説得されたがってるひとが居ます
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
マーエ自身は、もうとっくに心を決めてるというか、説得材料さえそろえば即決していい気持ちなのです。
言っちゃった、しまった、って顔になってるヨアクルンヴァルを眺めてると、どうにも口元が緩んできて仕方ない。
だってねえ。
「ねえヨアクルンヴァル。ここにー、説得されたがってるひとが居まーす!」
はいっ、て手を挙げると、何言ってんのアンタって凝視されたけど。
アタシの本心なんだ。
「他に説得材料はないですかー?」
「や、あの、あるっちゃあるけど、アンタそれで良いのかい」
「いい!」
「即答かい……」
はあ、とため息つくドワーフ。
ふふふ。アタシの勘が告げている。
ヨアクルンヴァルは、アタシを説得できる材料、それも『即決』させるに足る情報を持っている、と。
「ねーねー」
「うるさいよ、これ以上アンタを捻じ曲げるよなこたぁ、言いたくないんだよっ」
「こっちは説得されたがってるって言ってるでしょー、ねーったらー」
「あーもう!」
おっと、これ以上しつこくすると怒らせちゃいそう。というか、「怒ってる」態度を使って、完全黙秘されてしまう予感がして。
作戦を変更。
「ていうかね、ヨアクルンヴァルー?」
「なんだい」
「もしも、だよ? 本当にアタシが自由に所属家を選んだとして、誓約立てた相手がク=タイス家の≪白≫だったらって考えてみてよー。」
誓約。神様にかけて誓ったら、それこそ天罰で心臓が破裂しても文句が言えない。大抵は、誓約立てたときの証人になった神職にばれて、その神職から然るべき違反の罰を受けることになるんだけど。神様にかけて、とか存在の根っこにかけてっていう誓いは、ひとじゃない存在──精霊とか、異世界存在とかにも通用する。幻獣だってそう。
幻獣がひとの法を超越できるからって、何でもかんでも好き放題はできない。法律に縛られないかわり、『存在の根幹にかけて誓います』とか『心臓にかけて』って類の誓約で自分を律する──あるいは誰かや何かに縛り付けられることになる。法や佛理は超越できるれど、神理からは外れられない。
いろいろ想像しちゃったヨアクルンヴァルが、難しい顔になってるのを十分確認してから、アタシは言葉を紡ぐ。
想像の中身を具体的に。
「色々な悪事の噂や、誰かの命や健康を犠牲にしてでもって案件に、アタシの名前がでてくるんだよ……」
「うっ」
「その度にヨアクルンヴァルは思うんだ……『ああー、あの時知ってることを全部、マーエに話して判断させていれば』って……」
「ううぅっ!」
悩ましい、よね。
すべての責任ではなくても、大事な情報を伏せておいた責任はある。それが事実になるかどうかじゃなく、ヨアクルンヴァルにとってどういう意味を持つのか、という話は、これ以上続ける必要はなかった。
自棄ぎみに教えてもらった情報。
スカなんとか家のシノビに、あのひとがいる──即決材料!
「ボリスのことを『お父様』て呼ぶのか『パパ』呼びするか……」
「話が速すぎないかい?」
門に着いたところで、ヨアクルンヴァルは用心深そうに付け足した。
「スカラ■■家のシノビ達は意図的に姿かたちを似せてるんだ。ただでさえひとの顔を見分けきれないんだろ。見つけきれるもんか、心配だよ」
「んー、それは、まあ。……見てから考えるよ」
「前向きだねぇ!」
あっはっは、と笑ってくれたけど。
アタシの内心は、本当のところ、「どうしよ、どうしよう」ってうろたえまくりだったのだった。
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
マーエ「ねーねー、ボリスは『お父様』呼びと『パパ』呼び、どっちがいい!?」
ボリス「止めてください……マジ無理……」
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内心、自分が養父を呼んでたように『父上』とか言われてみたいなと思ってたりしそうです。
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