ストリートに安全は期待しない
手持ち、残り銀で656枚と銅0枚。
予告どおりストリートキッズとの遭遇です。
お土産をベルトに括り付けて、通りに出る。
陽が傾いて、そろそろ仕事あがり職人たちがでてくる時間。雪は降ってないけどすごく風が冷たい。外套の前合わせをしっかり閉じてもひんやりした空気は足元からはいあがってくる。
宿にもどる道筋は、いくつかある。万神殿に寄ってからでもいいし、状況が(つまり財布が)許せば、小劇場に寄って何か見たりするのもいい。
銀貨が増えた、重たい財布はうれしいけど……早速狙われた。
「おっと」
足を引っかけて転ばせたところを、腕を背中側にねじる形で固定し、さらに膝で背中と尻の上をおさえる。足をバタバタしてもムダなのだ。あったか財布を狙ったスリは、汚れた布を巻きつけたがり痩せの子供だ。
「こらガキー!逃げだすことはできんぞー!」
「わああ、わああん!(安全な場所に案内するよ)」
大声が途切れたとき、すばやく囁かれて。
アタシはスリを引っ張り起こしながら、自分も大声を出す。
「おまえはどこの子だ!さあ家に案内しなさい、親に根性叩きなおしてもらおう」
揚げ物屋台の売り子や、荷ロバ連れの通行人、薄焼き麺麭を持った職人や、かごを抱えた人が、「なんだなんだ」「スリか」「ああーバカだ、バカだね」と囁きかわしているのが耳に届く。
やりとりの背景で、立ち止まる複数の足音。
(素人臭いけど、素人っぽさを演出したいプロも、同じことをする可能性があるんだよな)
がり痩せの子供は、嘘泣きしながらも、腕を差し伸べて路地の曲がり角を示す。
「うぁわああああん、カンベンだようー、家はあっち、えっぐ、うえええぇ」
「ほらしゃんと立って」
見た目ほどガリじゃないのは、布の下の筋肉の動きで分かった。
(あなたが≪街の子≫?)
(そうだ。■■■さんに聞いたろ?)
僧侶の名前らしきイントネーションがでて、アタシは無言でうなずく。(言われてたけど実際見るまで、意識になかったとか言えない)
アタシが子供に案内されて歩き出すと、血を見るような騒ぎじゃないと分かった見物たちもそれぞれやっていたことに戻りだす。立ち止まった足音がついてきてる感じ、目線が注がれている感じは、まだ首の後ろに漂ってるけど。
曲がった先は、普段行ったことのない路地だ。馬や小さな乗用動物のための革製品を売る工房が角にあって、その隣は背の低い薄黄色の土壁が続いて、ひろい門がある。
ぐずぐず泣く演技をしながら、子供がその門へ入れ、と手で合図した。
門のわきに、黒いインクで書かれた看板がでてて
『汗と筋肉は裏切らない』
何それ?
手持ち、残り銀で656枚と銅0枚。
汗と筋肉は裏切らないのです。そういうモットーの場所です。Sudore et musculus non produnt.(スドレ・エト・ムスクロス・ノン・プロダント)。
お読みいただきありがとうございました。




