第二層前のブリーフィング
手持ち、残り銀で645枚と銅5枚。
魔術師の所属ギルドは、迷宮から持ち帰った物、とくに食べられそうな植物を研究し、栽培試験も行っています。売れるものができれば、とても儲かります。(売れないもの、一般販売したら大変なものもあります)
ウィザードが自分の茶色い帽子をちょんちょん、と指さす。
「僕の流派は≪豊饒の大地≫、いわゆる研究と実践の魔術師ギルドです。■■■■家からの出資が大半でして」
「■■■■家」
アタシが繰り返した声のトーンで、何か思いだしたらしい。
「傍系ですが、実家が■■■■家で……ナイショにしてたつもりはないんです、普段から■■■■■■ってつなげて名乗るようにしてるだけで」
「この子は、特別扱いは嫌だってタイプなのさ。貴族ってもいろいろあるさねっ」
ウォーリアが背中をどやしつけたもんだから、ウィザードが目を白黒しながら続ける。
「(げほっ)提案とはこうです。今日の探索から戻ったら、皆で一緒に行きましょう。≪黒山羊≫さまの孤児院と、■■■■商会に。尾行者がついてきてても、むしろ好都合です。我々は寺院や商会のために働いてることを、戻って報告してもらえれば良い」
「あっ、あー……なるほど」
そういうやりとりをして。
集合場所を出たところで、僧侶が道端に座り込んでる≪街の子≫に銅貨数枚と言伝てを託す。なんでも、普段は≪街の子≫達が尾行者やら襲撃者やらに警戒線を張ってるのだそうで。
やり取りを黙ってみてたのに、アタシの疑問は伝わってたらしく。
垢汚れに見えるように顔を顔料で塗った子供は、にやっと笑って。
「尾行やらがおったほうが、ウチら儲かるんじゃけんどな」
(その手つき、追いはぎ行為もやってるな!?)
≪黒山羊≫さま、街の裏側には怖いことがいっぱいあるようです。
今日は第二層に入る設置魔法陣の見える位置まで来て、いったん休憩。
手持ちから、ヒマナッツを噛んだり、僧侶がだしてくれる水を携帯カップでもらって飲んだり。それと皆で話して。内容は、主にアタシへの情報共有。
「確認です。マーエさんは、二層に行ったことがあるのですよね」
ウィザードにうなずいて、アタシは記憶を探る。
「≪夜≫っていうだけあってどこも真っ暗で、手持ちの明かり以外、光が無いんでしょ。星とか月とかも見えない異次元世界だって話で……」
「そうです。第三層へのルートになっている岩山と、その周辺の小さな森のルート以外、未踏破地域です」
「全部草原じゃないの?」
ウィザードは小さく首を振る。
「それは訂正します。ルート周辺が、なだらかな起伏のある草原だから、未踏破部分もそうだろうと推定されているだけです。」
「誰かが見に行って、確かめたわけじゃない、と」
「そうです。そして……、何か発見したとしても、価値のある情報は共有されにくいものです」
声を低めた言い方に、アタシは背中の筋肉がこわばるのを感じた。
試されてるぞ、って感覚。
ここから先に、このパーティが見つけた何かがあるはず。
ルート含めてすべて未踏破地域にあるに違いない。
そういう重要情報にふれて、なおかつ≪黒山羊≫さまにもナイショにしないといけない。
携帯カップから水を飲み干すと、できるだけ冷静で、自信ありそうに告げる。
「アタシの仕事は、マップ作製と、そのための偵察、罠解除も含めた安全試験。マップはそちらに預けるし、アタシ自身は迷宮を出たら忘れることにする」
一瞬の沈黙と、視線が行き交って。
「……同意です。今日は二層≪夜≫に慣れてもらうため、知られてるルートだけを行ってみましょう」
「了解」
ふう。試練をひとつクリア、ってことかな。
手持ち、残り銀で645枚と銅5枚。さて、ここで問題です。
・そこは、太陽も星も月もない≪夜≫の異次元界
・光源は手持ちの明かり(油によるものでも、魔術や精霊によるものでも)のみ
・GPSとか方位磁石に相当する測量技術は、魔術もそうですが、使えるものが無い&使用しません(さらに下記理由から、設置物を残したくないです)
・めぼしいランドマークがない(あるのは既知ルートの岩山、近くの小さい森くらい。地形はなだらかだが起伏のある草原と推定される)
・偶然見つけた場所に、一回目はきちんと記録をとりましたが
・次回以降、どうやってたどり着きましょうか?
・ライバルになりえる他の冒険者や、野生モンスターによる干渉を防ぐため、できるだけ痕跡や設置物を残さない方法で。
参加SNSでいろいろな知恵を頂きましたので、次回以降、それらも含めてご紹介できればと思います。
お読みいただきありがとうございました。




