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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
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証言あつめ・その二

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。

どうでもいい世界設定:娼(男女とも)は地位の高い職です。この大陸では獣人が多いので、経産婦は超魅力、セックスアピール要素です。

シーズンに、必ず意中の相手と両想いになれる保証なんてないんですから。そこを埋めて欲しい需要があるなら供給もある。身体、精神とも高技能が求められる職なので、十一人どころか百一人の才くらい。さらに聖娼ともなれば当然、神職としての技能も求められます。

証言そのに 神職と祖獣崇敬の家のひと(ワエカさん)


 立ち居振る舞いがやたら綺麗で目を惹くなぁって思ったら、≪千匹の仔を孕みし黒山羊≫さまの聖娼さんだった。しかも何回も子どもを産んだことあるって自己紹介されて、そりゃあ性的魅力抜群ですよね、ええ、よく分かります。ふくよかなものを胸にお持ちで。

 って、胸ばっかり見てたわけじゃないよ? ちゃんと話も聞いたよ?


 このひとも、■■■のことは否定的に見てた。さっき話した楽師が「カーリが居るって知ってから移動したんだ」と言っってたことに触れると、


「ああ、アイツね。そもそもが嫌なやつ。自分のできないことはどこまでも理屈をこねて擁護するくせに、他人のことは何かしら見下すのよ。何せ聖娼に向かって、二流の店のオンナ呼ばわりしたんだから」


 ふんっ、と鼻息の荒いこと。

 そりゃあ怒るわ。


 花街かがいにもお店の格ってものがあって、『一流の名店』は各宗派の聖娼が男女とも全員そろってるところ。紹介が無いとまずお店に入れない。

 一流の看板背負った聖娼が、何を着てたとか、どれそれの香を使ってるとかで流行が左右されるし。絵入り『名鑑』を発行したら、上製本は貴族家や神殿が予約を押さえちゃって、一般人はキャンセル待ちが普通。繊維紙の草子でも飛ぶように売れるし、神殿非公認の創作もの(巧妙に名前や描写を変えてるけど、有名な聖娼モデルにしたな、って即バレるやつ)はそこらじゅうにある。

 二流の店だって、普通のプロが大半だけど聖娼が何人か居れば、そう言われる。お金さえ積めば何とかなるけど、積めなきゃ「爪の先さえ拝めない」んだ。

 以前にアタシが引きずりこまれそうになったのは、いわゆる三流四流どころの『娼窟』。待遇は良くないらしいけど、だとしても、働いてる者を侮辱したら「お客さんこっちでお話ししましょうか」って用心棒に怖いことをされるトコロで。

 いずれはアタシもお世話になる……日がくるのかどうかはさておき。

 高い地位の職業人に向かって「股っぴらき」だなんて、そんな侮辱、草子でもよっぽどでしか見ない。

 二流の店のオンナ呼ばわり、ってずいぶん優しく言い換えたもんだ。

 

「ま、泣いて縋ってもなびいてあげないって決めたから、もういいけど?」


 おぉ……、微笑みからイイ女の貫禄を感じるぞ。

 気圧されつつも、相手が話してくれるのを待ってるよ、って頷いたら。「うふん」って笑いがひとつ返ってきて。


「カーリちゃんがこの村に来て、ね。本当に良かったのは、特別な力を持った幻獣だからじゃなくって。祖獣崇敬者だからだと思うの。」


 と話しだしてくれた。


 ■■■がやってくるより何年も前、カーリさんが質素、ていうかボロボロの巡礼の姿で、護衛についてくれた友人と二人、コレンドリルにやってきた。他所の神殿や祖獣崇敬のコミュニティで話を聞いて、どうしても此処に来たかったんだって。

