半分の力
手持ち、残り銀で645枚と銅5枚。
探索行は、生き残らないと意味がありません。
設置魔法陣は、大昔の最初期探索で作られたもので、馬車なら2台並べて載せられるくらい広い。石を組み合わせて円盤にした場所で、正面にも石の台座がある。
皆で真ん中に乗って、『次の場所へ』という古代語(丁寧なことに交易語のよみがなつき)をウォーリアが唱えると。
空中に浮かんだような感じがして、すぐ、周囲が真っ暗になった。第二層≪夜≫は、お天道様も、双月も、星もみえない闇夜の異次元界。岩が自然に崩れたのか、掘ったかしたくぼみの中に、アタシたちはいた。
足元は同じ石の円盤のままだけど、空気の温度や感じが違う。
わーあったかーい! ってほどじゃないけど、第一層ほど寒くない、すこしそよ風もあったりするし、草のにおいがする。
僧侶に、短剣の『刃』部分だけ光るよう発光の魔法をかけてもらって、アタシがすこし先行する。ヤバイときはすぐ、鞘に納めて消せるし、アタシ自身は暗視できるから、気配を消してそーっと戻るって寸法。
パーティが何度も行き来してる既存ルートだから、どこに何があって、どんなモンスターと遭遇しやすいかはだいたい分かってる。
そこに先行偵察は、あって悪いものじゃない。アタシの実力を御覧じろってことで。
草原の暗がりに潜んでいた、サンヒョウ(頭の三つあるヒョウみたいなヤツ)の群れを発見。不意打ちされる前に不意打ちし返して、無事倒す。
森と岩山の近くなった地点で、ノーハンデン(ダーハンデンの反対で、斑点が全然ない、でっかい牙のある四足獣)を発見。これは忍び寄って仕留めるのに成功。一体だけだったから、アタシひとりでサクッと。
でも僧侶さまには、
「無理、しないで?」
……すっごい心配された。
「大丈夫です、無理だと思ったらちゃんと戻ってきます」
「もうすぐ、大きいのが居る場所。戻って、一緒に行くの。」
「え、でも早期発見……」
「いいのだ。倒し方がある。」
大きいのが居る場所、というのは地図上でも木が一本だけ書かれている。岩山の合間の通り道になっていて、斜面から枝を張り出すように、一本の木が生えてる場所だ。
たいてい樹木の上に、黒くて、でっかい猿がいる。群れの見張りなんだろう。大きな吠え声だから、ゼッキョウザルと呼んでるそうな。
倒し方は、まず僧侶が何か唱えて、その樹木のまわりを『無音の空間』にした。ウィザードとアタッカーが暗視の準備を揃えて、『魔力の矢』と物理の弓矢でぶち倒すというもの。ウォーリアはこちらに突進してきたときの備え(結局必要なかった)。
矢ぶすまにした死骸から、肉やら爪やらをはいで、もともと価値の低い毛皮は捨てて、とやってから、第三層≪岩≫への設置魔法陣まで進み。そこまでにも、不意打ちされそうな場面や、岩が落ちてきたときもあったけど、事前に察知できた(えっへん)。
設置魔法陣が見える位置で、一休み。
ウォーリアが、
「半分の力にはまだ余裕があると思うけど、皆はどうしたい?」
とメンバーを見回す。視線が注がれるのを感じて、アタシは軽く手を挙げた。
「あ、それでちょっと質問が……この間も言ってた、半分の力ってなんですか」
「そりゃあ、文字通りさねっ」
ウォーリアが上手く言えない気配を察して、ウィザードが引き継ぐ。
「説明します。呪文使いなら魔力、戦闘職なら体力、それと消耗品の残りなどを考えて、『半分くらい』ある状態。それが『半分の力』です。探索行とは行って、帰還するまでに何があるか、分かりません。同じルートを戻るにしても、我々の痕跡をたどったモンスターと遭遇するリスクもあります。」
「そうですね」
「『行きと同じくらいの力を使う』想定で戻ること。突発事態でも、対応力を残しているのと、歩く力しかないのとでは、生存確率が異なります。」
「つ、つまり生き残るためってこと?」
「そういうことです。ご理解いただけましたね。」
それで休憩のつど確認して、メンバーが自分の状態を把握するようにしてる訳か。
言われてみれば、以前のパーティでも言い方は違ったけど、「安全に戻れるくらいの余力」って。ノーム族の錬金学者が、安全第一!を何回も言ってたな。
そのあと、戻るルートになって、既存の森ルートも探索して、2回ほどモンスターに遭遇。1回は、むこうが寝てたので静かに通り過ぎることができた。森の中でカヴァナッツとかも集められたから、今日の収益は銀で2036枚。
冒険者組合で、破損した矢や消耗品とか買ったりしたから、一人あたり銀400枚をアタシは冷静な顔で受け取ったけど。
わーい!……って、心のなかでは踊ってた。
手持ち、残り銀で1045枚と銅5枚。
増えましたね!やった!目指せほのぼの冒険譚!
お読みいただきありがとうございました。




