち構えることにした。
待ち構えて、無音の空間を解除して、待っていたのだけど……。
ずーっと緊張しながら聞き耳たてていたのに、何かがやってくる気配はさっぱりなく。
ウィザードの立つ位置から、もう一度呪文を使ってみて、再度確認。そして同じ『甲羅状の何か』が見えた。最初の場所から動いてない、つまり死体か、あるいは岩の見間違いではないかって話になって。
それにしても変な形だ、と、そこから4人は詳しく調べてみることにした。
ウィザードの立ち位置、最初の呪文が枝のどこら辺を通過していったかを記録し、呪文の射程距離からおおまかな位置を推定して。呪文を使うのはためらわれたから、『樹木にロープを結わえつけて、弛みのないように少しずつ、警戒しながら進む』とやった結果……、彼らは未発見、あるいは廃棄された遺構を見つけた。
でも、
「それって危険なことじゃ? 誰か……とか、通ったモンスターがロープを切ったりするかも知れなかった」
アタシがそう言うと、「その通り」と僧侶がうなずいて、ウォーリアとアタッカーに杭2本とロープを渡す。
「あのやり方、何度もするのは、良くないのだ。ここで、今からすることは、ナイショ。いいね?」
ウィザードは、樹木の根元から、慎重に足をくっつけるようにして歩いている。左のつま先に、右足の踵をくっつけ、次はその右のつま先に、左足の踵を……って具合。なるほど、こうすれば(足の大きさなんてそうそう変わるもんじゃないから)位置どりはできる。
そうやって一定の距離を歩いて立ち止まると、ウィザードは自分の鞄から、羊皮紙を取り出し、顔の前にかざして。紙に描いた樹木の枝ぶりと、自分に見える枝の形を見比べてるわけね。
前衛に持たせたロープは、大きな輪になっていて。ウィザードが体の正面に、杖を立てると、ロープの輪の一端をひっかける。これが2つともできたら、杭を持ったウォーリアが右側、アタッカーは左側に、ちょうとウィザードを中心にして、ロープの線がまっすぐになるように分かれて進んだ。
その間、僧侶とアタシは耳を澄ませて警戒。
僧侶が教えてくれたところによると、ロープには3箇所、色づけしてある。1箇所は杖にひっかける部分。そして伸ばしたロープが真っすぐになり、最初の色付けのところに手がきたら、そこに杭を打って、ロープを杭にひっかける。
そこから2人は、3つ目の色付けが手の中にくるまで、杭に対して垂直になり、ウィザードの杖に対しては45度になる位置まで移動。ウィザードは杖が揺れないよう踏ん張りながら、三角形の小さな板を当てては、歩く2人に指示している。
ぴったり三角形ができたら、そこで2本目の杭を打って、最初の杭まで戻り、杭を回収。その場でロープをおさえておく。
こんどはウィザードが、ロープの弛みが出ないよう、まっすぐ歩く。左右どちらかでもずれたらロープが弛んだりきつくなるから、慎重に。
ウィザードの左右にあるロープが横一直線になる位置に来たら、ウィザードは杖を地面に突き立てて支え、前衛2人に合図。
前衛はロープをもって前進して、また『色付けした場所が、杭に対して垂直になり、ウィザードの杖に対しては45度になる位置』まで移動。
「こうして、三角形を重ねていく。真ん中の■■……魔術師は、常にまっすぐ進むのだ。」
「あーあー、なるほど!」
これなら『呪文の光』はないし、音も最小限だから他の冒険者の注意も惹かない。手持ちのアイテムを使うだけ。目印を残すより簡単だし、発見されないし、モンスターに荒らされることもない。杭を抜いた跡も、熟練の盗賊 (つまりアタシ)やレンジャーが、そこに何かあると思って『視』ないと分からない。
光の輪のギリギリで作業している前衛を見守る。
えーと、何時間だ? ってくらい時間がかかるけど。起伏のある草原だから、仕方がない。
アタシと僧侶は、互いに違う方向をカバーして警戒をしながら、ついて歩く。
幸いにして何もなく、そよ風に時折、森の腐葉土の匂いが混じる程度。あれ、ってことはこの先には知られてる森以外の、樹木……林か森かな、あるのかな。
と思ったら、光の輪の中に、土に半分埋もれるようにして、露頭がひとつ見えてきた。
岩肌が、遠目にはカメダイクマの甲羅模様に見えなくもないし、大きさも平均的なカメダイクマ。露頭の周りは低木が何本かあって、草はほとんどない。
乾いた泥がひろがる、わずかに傾斜のある地面。明かりの輪のさらに外に続く、獣の足跡が泥に付いている。アタシは見つけた途端、首の後ろがチリッとする感覚をおぼえた。
(カメダイクマだ。大きいのが4匹くらい?)
足跡の大きさは、それが支える身体の大きさ。カメダイクマは、カメに似た甲羅をもつ、太い手足の四足獣。普段はカメみたいにゆっくり、のしのし歩くけど、戦闘となるとその太い後ろ足で立ち上がり、かぎ爪で攻撃するし、半端な呪文や矢はその甲羅で弾くという、『難敵』の一つ。
肉は美味しいし、甲羅も高く売れるけど、狩るのが大変なヤツ。
ピリピリしてるアタシの背中をぽん、と叩いてウォーリアが促す。
「さ、この足跡をたどってくよっ」
「はいっ」
答えたのはいいけど、そして足跡も途切れず消えず、たどれるからいいけど。
傾斜した土地は、また柔らかな草地に代わり、低木が腰の高さの灌木になり、すぐに上まで梢の張り出した(光が届く範囲では)うっそうとした森になった。足跡は、草の倒れた獣道になっている。
樹木の太い根の間にたまった泥や落ち葉には、カメダイクマの足跡。尾の残す臭跡(あのモンスターは、尾の付け根にすごい臭いのする腺があって、テリトリーにこすりつける。出会いたくなかったら、この悪臭は避けたほうがいい)も辿れる。探すべきものが分かってたら、熟練の盗賊(アタシよアタシ!)やレンジャーが見つけるのは簡単なんだ。
簡単ではあるけど、猛獣といつ遭遇するか、ってひやひやしながら進むのは神経を使う。それでもついてくる4人は、適度に緊張、でもリラックスしてて、何時でも何がでても対応できる感じ──つまり慣れてるみたい。
(この足跡追跡も、アタシの実力を見る一環てとこか)
露頭に辿りつくまでの真っすぐな道程とは正反対に、森の中の獣道は曲がりくねってて。頭の中の位置感覚が、ジグザグな矢印になる。しかも、別の足跡まで見つけてしまって、それがまた大きいヤツ。
手サインで後続を制して、アタシ一人で顔を近づけて、大きさやツメの位置、一歩の間隔や、前足と後ろ足の重なりがあるかどうか、あと匂いも調べてみる。
おっと、調べるだけじゃなく、知ってる限りの『モンスター』で当てはまりそうなヤツを思い出して、戻って報告しなくちゃ。
できるだけ冷静そうに、クールな表情を保ってアタシは告げる。
「六本足で、前一対の前足には、このぐらいの幅のかぎ爪が3本ある。それと周りの斜面に、嘴で土を掘り返したあとがある。そういうヤツは……ダイニング・キッチン、だったかな」
「ダイア・キンケイのことだな?」
「そうそれ」
僧侶が的確に修正してくれて助かった。
……残り3人がこっちを見ないようにして、肩を震わせてるのは、見なかったことにした。
手持ち、残り銀で1037枚と銅0枚
次回はアレの話です。
お読みいただきありがとうございました。




