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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
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祭のどよめき

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。

頭の中では撮影済みだった『祭』のシーンです。

 アタシの持ち場は、母屋の庭に建てられたテントの下。歩いていくと、いい匂いがふわってやってきて、お腹が空いてくる。

 ここで、次々に焼き上げられる色々なマカポンやらアダンボンといったお菓子の皿を棚に並べて、沢山ある繊維紙に注釈を書いて貼って、という仕事が待ってた。きれいに書けるからというので、アタシは主に注釈のラベル書きを担当。

 種族がさまざまに居るから、素材はきちんと書いておかなきゃいけない。街のご飯屋さんと一緒だね。


 そうこうするうちに日が暮れてきた。

 音楽の家の一団と思しきひとたちがまずやってきて、テント端にしつらえられた『自由にとって食べて腹ごしらえしろ』テーブルに直行。ほとんど足を止めずに、両手で持てるだけの食べ物を掴んで、口に放り込みながら去って行った。そうする用にと、薄焼きチャパティにあらかじめ具材を巻いてナバナの葉で留めたものとか、大きさそれぞれの固ゆで卵とか、特別な効果はない普通のお菓子のほうのマカポンとかが、大皿やざる、篭に山もりになってる。

 あんまり見てるとお腹がすいて……うん、そうだよ、お腹が空いてるんだ……。

 認めたくはないけど。

 意志の力で、目線を『いま書いてるラベル』に集中してると、誰かに肩をぽんと叩かれた。


「マーエ様、少し休憩しては如何か。」


 菓子職人さんだった。もう一方の手には、ざるに載せたマカポン五つ。周りを見ると、作業してるメンバーの何人かが『腹ごしらえ』テーブルに行って、他のひとのぶんまでざるに食料を積み上げて持ってきて、こっちのテーブルに配ってまわってる。


「ありがと、集中しすぎたみたい」

「お茶もありますよ。ここの山で採れた『銀葉モンマ』のブレンドです」

「おおー」


 お茶なら大抵、錐葉モンマ。『銀葉』はそれの上等なやつ……確か葉が巻いて錐の形になる直前に収穫する、でも成熟の見極めが難しいってんでお高いやつだ。

 ありがたく頂戴していると、耳に心地よい打楽器の音が響いてきた。


 始まったな。


 笛系の滑らかなメロディーが重なってくる。最初は寝息をたててるカーリゴンをなだめるように、そして同じ旋律だけど、飾りのように笛同士が和音を重ねてきて、だんだんリズムが速くなる。

 知らない曲なのに、ワクワクする感じは伝わってくる。すぅ……と消えていく笛に、パラパラと、雨だれのような打楽器が重なって、一瞬だけ無音の時間がやってきて。

 まわりの人たちが、来るぞ、って身構える気配。


 どおん!


 地面から振動がびりびり伝わってくる。広場にいる全員が足踏みしながら、一斉に鳴らしてるリズム。空気も一緒に震えてる。

 そこで弦楽器も加わってきて、短いメロディーを繰り返し、繰り返していく。

 菓子職人が、腕の付け根を揉みながら、お茶を置いて立ち上がる。


「もう少ししたら、空に舞い上がるのが見えますよー」

「え、何が上がるって?」

「カーリゴン、壮観です。」


 小走りに駆けてく職人のむこうでは、両開きの扉があって、奥にある窯の熱気が揺らいで見える。次の焼き菓子を取り出してから、次の次の生地を整形する作業が待ってるんだ。

 遠くからの「どん!どどん!」という振動が、軽めになっていくのに耳だけ傾けながら、アタシは手を動かし続けた。

 それでも、わっ、という声には目をあげてしまう。


 視線の先、夜空の真ん中で、大きな毛玉がくるっと一回転してた。

 寝ていた姿とは打って変わって、重さがないかのように、空気の流れも無視して優雅に空中停止。大きく広げた腕の先、片手のかぎ爪には傘。

 なんで細部までよく見えるんだろ。あ、幻獣自身が光を帯びているからか、って気づく。毛の一本一本が帯電してるかのように、毛先が青白く光って、だんだん光量が大きくなったとき。


「がぁあおおおお!」


 かなり距離があるのに、ビリビリきた。同じように吠え返す聴衆の声が、かき消されかけてるくらい。

 咆哮に負けないように鳴らし続けてる、鼓動のような打楽器にあわせて、山の輪郭が、ぶわっと揺れる。揺れるたび、樹木が伸びて枝が広がって。拍子ひとつで十年分は成長してるんじゃないかな、というのはアタシの勝手な推論。(あとで、曲が終わるころには三十年分くらい育ってるんだと教えてもらった)

 ふわぁり、とカーリゴンが下降して行く先で、はじけるように花が開く。

 迎えるように伸びた樹木の梢に、かぎ爪でちょん、と触れて、またぶわっと飛び上がる。上昇しながら、クルクルッと回転して、ふわりと空中に停止して。

 咆哮。

 広場からのお返しの声。

 樹木は一拍子で花咲いて、一拍子で葉を散らし、また伸びて、わさ、わさ、と成長していく。


 一方で、菓子職人さんは最後の大奮闘、とばかり両腕に耐熱ミトンをはめて熱々の鉄板を運んで、戻って、運んで、棚にずらずらーっと並べてきて。アタシはそれを数えて、ラベルをつけて。

 もう音楽や幻獣とか構っていられなくなったのだった。


手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。

実在する曲で言うと、『カビゴンのふえ』に『ゴジラのテーマ』をユーロビートアレンジしたような……。検索してみたのですが、ゴジラのダンスアレンジってありそうで無かったです。


お読みいただきありがとうございました。

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