幕間その2:精霊魔術『火蜥蜴称揚』
シアバスさんがいう「宴会じゃない」蒸し風呂とはいったい。
火蜥蜴称揚と書いて、「アゲてこサラマンダ」と読みます。
精霊魔術は、精霊使いひとりひとり毎に異なる、とすら言われる。
同じ種に見える、同じ系統の効果に思える魔術でも、師が十人いれば、十通りの異なる術理と実践があるのだ、と。
『肌肉健肯』道場の蒸し風呂は、大きな室の壁際に男女別、ひとりずつ入る房が並んでいる。室の中央は、四角く組まれた太い鉄格子の上に、子供がうずくまったくらいの大きな石をいくつも並べてある。
鉄格子のまわりは、簀の子状の木材を敷いてある。四角のそれぞれの辺に、水を入れたバケツと、ナバナの葉を束ねたものが合計4組おいてあり。その1組につき一人、腰布とシャツ一枚になった職員が脇に立っている。
室の湿度は、これまでの使用と、房に座る客たちの汗でとても高いはずなのだが。そこに居るひとの肌の上では、乾いた熱風がゆるり、ゆるりと渦巻いている。
職員のひとりがナバナの葉束を振ると、焼けた石に水滴がジャッ!と散った。
空気はさらに暑く、そして一瞬で乾いてしまう。
ただひとりだけ、精霊使いは、並ぶ石に向かってゴザに座っていた。貝殻『水』とオレンジ色の鱗『火』でできた腕輪、ナバナの繊維で織った『木』の肩掛け、耳には黄金飾りで『金』、額から鼻筋にかけて白く線を引いた石灰の塗り物が『土』を象徴している。
そうやって五行を身に着けた彼女は、ゆったりとしたあぐら……足を完全に腿に載せないで、皮を程よくたるませたドラムを足首で固定するように……あぐらを組んでいる。右の手は軽やかなリズムを叩き、時折、左の手で皮の張りを調節して、抑揚のある音を響かせて。
リズムに乗って、軽く足踏みをしたり、手のひらで腿を叩く客もいる。客があったまってきた(物理)を感じて、精霊使いは歌を開始した。
精霊──鉄格子の下、粘土質の土を敷いた窯の中にいる、火蜥蜴に。
「この世で一番イケてるのは? 炎の精霊!」
「「精霊!」」
常連たちがレスポンスを返す。
「世界一イケてるの!何と言ってもあっついハート!燃える魂!」
「「もえるたましい!」」
「火蜥蜴!火蜥蜴!ちょっとイイとこ見てみたい!」
「「みってみったい!!」」
「あっそーれ 燃えよ!踊ろう!」
「「燃えよ!踊ろう!」」
「燃えよ!踊ろう!」
「「燃えよ!踊ろう!」」
手拍子、足踏みとドラムに乗って、窯内の存在が激しく白く輝き、踊る。
職員もより激しく、ナバナの葉を振り、水蒸気が室を満たしてゆく。それでも熱く乾いた風は、止まることを知らない。
精霊使いは、火蜥蜴を乗せつつも。焼き石が割れることのないように、程よく熱量を調整するように、時に曲調を変えチルアウトを演奏し、あるいはまたノリノリで踊れるよう、呪文を紡いでゆく。
そういう流派であった。
定番呪文「ちょっとイイとこ見てみたい」は常連に好評です。




