先輩の知恵
手持ち、残り銀で651枚と銅0枚。
訪ねてきた先輩から、お知恵拝借。
スーファン先輩がカウンター席から降りると、アタシに素焼きのカップを差し出して、「部屋いこ」と顎をしゃくる。匂いからして錐葉モンマの茶かな。
茶をうけとって、アタシは狭い狭ーい自室に先輩を案内した。寝台にアタシが座り、向かいの荷物入れの箱に先輩が座ると、膝がくっつきそうになる狭さだ。
アタシから話したのは、今日の探索行の話と、食事処をでたとたん、尾行されたこと。街の子のことは伏せて、手近な店を通り抜けて出てきたこと。
顎に手を当てながら、スーファン先輩は話を聞きおえて、一言。
「なんつーか、本当にフリーランスって大変だなー……。今日来たのも、≪黒山羊さま≫から言われてなー」
「育て親からですか」
「うん、そう」
自分の茶を一口すすって、先輩はアチ、とつぶやく。
「万神殿にも、フリーランスになった盗賊への問い合わせが何件か来たんだってさ。うち、一件は、お前さんが今日一緒に行動してたところだった」
「えっ」
「有名人だなー?」
「いやいやいや、冗談じゃないでしょ」
冗談じゃないよ、本当……。
飲む気になれずに、カップの中を見つめてると、スーファン先輩はポン、とアタシの肩に手を置いた。
「それに関しちゃ、ちゃんと話をしなかった私も責任、感じててなー。だから今日は知恵を貸してやろうと思って。こうしてきたんだなー」
話しながら、ポン、ポン、と。
肩を叩かれるうちに、アタシもちょっとずつ、気分が楽になってくる。
お茶を飲みながら、先輩が話してくれた内容は、他のひとから聞いた話とおおむね一緒。
都市内で活動する盗賊団、悪党、秘密結社、などなどから、自由な盗賊は目の敵にされる。
なぜなら、同じような技能を持っていても、フリーランスのほうが稼ぎがよく(だって上納とかしないし)、街の善民からも尊敬される(だって盗みとかしないし)。
そして、パーティ解散で独立したての冒険者だということは、怒らせると怖い後ろ盾が居ないってことで。
アタシは冒険者組合で求人票を調べたとき、口止め料を職員に払ってない。まさかアタシごとき小物の話を、知りたがるヤツがいるとか思ってもみなかったんだもん。
そういうわけで、『アタシの情報を知りたい誰かが、お金を積めば知ることができる』わけで……。
そこまでして知りたがるような話か?
とも、思ったんだけど、先輩の見解は違った。
「そういう話になるんだなー、これが。どっかの自由な誰かさんが、儲けてるって事実が知れること自体、盗賊団や悪い連中の徒党から、離反するヤツが出る可能性につながるんだなー」
あんましそういう話しなくて、ゴメンなー。
先輩がつらそうな顔になるんで、アタシも慌てて。
「いやその、アタシも、独立前に聞いたら怖くなっちゃって、どっかの盗賊組合に入ろうかとか言ったかもだし!」
「そいつぁお勧めできないなー」
「でしょう!?」
「今からでもお勧めな方法もあるっちゃ、あるんだなー」
「あるんですか」
先輩が指を一つ立てる。
「ひとつ。どっかの貴族家や、商会がバックについてる、冒険者チームに入る」
「う……、そんな人脈があれば苦労してませんよ」
「まあなー。じゃあもうひとつ。このまま変装や偽装を続けて、自由な盗賊でい続ける」
「厳しそうですけど、現状どおりってことですね」
「もうひとつ。≪黒山羊≫さまの手を借りる」
「え、でも」
万神殿が、クエスト発注してるって話は聞いてませんよ?
手持ち、残り銀で651枚と銅0枚。
≪千匹の仔を孕みし黒山羊≫教派は、主に男女の結婚と出産を奨励しています。性教育全般から、産前産後の両親教室、孤児の養育や養子縁組相談まで色々です。
お読みいただきありがとうございました。




