顔が良くてもね
手持ち、残り銀で651枚と銅0枚。
『くず拾い』の名前はトカル君と言います。
汚れた服の上から、くたびれたコートを羽織った子供は、前髪をなでつけて背筋を伸ばす。それだけでパリッとした印象で、家無し親なしの≪街の子≫には見えなくなった。
アタシは逆に、背中を左に湾曲させて、片足もびっこをひくようにする。
子供はちょっと眉をあげて、やるね、と言いたげに笑顔になった。
これはすごく簡単な変装で。
それでも、背中の嫌な感じは消えたままだ。
「フリーランスって機転が利くんだね」
「まぁね」
そこは、スーファン先輩の教えに感謝なんだけど。
先輩はアタシのパーティが解散決定したときから、色々相談に乗ってくれたし、街中での立ち回りも教えてくれたのだ。
「改めて自己紹介しとくよ。『くず拾い』の■■■ってんだ」
子供はそういって、アタシに手を差し出す。
びっこひく演技をしながらその手をとる。
「ありがと。アタシはマーエ」
アタシは……自分の名前を名乗って、つい付け足してしまった。
「キミの名前と顔は覚えきれないけど、助かった」
「は? 何じゃそら。盗賊なんだからそのくらいでき…」
「できないから、雇い主さがしに苦労したんだよ」
つい大声で言いそうになるのを、がんばって抑えて反論。
実際には『苦労した』っていうか。
今度の話がうまく本採用になってくれなきゃ、明日から『苦労する』になる。
「はー……なんっだかなー、自分の名前くらい覚えてんのかよ」
「そ、そりゃあ自分は覚えてるよ、他の人も覚えてくれてるし」
うろたえながら、アタシは背筋を伸ば……さないよう、自分の偽装を続ける。
『くず拾い』の■■■は、半開きの横目でアタシをみやる。職人通りにつながる大きな交差点に差し掛かってて、蹄音やら人の声やらで、「これだから顔のイイ■■■■は」みたいな独り言がちょっとしか聞き取れなかった。
下宿まですぐそこだし、と、特に何も言わずに別れたけど。
アタシの顔がイイ?
って言った?
まさかね。冗談でしょ。
通りに面した下宿の前を一度通り過ぎ、串揚げのアラカチャ屋台をまわって、ほんとうに尾行がないことを確認してから。偽装をといて宿に入る。
と、カウンター前で
「おかえりマーエ!無事でよかった」
スーファン先輩が待ち構えてた。
手持ち、残り銀で651枚と銅0枚。
アラカチャは、ジャガイモみたいなお芋です。こちらの世界ではジャガイモ原種に同じ名前がありますね。広く栽培され、迷宮からも手に入れる方法があります(元は迷宮から採られた植物です)。全然甘くないけどほくほくしたでんぷん質なので、甘くしてよし、辛くしてよしの万能イモ。
お読みいただきありがとうございました。