 この村で崇敬されてる祖獣は『ネコ』、七匹も居る。あと少ないけど『ヤギ』も居る。

 その『ネコ』に、どうしてもお仕えしたいんです、って宣言したカーリには、当然、例の『村のしおり』を渡してのテストが行われた。

 そして、彼女は『異界の魂の持ち主』と即座にバレてしまった。


「汝、異界の魂を持つものなりや」


 と問われて、そこで変にごまかしたりせず、


「はい、そうです」


 と答えたのには、大した度胸だと感心したひとが半分。残り半分はこんな危なっかしいやつ、殺すか放逐しろよ、と思ったそうだ。

 話してくれる聖娼のひとは、1年前にこの村に来たから、その騒ぎについてはどっちとも言えない、みたいに曖昧な(そして魅力的な)微笑を浮かべてた。


 さて、カーリが語ったところによると。

 まずティーンテルで生まれた。

 テルセラの我が子をみた両親が『貴族家に取られてしまうかも知れない』と危惧してク=タイス領のすごい遠縁頼って引越しした。


 あー、あの都市(ティーンテル)の貴族ならやるよね。お貴族様が「珍しい者が居るから欲しい」って言うと、臣下が攫ってでも連れてくる。でもって何か係争になっても、絶対に膝折らないで臣下に首切らせるんだ。


 引っ越ししましたので、これでカーリの家族は幸せになっ……たかと言うと、そこは言い切れない。収入が安定しなかったらしいし、カーリ自身の問題があった。

 年に一回か二回、すごい熱をだして寝込むのだ。そして、2日くらいするといつも通りに起き上がる。

 でも、いつも通りなのは身体だけで。精神のほうには、『この世じゃない世界で、自分じゃない女の人になって、生きてた』記憶が刻み込まれた。

 幼いころは、(本人が言葉にしづらかったのもあるし)変な夢がずっと記憶にのこってるなあ、で済ませてたけど、そうも言ってられなくなったのは10を過ぎたころから。断片だった記憶が、どうやら一人の人物の生涯だってことがはっきりしてきて、そしてカーリ自身が異能を発揮するようになったから。

 カーリが踊ると、植物が変になる。育つはずのない季節に伸びまくったり、すくすく伸びるはずの季節に実が熟しすぎて落ちてしまったり。最初は、暑すぎて枯れたとか色々理由つけていたけど、「これが起きるのはカーリが居て騒いでる時だけ」って他の人にも分かってきたら誤魔化すのも難しくなって。

 両親は改めて引っ越すか──そうなったらもう頼れる親族とかいないから、ただでさえ不安定な収入はもっと厳しいことになる──カーリを離縁して≪万神殿≫の慈悲の手にお任せするか、というところまで悩みに悩んでた。


 ティーンテルから出た時点で、ク=タイスのどこか≪万神殿≫に置いておけば良かったのに。


 とか思っちゃうのは、アタシが≪万神殿≫育ちだからですかね、うん。まあ、正直に言えば孤児院のことをひいき目で見てる自覚はあります。

 ここからは想像でしかないけど、血の家族ってのは、一緒にいる一日が、二日になり、三日になるだけで、もう子と離れたくなくなるんだろうな……。それに、遠縁の小地主という、「伝手」があるなら、そこで頑張れば何とかなる、みたいな希望もあったんだろう。希望があれば、そっちにしがみつきたくなる気持ちは分からないでもない。


 とか考えてると、聖娼の話はカーリの選んだ道に進んでた。


 カーリだって、子どもなりに考える頭はあったし、何より持ってる『記憶』……40年くらいの異界で過ごした女のひとの経験……にも手伝ってもらって、別の選択をした。


「祖獣崇敬の強い想いを持っているので、少し早めに自立して巡礼の旅に出ます」


 名誉を保った家出よね、という聖娼さんのコメント、全くその通りだと思う。


 最初は、北のほう(この村から見ると北西の方)にある都市『ビアンフー』に向かう巡礼団に加わった。ビアンフー湖畔の信仰団都市だ。祖獣『コウモリ』を大事にして、五つの福を信仰信条にしてる、だったかな。

 この巡礼団の中心は、引退した冒険者(お金持ち)で、途中で誰が加わっても良いよ、飯と宿くらい面倒みるし、という寛容の徳高い人物だったのが幸運だった。


「年端もいかない女の子が一人で!?」

「そりゃあ大変だねえ、ご飯食べてる?」

「靴とかもっとちゃんとしたの履きなさいよ! ほら、古いので良ければ」


 みたいな感じで。お世話してくれる年長者がいっぱいいた。

 それでビアンフーまで行く途中、加わった若い戦士が友達になって。

 ビアンフーに着いて、祖獣が『コウモリ』しかいないってことがハッキリ分かって(『コウモリ』崇敬を事前に聞いてても、実際そこに行ってみよう、他に祖獣が居るかも知れない、で探しまわったんだって。けどやっぱり居ない訳だよ)がっかりしたけど。

