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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
162/177

無言の宣言

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


久しぶりの更新です。ちょっと息抜きお昼ごはん回。

 お昼ごはんは、屋敷前の広場に、村のひとたちが交互にやって来て取る感じになってた。

 丸太を転がして大きな板を載せた簡易テーブルや、丸太に各自、外套を敷いて座るようにした座席があちこちに散ってる。木材を組んで布を張った日よけの下に、湯気を立てる鍋と、山のようになった薄焼きチャパティとかがあって。

 荷物で予想してたとおり、テルチワーン肉主体で食事が振る舞われてた。衣をつけて揚げた肉、脂と肉をデンチャ芋で煮込んだこってりポットシチュー、薄切り肉を燻製にした三種類くらいのソース、香草きかせた塩、などなど。

 アタシもそっちに行くつもりでいたら、レーアちゃんに手を引っ張られた。こっちだよ、と言われて案内されたのは、簡易テーブルだけど布をかけてある、いかにも『上席』ですって体裁のところで。

 そこにヨアクルンヴァルと、機人のお兄さん、書類山盛りのトレイを置いてるテイ=スロールとかが座っていて、アタシたちに手を振ってくる。そして空席はいくつもあるのに、レーアちゃんはテイ=スロールの隣に座った。懐いてるなあ。

 振る舞われてるのは他と同じ肉料理だけど、こっちは彫刻のついた木皿で提供されてきた。

 薄焼きチャパティに燻製肉と、新鮮な野菜を挟んで塩を振って、等々の指南を受けながら、自分用のを作ってると。レーアちゃんとテイ=スロールのやりとりが耳に飛び込んできた。


「全部おいしい! テイ兄さま、あそこの燻製もとって!」

「はいはい」

「食べさせてー! はい、あーん!」

「仕方ないですね、まったく」


 片手にチャパティ、もう片手にポットシチューの入った鉢を持ってるレーアちゃんの懇願に、テイ=スロールが手を伸ばして薄切りの燻製肉を与えてる……んだ。

 だが、アタシは見た。ご満悦の笑みで燻製をほおばるレーアちゃんの目が、一瞬だけ、強い光でもってテーブルについてる全員を見渡したことを。

 それを察したのはアタシ一人じゃなかったようで、「分かってるよ」と言う感じに頷くひとや、「どうぞどうぞ」とばかりに小さく微笑むひとたち。


「おいひかった! 兄さまもあげる、あーんして! はい!」

「ええと……はい?」


 ひと匙のポットシチューが、怪訝そうにしてるテイ=スロールの口に捻じ込まれた。ちょっと目をぎょろつかせながらも、ウィザードはもらったシチューを飲み込んでる。

 その一瞬、レーアちゃんの目が光った。

 意味するところはただ一つ、


「彼は私のものだし、私は彼のものよ」


 だ。

 獣人同士なら結婚のお祝いで絶対やるやつだもん、そりゃ理解するひとの方が多いって。


 ただ、気になるのはテイ=スロール。飲み下したあと、ぼやくように呟いてる。


「困ったものです。欲張ってあれもこれも手に持つから、こういうことになる。」


 今、「私の男」宣言されたの理解してないくない!?

 大丈夫かな……。


 不安になってきたんで、ご飯あと、それぞれお茶をもらって席を自由に移動できる時に聞いてみた。「レーアちゃんはさ、ウィザードと結婚する気なのかな?」って。

 そしたら、肩をすくめて。


「そうかも知れません。けれど、5歳の女の子ですよ。今、結婚をどうこう言ったところで、適齢になる頃は違うことを言っている可能性があります。その可能性はとても高いでしょう。」

「それはまあ、そうだけど」


 ウィザードは断言するけど、あの目の光は尋常なもんじゃなかったし。何より、レーアちゃんの魂というか、あの小さい体にはもう、一人前の大人の覚悟が備わってるように思えるんだ。


「そうだけど、テイ=スロール自身はどう考えてるのさ」

「どちらでも構わない、ですかね。」

「へ?」


 どっちでもいいよってどういうこと。

 肩をつかんで問いただしたくなるのをこらえていると、ウィザードは自分のお茶を見下ろすようにして、話してくれた。


「僕は自分の向き不向きを理解してます。研究にしろ、迷宮探索にしろ、チームに貢献できる方策を考えて、試して、難があれば修正し、上手くいけば活用し、とやるのが楽しくて仕方ない。その一方で、自分以外のひととの生活というか家庭というか、人生を構築するのはとても苦手です。」

「はあ」


 孤児院にもいたなぁ、そういう同年の子が。「あんたまだ、孤児院の外のひとに夢みちゃってんの?」あっ、嫌なヤツのこと思い出してしまった。


「スロール家は、傍流とはいえ貴族家ですから、家の都合でどこそこの誰と結婚せよ、と言われれば従います。もっとも、そうしたところで、僕が変われる予想は全くの無、ですね。

 家族も分かってくれてます、似た者同士なのですから。

 ですから、結婚を考えるとしても、『僕に似たひと』を選んでくれるだろう。そう、予想していました。」

「おや。『いました』は過去形だね?」

「ええ、そうです。レーアが来てから、世話をするようになって、あんな感じで懐いてくれるようになって……少し、考えは変わりました。

 自分と同じような誰か、ではなく、レーアのように『僕のような性格を分かった上で無理に変えようとしないひと』なら、一緒になるのも悪くないなと。」


 あ、なんかいい顔してるな。

 これって歳の差はさておき、テイ=スロール自身も憎からず思ってるってことなの?

 ことなのか?

 黙って続きを待ってると、彼は手のなかのお茶を一口すすって、微笑んだ。


「僕よりも、レーアの気持ちのほうが大事です。もっと大きく、せめてあと10年は経たないと、結婚を本気で検討することはできませんね。」


 全然思ってなかった。

 これは「幼児を微笑ましく見守るお兄さん/お父さん」の顔……! 孤児院の育て親たちで見た覚えあるぞ。

 でも10年くらいであの気合というか、宣言っていうかは、変わらないと思うなあ。


 10年後にも同じような宣言してるレーアちゃんと、「困ったものです」て言ってるウィザードが容易に想像できて、アタシは自分のお茶を飲みながらちょっと笑った。

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


スロール家の他の面々

「テイに結婚とか無理じゃろ……、研究職とか冒険者で活躍してる者は他にも居るし、兄姉たちが親族増やしてるから、本人が結婚したいとか言わんかぎりは強制せんとこ」

と思ってました。

一方のレーアちゃん、見た目は幼女、中身は小さい神様ですからね。神様にロックオンされたら只のひとはどうしようもない、邪魔しようもんなら神慮めでたくおなりになるかもしれない。


お読みいただきありがとうございました。


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