証言あつめ・その一
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
十一人の才:十人に一人いるかどうかの才のこと。
同じような表現で、百一人(百人に一人いるかどうかの才)やら、五十一人、千人、という言い方があります。
重要なのは、才能の大きさや凄さではなく『必要とされる時、場所に、その才は居るか』です。
『居ない才は十分の一才に劣る』『千一の才も、合わねば俗人百人に劣る』などの慣用句があります。
尖ってる才能に対する優遇、欠点に目をつぶろう等はありますが、才だけであらゆる欠点を受け入れてもらえるほど、他のひとたちは甘くありません。なぜなら他のひとだって、『自分なりの才』をもつ才人だからです。
証言そのいち 楽師(名前は紙に書いてもらった。ポポタン)
拍子全てをリードする太鼓の担当。■■■の師にあたる。が、そのことを確認したら「一応だ、一応」と嫌そうに言われた。
■■■がこの村にやってきたのは、ス……何とか家経由なんだって。ク=タイスの街で単発のクエスト募集をしたときやってきたんだって。
そのまま迷宮探索に励んでおればよかったのに、と楽師は言ってた。
ス……家にくっついて村まで来て、そっから各家を転々をした挙句の、今の『楽師』になったまでの話を、すごく嫌そうに話してくれた。
『村見学のしおり』で説明された通り、名のある家はいくつかある。名前は憶えてないけど、食料生産に携わる家、林業と工芸の家、武門でかつ迷宮探索のス……なんとか家、書記と事務作業の家、神職と祖獣崇敬を主にする家。音楽や踊りと、なんとかマスタリーって特定の幻獣を扱う家(楽師たちはこの家の所属)とか。
この村にきた■■■、最初は計算や筆記が得意っていうので『書記と事務作業の家』に入らせてみた。確かにできることはできるけど、正確性に欠けるし検算も面倒くさがる(そして検算それ自体も正確じゃない)、文書のチェックと清書をさせようにも交易語の字が汚い。しばらく文字上達のために筆記を集中してやらせてみるか、繊維紙は先行投資だって練習期間としていたところ、他の家に行きたいと言い出した。
神職と祖獣崇敬の家に、カーリが所属してるのを知ったからだろ、と。その辺は他家のことなので詳しくないけど、カーリにすげなくされたからこっち来たんだろ、というのが楽師のコメントだった。
「あいつぁ譜面も読めるし、相応に運指もできるが、何かと見くびってるのだよね。ここまで出来た、ならもう頑張らなくていいだろう、と考えてしまっている。その『できた』の基準がまず変なのだがな。たとえ百匹の魔獣に取り囲まれ、周囲で武人が闘い、怪我人が呻いていようとも、安定した演奏ができてこそ『できた』というべきなのだ。安全な村の囲いの中で、特に観客を前にしてるわけでもなく、練習で『間違えずにできた』ことは、何の達成にもならん。
つって指摘したら、自分は武門じゃないだの、ぐちぐちと不平を述べておるばかり。
今後も楽師としてやっていけるかどうか、私ははなはだ疑問だね。」
「それって異界の魂の持ち主だからかなぁ?」
「いや、単に嫌なやつだからだろ。異界の記憶と魂を持ってるっていうのでも、カーリは熱心な祖獣崇敬者だし、本当にいいやつだ。
あいつと実際に話をしてみて、感じなかったかい?」
言われそうなことは予想してたけど、一応、よく分からないやって顔で聞き返してみた。
「何を?」
「あいつぁ自分以外の者全てを軽んじているのさ。そのことを隠そうともしていない。あー、隠してるつもりかも知れんが、言葉の端々やら態度やらから出てるのが皆に丸見えなのが、分かっていないのかもだよね」
その後しばらく、『あいつの師匠になったけど、貸した楽器を破損された、自分が破損したくせに最初から壊れてたのどーのと嘘言い訳をこねくり回された。正式な養子縁組をできるだけ先延ばししたい。と言っても、小細工の必要もないくらいだ、やつの腕前は十一人の才以下』みたいな話につき合わされちゃった。
アタシとしては(十一の以下じゃあなあ……)のくだりで楽師に同情を禁じ得なくなってた。
十人に一人いるかどうかの才すら無いとしても、努力すればいいのよ。そりゃ努力したって伸びないかもだけど、教えてくれるひとだって望んで師を引き受けた訳じゃないんだし。
……考えてると苛々してきた。
せめて、楽器を壊しちゃったくらいは正直に言えばいいのに。
それすらしないってのはどうなの。
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
その二もあるのですが、長くなったので一度ここで切り上げました。
証言あつめが続きます。
お読みいただきありがとうございました。