 信仰団の街だけに、根気よく調べさえすれば、他所の祖獣崇拝の噂も耳に入るってもんで。

 アラカチャ芋の根を手繰って別のアラカチャを土から掘り出すように、祖獣崇拝のある村だの、独立系農場だといった小さいコミュニティをたどっていった結果。仲の良い友人と一緒に、コレンドリルにたどり着いたって訳。


「そういう訳で、カーリは当家の一員になったの。でもあの腐れ棍棒の■■■が絡むようになってね」


 男性器にスゴイ罵倒を浴びせつつ、聖娼さんは形のいい眉をひそめる。

 まだ若いし、正直に告白したからってことで、神職と祖獣崇敬の家に『見習い』で入ったカーリは、本人申告のとおり、熱心な祖獣崇敬ぶりだった。

 カーリが最初から、自分がテルセラで、幻獣に変化すると異能でもって、植物に異常がでるかもって話してくれたことも、好印象だったそうだ。最初に「度胸がある」と評したひとたちは、「正直は美徳」と加点したし、「危なっかしい奴」と思ったひとたちも、「馬鹿がつくほどの正直だっただけかも」と、少し柔らかな態度になった。


 でも……『異能』で、『植物に異常』、ねえ?

 レーアちゃんの言葉を思い出した。


「カーリがカーリゴンになって、すっごいものを見られるのよ!」


 アタシは言葉を選びながら、質問を作る。


「カーリの異能って『植物を凄い速さで成長させる』ですか?」


 ふっと吐息が載るような、声のない笑いが返ってきた。


「ご明察。ヒト形態でも、感情が昂ると異能が飛び出すけど、幻獣のときは壮観の一言よ。この村の林業が大いに潤ってるのは彼女のお陰」


 やっぱりね、と納得してると、


「それを知ったとたんに、同じ国で生きた前世の記憶がどうこう言って、あの■■■が求愛の舞をやるようになったのだから。打算で動いてるのが見え透いて、笑っちゃうくらいだわ。強いちからの幻獣を手に入れて、何をするつもりだったのやら。

 カーリはとにかく『ネコ』の為に生きていたい。前世とやらの記憶こそ神々無き世界のものでも、その志は濁りのない、善なるもの。魂の清らかさは、行いに現れているわ。」


 さすが聖娼さんだ、神職としてひとの言動を見定めるのもお手の物と来ている。

 

「シーズン外でも合意なら良いけど、カーリは■■■の求愛に興味ないし、正直迷惑してたわ。目に余ったんで、言ってやったのよ。

『あんた、カーリの何が好きなのよ?』って。そしたら、ふふふっ」


 本当に可笑しそうに笑い声を立てるのに、細めた目の奥が冷たく光って、アタシは胸がドキッとした。


「運命だの、前世が同じなんだから惹かれるのは当然だの、結局『カーリのどんな所に惹かれてる』かって具体的なことは全然言えないんだもの。おっかしいったらないわ。

 挙句、こっちのことを二流の店のオンナ呼ばわり」


「うわぁ……」


「同じ神々無き世界の魂でも、下劣な■■■は、いい枝を集めた巣で自分を大きく強く見せようとする虚飾の悪徳(ヴァナグローリア)そのもの。その言葉にまことがなく、その行いに義がない。

 わたしは推測であっても虚偽を語る訳にはいかないから、言わないでおくけど。事実なら言えるわ……ふふふ」


 意味深な笑みってヤツですね、聖娼さん。

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。

虚飾の悪徳ヴァナグローリアは、七つの大罪の原型となった『八つの枢要罪』からです。と言ってもこの世界は価値観が大きく異なるので、無い罪もあります。特に「色欲」は否定されません。


黒山羊様「男女和合は尊い。仔は沢山作るべし。どーしても育てきれんなら神々の慈悲の手に委ねよ」


女神の聖なる欲望が無かったら、誰も仔を作らなくなるので、≪千匹の仔を孕みし黒山羊≫さまは大宗派です。(恋愛&結婚の相談、性教育から妊娠&親子教室、孤児院経営、養子縁組あっせん、一流の名店/二流でも名店への聖娼を配属など)


お読みいただきありがとうございました。

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