猫と姉さんにサンドイッチ
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
カーリは猫ハウス(祖獣崇敬の宮)で寝起きしているので、夜間でも出入りは自由です。
カーリが連れて行ってくれたのは、彼女がお世話している祖獣、猫たちと暮らしている家だった。庭には枝ぶりの良いガヂイやダタンが植わっていた。
格子戸の脇にあるノッカーを叩くと、中から静かな足音がして、背中のまがったお婆さんがやってくる。
内側の分厚い扉を開けて、大人が四人立っていられるのがせいぜいなスペースに入ると、扉を後ろ手に閉め、格子戸をあけてくれる。
カーリがそこに入っていくけど、アタシは幻獣の姿じゃお尻がはみ出そうなので、外で待つことにした。
「ただいま、ゼセリ」
「まぁまあ、お勤めご苦労様でした。やはりこちらでお休みになるんですの?」
親しみのこもった口ぶりが、最後はアタシのほうをみて「のぉ?」とすっごい疑問形になった。カーリは頷きながら、紹介してくれる。
「ゼセリ、こちらは新しくク=タイス家に入ることになる幻獣、マーエさんだよ。私の妹分になる予定。」
「っこ、これはお初にお目にかかります」
おお、すかさず背筋を伸ばして礼をしてきたぞ。
「私はゼセリ、祖獣崇拝のピエタスェ家に属しています。高貴なお方をお迎えできるのは光栄に存じます。予定をうかがっておりませなんだ故、おもてなしも何も出来かねるのですが……」
横目でカーリをチラリ、と責めるように一瞥。
でもそんなのは屁でもない。
「良いのよ、眠るだけだもの。いつものクッションで十分よ」
「はぁ、ですけど」
「いーのいーの! さ、マーエも入って入って!」
私は言いましたからね、的な溜息を一つついて、ゼセリさんは道をあけてくれた。
祖獣崇拝の場は、その獣種にとって過ごしやすい環境を整えてある。予備知識はあったけど、実際に目にすると、家のなかに樹木を模してつくられた家具や、鉢に植えられた猫じゃらし草といったものは珍しくて。
そんでそこらの物陰に配置されてるクッションや毛布に、茶色や灰色、黒の毛玉が寝転んでいるのを見ちゃうと、わぁー!って言いそうになる。
安眠妨害よくないから、心の中でだけ言うけど。黙って歩いてても、目がキラキラしちゃうよね。本物の祖獣。獣人の真獣形態じゃなくて!
アーチになった出入口をくぐって、石造りの階段を上って二階にいくと、一階を見下ろせる位置に大きめクッションが沢山あった。寝台の上に、大人の胴体くらい太い円柱型のやつとか、四角いクッションとかがごろごろと。カーリは中央にある円柱をどかすと、
「さ、どうぞ」
とアタシを手招きした。ここで寝ろと。
初めてみる祖獣の興奮と、自分の初めての変身、それに誘拐騒ぎのあれやこれや。うまく眠れる気がしないんだけどなー。
でもカーリは期待してるわけだし。
もそもそと寝台に上がって、試しに座ってみる。流石にへそ天は無理だと思う(腰が痛くなりそう)。
その時、白地に黒い耳と尻尾の猫が、階段からやってきた。
「にゃー」
「あっ、ゴマフビちゃぁんー」
カーリがすかさず甘い声を出して、ほっそりした猫の背中を指先で撫でる。撫でられつつも、猫はそのまま歩き続けて、クッションに乗り。
そして、アタシの腹の脇にやってきて、たてがみの匂いを嗅いだあと、寄り添って座った。ぽふん、て。
……ぽふん、って。
祖獣が!
たてがみの反対側からだした触手で、ばたばたしてしまう。
生まれて初めてだよ!?
こんな近さで! ああ近い! あったかい! いい匂い!
興奮でぱたぱたしちゃう手を、クッションに乗ってきたカーリが押さえて「しー」とささやいた。
「ゴマフビちゃんは、社交的な性格でね。初めて来た巡礼によく寄り添ってくれるの」
「暖かくて小さい……可愛い……」
「たまにツメを立てられることもあるけどね」
それが可愛いんだ、とカーリはふふって笑う。
左脇で、猫がクッションの踏み心地を確かめているあいだ、右脇に横になったカーリがアタシのたてがみを指で梳くように撫でてくれる。それが心地良くて、眠気がふわぁっと湧き上がってくる。
「お休み、カーリ……でもお姉さんって呼ぶのはちょっと待ってもらっていい?」
「良いよ。別に今すぐ姉妹のきずながどうこうなんて無理な話だし。ただ、猫たちに仕えるってこんな風に素敵なんだよって知って欲しかっただけ」
脇から『ぐーるぐーる』という、祖獣のたてる喉音がしてくる。ああ、自分のすぐそばにリラックスしてる小さい生き物がいるんだ。
じーんと湧き上がってくる感動。
アタシ、いま正にカーリの思う壺って感じだけど。
ゴミカスバカの後始末をしたことを思い返しながら寝るより、ずっとずーっと、いい気分で眠りに落ちたのだった。
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
この猫ちゃんの名前はもちろん、「ゴマフビロードウミウシ」からつけています。
お読みいただきありがとうございました。




