なぜ断罪するかというと
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
現実界の方でも色々ありましてね。単にご自分の技量が及んでいないのを、周囲の教え方や口のきき方が悪いだの、環境が悪いだのと言うてお辞めになった方とか見かけましたのよ。
人間はなんだかんだ言って、どんなに状況証拠がそろおうとも
「わたしがバカで理性も倫理観も無いゴミカス糞野郎でした!」
と認めるくらいなら、
「周囲が悪い、環境が悪い、影響を与えてきた創作物が悪い」
って言い張るんですねえ。
「幻獣の姿に、真にあるべき形に、なりなさい」
「はい」
ああ!アタシったら!何をそんな素直に頷いちゃってんのアタシったら!
理屈は分かるよ、理屈は。
獣人なら。数はすくないけど、真獣形態になれる大人なら、緊急避難のために身体を入れ替えることができる。
祖獣の加護を受けていれば、問題なく身体を入れ替えたうえに、ヒト形態のほうの身体は『変化』した時点のまま保存される。ちょうどこんな風に毒を受けて、すぐには解毒ができない時とかの、緊急避難。
子どもじゃ獣化できないし、半端な加護しかないひとの半獣形態では無理っていう話だったな。
思い出しているうちに、アタシには理解できないところからもう一つの身体が重なってきて、からだの芯みたいなものがそっちにうつっていく。
同時に、ヒト形態だったほうの身体が何処か(うまく言えないけど、背中の後ろと頭の芯の中間にあるどこか)にずれてしまった。
だから今、首まわりにふわっふわの白いたてがみをなびかせて、四本の脚で立ってるのは新鮮な感じだ。
脚とは別に、胸のところに薄黄色い皮膜に包まれた六本指の手がある。
あ、たてがみの内側にも、伸縮自在な触腕があるのね。耳の後ろが痒い時に便利。
そして額から、光る細長い冠毛みたいにのびた触手……これがどこからきて、どこへつながっているのか。
アタシは魂の奥底で理解していた。
あの大きな、というか空そのものみたいな、目と、大陸のどこでも届く沢山の手。ひろくて深くて暖かい、神様。
以前に怒りを覚えた時、額が熱くなっていた理由も。
今はわかる。
この光が芽生えようとしていたから、でもアタシ自身が、『変身なんてできない』って自分のことを思いこんでいたから……ま、いいや。
今はもう本来の姿だもん。
そうして、アタシは向き合わなきゃいけない。
何も言わずに、血の流れる手を押さえてこちらを睨んでくる『異界の魂の持ち主』と。幸い、変身している間に賢者が説明してくれてて、周囲のひとたちの混乱は今のところ無い。
大きな体躯で歩き回りながら、賢者がしずかに語り掛けたのは、
・この『異界の魂を持つもの』が、賢者の滞在している村のティーンテル系貴族に取り入ろうとしてきたこと
・貴族さんの部下のひとりに、フーミンの称号もち職人を欲しがってるひとがいたこと
・悪いことに、その部下は手段を択ばないひとだったこと
・もっと悪いことに、この『異界の魂の持ち主』も、毒を盛って職人を拐すってのを必要な手段とみなしていたこと
という内容だった。
賢者の歩くスペースの外側、居並ぶひとたちの最前列で、護衛らしい二人が「あちゃー言っちゃったかあー」みたいな渋面を作ってる。
居並ぶなかでは何人かが、聞いてるうちに我慢ならなくなった様子で、何か訴え出ようとしてたけど。賢者はそれを手の動きで制して、ゆっくり歩きながらアタシのほうを振り向く。
「だがこの場において、もっとも糾弾し断罪する資格を持つのは君だ」
「そうだね」
アタシは軽く進み出ると、これまで集めた情報を頭の中で反芻した。
雑多な情報の山からでてくる結論は、
「アタシはこういうヤツが嫌い」
から始まる。
自分の選んだ仕事でうまく行かなかったからって、それを他人や環境のせいにばっかりして。さらには、楽の師匠から借りた楽器を自分で壊しておいて、嘘をついて誤魔化した。
嘘つきって、すごく良くない行為だよね。
それに、自分で努力するならするで、ちゃんと認めてもらえるまでやらなきゃ意味ないでしょ。腕前がなってない状態で、自分で勝手にこの程度でいいだろう、って勝手に納得しちゃって。そういうの、師匠の言葉で言うと「プロ意識が足りない」んだよ。
こーゆーヤツ、本当に嫌い。
挙句、幻獣のちからを知ったとたん、カーリに付きまとい行為してたし。
今回のフーミンさん誘拐未遂といい。
こいつは自分の技量で自分を裕福にするっていう考えがない。
全く逆で、自分が上手くやるために、高く売り込むために、他のひとを利用する。
それも悪いやり方で利用することを、何とも思ってない。
ざっとこういう話を、うなずいてくれる聴衆に向かって語り掛けて。
「……だから、この村にいて欲しくない。追放刑が妥当だと思う……んだけど、どうかな、お父様?」
騎獣から滑り降りた完全武装のボリスが、息荒いまま頷くのが見えた。
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
お気づきになった方もいらっしゃるとは思いますが、マーエが名前をさらりと憶えていますね。
お読みいただきありがとうございました。




