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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
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欲望だだ洩れ

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


 賢者ルグムグは、『眠ったり食べたりといった、生存必須のためにやる事以外は、立ち止まることを許されない』という制約のもとに、『通りすがりに助言を与える』ことができます。

 ティーンテルも一枚岩じゃない、どころか『部下が上の人の意図を忖度して動く』ため、細かなところでバッティングしたりすることもあります。



 ≪通りすがりの賢者≫は、ボリスとアタシがやってくるのを待って、会釈してから話してくれた。


 まずこのカラジが接触した小貴族のこと。


 隣の村、ツァイドマークの領主夫人に付き従ってるんだから、爵位もちでなくても、当然貴族。

 魔術効果つき菓子を作れる職人を誘拐しよう、という話はカラジが持ち掛けた。貴族は彼に一度会って、卑屈そうな人物──今いる場所に満足できないが、自分で現状を良くするより、逃げ出して他所に自分を高く売りつけようとしている、という感じを受けた(わぁ正確!)けど。

 フーミン称号持ちを誘拐なんて、汚れ仕事をやらせる手下は、今居る自分の手下より、外部から雇ってあとはほとぼり冷めるまでかくまう。処遇はこれでいいいだろう、と判断した。

 細かい進捗は部下を通じて報告書を寄越せ、ということになった。


 なのにこのカラジ、それ以降も、何かと理由をつけては貴族に会いたがる。

 小貴族といえど、責任ある仕事は山積してるし、時間は有限。小者にいちいち面会(しかも堂々とはやれないから、設定するのも手間暇をとる)なんかしてられない。

 いいから報告書、って書かせた代物には誤字脱字。書記と法典の家、サフィグラ家でもさんざん言われてたのにね。相手は貴族さんなんだから……。

 そんなもんだしたら当然、こいつ仕事舐めてんな、使えねえ、という評価に。


「という訳で、今この村に向かっている、自称・私の護衛は、彼の処分も命じられているよ」


 肩をすくめる賢者の目は、とても冷たかった。憐れみはあるけど、それは温情というより……計算高い感じがする。見下ろしたさき、無音空間でカラジの口が動く。

 まさかそんなことは、と読めた。

 どこまでバカなんだろう。


 護衛の話がでたところで、ボリスが口をはさんだ。


「現在のところ、ウチの精霊使いたちが川沿いで歓待しているところです。必要なら捕まえて連れてこさせるが……」

「いや、それには及ばんよ。これ以上の手を煩わせると、借りになってしまうからね。私と供の者たちが、帰り道に≪通りすがった≫ことにしよう。」


 通りすがりに助言をすることは、私の責務であり、権利として神々に保証されているからね。


 小声で追加した賢者は、ちょっと皮肉っぽい笑顔だった。



 遅れてやってきたサフィグラ家の法典官も交えて、ボリスと賢者とで「コ=レンドリルで追放刑にはしたけど、ティーンテル法で言う所の身柄受け渡しはどうよ?」な取り決めの話をはじめてしまった。

 その間に、アタシはそっとカーリの横に歩いて行った。

 もぐもぐやってるカーリは、口を動かしながらにっこり微笑んで、片手に掴んだアダンボンを差し出してくれる。

 首後ろの触腕をだして、ひょいとつまんでみた。もともと持ってない器官だけど、動きはスムーズで、ぜんぜん大丈夫な感じ。口に持って行ってかじってみると、サクッとした香ばしさと、花の糖蜜漬けの甘い香りが広がった。

 アタシがゆっくりと菓子を味わう間に、カーリは倍ぐらいの速さで篭一つを空にする。

 空になった篭の代わりに、甘煮豆を包んだチャパティの皿が供される。それを掴みながら、カーリはこんなことを言い出した。


「あっちの方は、お父様たちに任せておけば大丈夫。わたしはそろそろお腹が良くなってくるから、一緒に寝ない?」

「寝っ……」


 一瞬混乱した。

 混乱して、変なことを口走るアタシ。


「アタシ、好きなひとが居るんだけど」


 それを聞いたカーリは、あははは!と笑い飛ばしてくれた。


「そういう意味じゃなくて普通に!あはは」


 手に持っていた最後の一切れを、素早く平らげると、カーリはまた、にっこりして。


「わたしの幻獣形態はとてももふもふで寝心地が良いんだ。けど、わたし自身はほかの誰かのもふもふを堪能したことないんだよねぇ……」


 別の欲望がだだ洩れな視線を向けてきた。主にアタシのたてがみに。


手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


 幻獣形態のカーリ、ことカーリゴンのもふもふは、脂肪を含めた分厚いお肉がぽよんぽよんとした上に、密生した柔毛が乗って暖かさを保ち、その上にしなやかでコシのある被毛が覆って最高のモフモフです。


お読みいただきありがとうございました。

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