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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
167/178

顔は覚えきれなくても

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


マーエを警備担当で割り振るにしても、顔を覚えきれないから外周り(村人とそれ以外を判別できないと、東の蛮族に対応できない)には回せない。悩ましいところです。

 蛮族は見つけ次第殺す、とは言うものの。

 実際のところ、アタシには出会った相手を『この村の住民か、余所者か』という見分けできない。

 という訳でアタシはメバルさんと共に村のはずれ、幻獣カーリゴンの警備担当に割り振られた。


「特に、カーリが変身を解いてひと形に戻る、その直後は注意して下さい。」

「力を使いきって弱くなってるから?」

「いえ、その……」


 テイ=スロールが、「聞いたところでは、ものすごい空腹に襲われ、出されたものはとにかく口に入れてしまうそうです。」と小声で教えてくれた。

 あー、そういうの覚えがあるぞ。とにかく腹ぺこで、目に入ったものは何でも掴んで口に入れたくなるよね。おまえは幼児かって、同期に笑われたもんだ。

 幻獣のちからを発揮した直後なら、そりゃもうフラフラだろうな。


「マーエにお願いしたいのは、この時の食べ物を渡す役目です。フーミンの作った菓子以外は、与えない。これを守っていただきたいです」

「あの辛くて甘いお菓子だね」

「はい。種類によって効能は異なりますが、見た目はほぼ一緒です。種類ごとに香りが独特です。」

「どんな匂いがするん?」


 て聞いたら、ウィザードは、


「すみません。僕にはよく分からないのです。甘い花のような香りや、黒ガイナンに草を混ぜたようなもの、そういう特徴あるものは分かるんですが……獣人ほどの嗅覚はないもので……」


 ちょっと残念そう。まあ種族特徴(ニンゲン)だもの、仕方ないよ。

 そこから警備担当がアタシとメバルさん以外で誰がつくかとか、山のほうは魔獣が出る可能性が高く、ただでさえ巨樹だらけになってしまうから勝手の違う森で事故も起きやすいって話になった。

 そのとき、気配の静かなひとたちが何人も、部屋に入ってきた。

 見覚えのある、夜空色の装束。するすると、水が流れ込むようなひとまとまりの動き。あっ、シノビさんたちだ……まで認識したとき、アタシはある人物に気づいた。


「……リクミさん。」


 時間の流れが急に緩やかになって、いくつかの事がほぼ同時に起きた。


 アタシは見つけた人物に向かって突進した。

 周りの、静かな気配のひとたちはゆっくり避けてくれたけど、アタシにはそれさえじれったくて、空■を踏むことで■を跳んだ。

 誰かが「しゅくちのほう?」とのんびり呟くのが、後ろの方に聞こえて。

 目指す人物が、一瞬びくっとして逃げの体勢に入ろうとしたところを──袖、


「つかまえた!」

「違いますです!」


 声変えてても分かる。だって声で判別してないし。

 だから、アタシは袖をぎゅっと握ったまま、たたみかける。


「いいや。リクミさんでしょ。間違えてないよ!」


 背後で時間の流れが元に戻って、ひそやかに、シノビさんたちが動揺した気配が伝わってきたんだけど。それはどうでもよくって。

 断固として逃がさないぞ、という意志をこめて、木製のお面を睨みつけてる。


「…………」

「…………」


 相手が息を吸って、一拍。すっとぼけようかどうしようか迷うような、そんな一拍があって。

 はあ、と息を吐いて、彼は仮面を外した。


「どーして判ったんだ……?」


 眉尻を下げた顔みて、直観的中を知ったアタシはにんまりしながら、


「ないしょ。」


 と勝利宣言したのだった。背後でシノビさんたちがさらに動揺した囁きを交わしてるのが分かったけど、これだけは内緒にしておかなきゃ。


(顔は覚えきれなくても、木目は覚えてるもんね!) 

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


リクミさんとの再会。でも本作はラブコメじゃないから……ここから甘くはなりませんのです。


お読みいただきありがとうございました。


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